「きゅぅ?」 「何もしねぇよ。」
でかい目で見上げてくる稲荷の頭を撫でる。 少し濡れていたが毛並みのよい耳はもさもさして、乾くとそれなりに触り心地が増すのだろう。 是非堪能してみたいもんだ。 「きゅぅ」と小さく鳴いて目を細めた稲荷に思わず口元が上がった。
「はん。」
そして正面の射るような視線の痛ェこと。 てめぇらのものでも無かろうに。 く、と笑いを噛み殺してもう一度稲荷の頭を撫でた。
「子狐が何の用だ。」 「雨をふらせてほしくてな、」 「アーン?」 「作物が育たねぇんだ。」
そういやあ雨乞いの祝詞を唱えていたのはお前だったか。 舌ったらずな声で。 まさかこんな小さな稲荷だとは思ってもみなかったが。 力なく耳と尾を下げた子狐ははぁ、と息を吐く。
だがなぁ、花よ。 よく考えてみろ。 政宗は心外だと眉を上げた。
「そりゃぁ人間の事情だろ?」
なぜお前がそんな顔をする。 社を守り、五穀豊穣を願うのが稲荷の仕事だろう。 雨乞いは巫女の生業で本来はお前がするまでも無い事だ。 なのになぜお前は人間を案じているのか。
チラリと正面の人間共を見やる。 鉢巻の男は今にも襲いかかって来そうで。 前髪をかき上げている男は面白くなさそうに己を睨んでいた。
「けいじの村がこまってんだ…」 「けいじ?」 「…雨をふらせてくださいって、」
お参りに来たんだと、消えそうな声で呟く花は今にも泣きそうだった。 堪えていたのが一機に溢れてきたのだろう。 ぐす、と鼻をすする声が痛々しい。 どうしてだかあるはずも無い罪悪感なんて物が脳裏を掠めた。
ちらりと自分の右目を見ると、「政宗様のお好きになさいませ」と沈黙が返ってくる。 shit. こんな時ばかり空気を読みやがって。
「………、」
政宗は深い深いため息をついた。 使命感というよりはただそいつの願いを叶えようと一生懸命に祈り。 己の事も省みず。
「なぁ、りゅうじんさまお願いだ…」
最後の頼みだと縋る様に小さい手で装束を握ってこられれば。 いくら俺と言えど絆されもする。
「……shit…」
降参だと。 内心、吐き棄てるように言って政宗は首を振った。
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