「…面妖な…」 「せいぜい敬い崇め奉れよ。」 「…うさんくさーい。」 「Ah?」 「政宗様、」
政宗様が落ちてきた毛玉を抱えて泉に浮かび上がり、共に泉を出てみればそこにいたのは二人の人間だった。 武人のようななりの男と、気配がまるでない奇妙な男。
羽織を濡らし俺達を睨んだ後、二人の目線は主が腕に抱いた毛玉に向いた。
ほぉ。 人間がいい目をしやがる。 警戒は怠らず、細心の注意で以って政宗様からこの毛玉を奪い取る策を練っているのだろう。 ぴり、と中てられた気は久しぶりに心地がよいものだった。
「こらさすけ!ゆきむら!りゅうじんさまの前でしつれいだぞ!」
「花?」 「花ちゃん?」
「りゅうじんさまはおれを助けてくれたんだ!」
「あァ?」
きゃんきゃんと政宗様の右手の中で叫んでいる毛玉はよく見ると耳と尾がある子供で。 だが神気を持った人ならざるものだ。 その姿は狐。
「政宗様、これは…」 「……稲荷か、てめぇ。」 「!おれはいなりの花です!!」
なるほど、確かに纏う気は澄んでいる。 稲荷になったばかりの小さな狐だったか。
だが、こんな小さな稲荷がよくも恐れずここまで辿り着いたものだ。 龍神の祠など伝承でしか伝えられていないものを。
主も何か思うところがあったのか、小さく息を吐き抱えていた手を解くと花という稲荷を膝の上に乗せた。
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