ほーんといけ好かない男だよねぇ。 泉から出て、ぷるぷると耳と尾を揺らし水を飛ばしている子狐の隣にふてぶてしく佇む「龍神」とやらは。
「ねぇ、旦那どう思う?」 「うむ…」
突然泉から現れた男は己を「龍神」だとのたまった。 龍神てのはその名の通り龍の姿をしているんじゃないの。 それなのに目の前にいるのは龍などとは程遠いなりの優男だ。
「花が…ああいっているのだ、危険は無いだろう。」
「そーだけどさー。」
いけ好かねぇと同時に胡散臭いと佐助は思う。 そして稲荷が必要以上に懐いているのがとても気に食わない。 龍神だか何だか知らないが、人がやっとの思いで手に入れた獲物を横から我が物顔で掻っ攫われた気分だ。
言い様の無い苛立ちに佐助は息を詰めた。 早々に信用してしまった幸村にも釈然としない。
「なぁ、りゅうじんさま!」
「Ah?」
「ほんとに雨ふらせてくれんのか!?」
「お前が嫁に来るなら降らせてやってもいいぜ?」
「寝言は寝て言ってくれる?」
「花を嫁に貰うのは某でござらぁぁぁぁぁぁ!!」
「旦那うるさい!!ってかそんなの俺様ゆるしません!!」
「人間の出る幕はねぇぜ。」
「黙ってなよ、蛇!!!」
「てめぇ政宗様になんて口の利き方しやがる…!」
こんな軽い男が龍神なんて、俺様は信じない。 何も知らない稲荷にどういうつもりアンタ。 一歩間違えば犯罪だから。
「りゅうじんさま、りゅうじんさま。」
「どうした花。」
「おれ、いなりだからりゅうじんさまとはけっこんできねぇよ。」
「安心しろ種族は大した問題じゃねぇ。」
「大問題だよ。」
花ちゃんの襟首を掴んで懐に寄せた。 不思議そうに見上げる大きな目には応えず、髪を混ぜるとまだ湿った耳がぴくぴくと揺れる。 それを見ながら可笑しそうに笑う男が忌々しい。
ち、と舌打ちをして佐助は政宗を睨みつけた。
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