金色の雲海たなびく神界の。 ゆうるりと時間がたゆたう神廟は、今日も平和である。
「…元就様。」
「何だ。」
「…あの稲荷、一体何してるんでしょうか…」
元就様、と呼ばれた彼はさらりと髪を揺らして自分に従う家臣を見やり、小さく首を傾げて見せた。 途端、花の芳しい香りが辺りに漂って。 今にも咲き誇りそうな花の甘い匂いの中、彼は優雅に口元に手を当てる。
「稲荷?」
我は毛利元就。 日輪の申し子。 あまたの神が集うこの神界で、最高神とは我の事よ。
これからとくと心するがよい。
「ここ最近、ずっと変な踊りを踊ってるのが一人いるのですが…」
「ほう?」
す、と指差された先にある水鏡には現界での様子が映っている。 緑が茂る森は目にも鮮やかだ。 愛しまれているというよりは、その森を守る稲荷を愛しんでいるかのような木々達は優しく風を撫ぜ。 水鏡にはふわりと雪のような花が舞った。
「よき森ではないか。」
青々と、息吹に満ちている。 そんな森に住まう稲荷は一体どのようなものか。 元就は水鏡に触れて小さな社を映してみた。 控えめに佇む鳥居を抜け、その奥の神殿にはかの稲荷はいないようだ。 それならばと水鏡にもう一度触れてその裏側に。
ふわん、と水面が揺れて可愛らしい二つの尾を揺らす子ぎつねが現れた。
「あれか。」
ほう、中々に愛らしいではないか。 大きな耳を一生懸命揺らし、ふさふさの尾で。 榊の枝を持ってくるくる回って―――
「……ん?」
何事だ。 何故あの子狐はは榊を振り回しながらわき目も振らずひたすらにくるくる回っておる。
足をもつれさせて転んでいるのは中々愛嬌はある。 だがそこにあるのは祭壇であろう。 祭壇の前でくるくると回る儀礼なぞあったか。
無いわ。
「…駒よ。」 「はい?」
「あの子狐は何をしておるのだ。」
「…それは私が一番初めにお聞きしたのですが。」
|