「っ花!!」
花が落ちた。 あれほど気をつけろと申したのに、くるくる回る自分の足に縺れて泉に落ちた。
「がぼがぼがぼ!」
そして泳げぬのか!! お約束でござる…!! 手に持った槍を放り出し、泉に飛び込んだ。
「花…!」 「ちょ旦那!!」
白い泡が視界を閉ざす中花を探す。 佐助の声が聞こえたがかまいはしない。 お前は気配を配れと目線を送り。
どこだ。 どこに沈んだ。 傍目から見てもおよそ沈みそうにないあの毛玉でござる、まだ近くにいるはずで。 辺りを見回し、見覚えのある二つの尾を見とめ思わず手を伸ばした。
速さも力も出ない水中で沈む前にと右手が空を切る。
「花!!」
もう少しで掠めるというところ。 確かに掠ったのにと指がわななけば、自分の視界が突然真っ白になった。
「…っ何が…!」
やっと収まってきた泡が再び巻き起こったのだと気づいたときには息が持たず、思わず舌打ちをして泡をかき分ける。
どこでござるか花。 さっさと浮いてこぬか。 さっきよりも更にもがけば、急に。 下から何か大きな力で水面に押し戻された。
「俺のシマに人間が入ってんじゃねぇよ。」
「!?」
照りつける光に目を細め辺りを見る。 声の主は聞き覚えの無い男の声だ。 一体どこから。
ここには花と自分達しかいなかったはず。 お館様の領地だからと気を抜いていたつもりは無い。 それこそ龍神の泉など得体の知れない場所へ来ているのだ。 額に手を翳し、逆光の中仰ぎ見たその男は。
「…っ何者…!!」 「Ah?」
今まで散々と感じてきた、人ならぬ気配を身に纏い。 花に勝るとも劣らない透き通る様な髪を持ち。 片手にごほごほとむせている子ぎつねを抱え。
「この世の水神、龍神様に決まってんだろうが。」
人が立てるはずの無い水面に胡座をして座っていた。
「ちょ、旦那!無事!?」 「佐助!花が…!」 「きゅ…きゅう?」 「「花(ちゃん)!!」」
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