耳をぴくぴく揺らしながら。 尾をふっさふっさ揺らしながら。 そして時折、自分の足を自分の足で引っ掛けながら。
花の雨乞いは未だ続いている。
「……花、そろそろ休憩にしてはどうだ。」
「まだ雨がふらねぇからだめだ!!」
「休まないと疲れちゃうよ?」
「もうすこししたら雨がふるかもしれねぇだろ!」
先ほどから何度も声をかけては断られるのを繰り返し、幸村は焦れていた。 佐助も呆れたような顔をしているが、実際のところ無理にでも止めてやりたかった。
ここ数刻、花はくるくると回り続けている。 よくも目が回らないなと感心したくなる程それはくるくるくるくると。
「花。」 「あとでな、ゆきむら!!」 「花ちゃん。」 「きゅぅぅっ!!??」
だが流石にこの当分雨など降りそうに無い炎天下、いくら稲荷とは言え小さな狐を何刻も放って置くわけにはいかない。 くるりと回っている花の着物の襟を佐助が掴んだ。
「さすけ!?」 「いい加減にせぬか。」 「ゆきむら…?」
お前が無理をしてどうする。 その内気を失いでもしたらどうするつもりだ。 たかだかあれだけの団子だけで体力が持つとでも思っておるのか。
「ほい旦那。」 「うむ。」 「はなせゆきむら!!」
ばたばた暴れる花を小脇に抱えて幸村は榊の枝を取り上げた。 転んでばかりいたせいか普段はさらさらとする耳と尾が埃っぽい。 気に入りの毛並みがごわごわでござる。
「おれは雨ごいしなくちゃならねぇんだ!」
「花、」
「もうすぐしたらふるんだ!」
「花。」
「けいじが待って、「花。」…!」
聞くのだ。 持っていた襟を放して幸村は花を抱きこんだ。 至極まじめな顔で花の額と己のをくっつける。
幸村の背後では困ったような顔で笑う佐助が「旦那の話聞いてやってよ」と花の頭をまぜた。
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