06



「雨たもれ、雨たもれ、雲にかかれ、なるかみや。」


なぁ、なぁ、かみさま。
雨をふらせてください。
けいじの村がこまってんだ。
ことしの米が取れねぇかもしれねぇんだ。


「雨たもれ、雨たもれ、雲にかかれ、なるかみや。」


*
*
*


先程から数刻、花が榊の枝を持ってくるくると回り続けている。
相手にされない事に、いい加減焦れを感じて幸村はうずうずと居心地悪げに花を見た。

小さな狐が祈っている祭壇の近くの岩に腰掛けながらどれだけちらちら目線を送っただろう。
未だ踊り続ける子ぎつねを見る度、幸村の眉間に皺が増えた。


「花。」
「今いそがしいからあとでな!」
「むぅ…」


声をかけたところで取り付く島もない。


「あは、旦那ざーんねん。」
「さすけもしずかになー。」
「はいはーい。」


大体けいじとは誰でござるか。
ここまで一心不乱に祈られ、俺の花になんと羨ましい事であろう。
折角遊びに来たというのに相手にされぬというのは何という孤独!


確かに尾を振り、小さい体を懸命に動かし祈る花は愛らしい。
そのままぎゅうと抱きしめたいくらいにござる。


だが…
だが…!


「旦那、旦那、顔。」
は!!


おっそろしい事になってるよ。
佐助に肩を叩かれ我に返る。


「全く本当わかりやすいんだから。」
「ぐぬっ…!」


そんな事じゃ花ちゃんに嫌われるよ〜
ふふんと鼻を鳴らす佐助が忌々しい。


だが佐助。
そんな顔をしていられるのも今のうちでござる。
この真田幸村何の策も練っておらぬと思ったか。


笑止!
片腹痛いでござる!
この幸村には秘策がある…!!


「…普通に土産って言いなさいよ。」
「む、」
「ほら花ちゃん呼ぶよ。」
「待て佐助!俺が呼ぶ!!」


はいはい。
呆れたように息を吐きながら佐助は肩を竦めた。


あんな真剣な花ちゃんが土産でこっち向いてくれるなんて無いと思うけどねー?なんて内心思ってはいるものの、実は佐助の懐にも未だ温かく食べごろのお焼きなんてものが入っていたりする。
悩みに悩みぬいて選んだ餡子と高菜のお焼きだ。


「花!こちらにこぬか!!」
「だからおれは…」
「土産の甘味があるんだが!」
かんみ…!!


かかったでござる。


ちょ、花ちゃん早すぎねぇ!?

「きゅ?」



おもしろいぐらい直ぐにこちらに走ってきた花に満足して幸村はその小さい体を抱き上げた。


かんみ、かんみと大きな目を更に大きく見開く花はやはり愛らしい。
そのままぐりぐり額をすりつけると「ゆきむら!」と可愛らしく怒られてしまった。


後ろで「あーあ、本当に来ちゃって」と言う佐助も顔が緩んでいる。


その締りの無い顔をどうにかせぬか。
旦那にだけは言われたくねぇなぁ。


そんなやりとりを暫く、言い合う俺達がじれったいのか明らかにそわそわしだした花の耳と尻尾に二人で笑い、団子の包みを差し出した。


「そら。」
「これがかんみ…」
「あれ?花ちゃん初めて?」
「はじめてだ。」
「なんと勿体無い!!」


今まで甘味を食した事が無いなどとは!
ひくひく動く耳と耳の間を混ぜ目を細めた花を抱く。
包みを両手に持ち鼻を近づけた花の頬は少し赤い。


可愛らしくて結構でござる。


「一緒に食べるぞ花!!」
「きゅ!!」
「あ、花ちゃんお焼きもあるよ。」
「おやき!」
「花、まずは俺の団子からだ!」


意識は雨乞いから一転、甘味に向いた。
ふ、この幸村。
花への愛持ってすれば容易い事。



俺の勝ちでござるな、けいじとやらよ。


……大人げないよ、旦那。

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