久しぶりにやってきた森はあの時とは比べ物にならないほど青々と生気に満ちていた。 これが森を守る花の力かと思わず息を呑む。 折れた木はその枝を天高く伸ばし、踏み荒らされていた土壌は今や人の足跡すらない。
なんと美しい森か。 幸村は馬から下りて空を仰いだ。
「花、おるか!!!」 「旦那待ってよ〜」
石段を上がり、鳥居を抜ける。 木々に囲まれた小さな神殿は何ら変わりなく静かに佇んでいた。 だが境内に花の姿は無い。
「花。」
朝の勤めを終えた後は神殿の中で毛玉のようにくるまっているのが常だ。 社での療養中、幾度となくその光景は目にしたことがある。 それならばと神殿の扉を開けても、そこには神棚があるのみで花の姿は見られない。 しん、と静まり返っている神殿の中には気配が無く。 反対側の扉を開いて首を覗かせてみれば、森から吹き抜ける風に乗ってちりんちりんと鈴の音が聞こえてきた。
「む?」
鈴?
賽銭箱の前に吊るされてある大きな鈴以外にここにそんなものは無いはずだ。 そのまま境内の裏に回り音の出所を追う。 歩くたびに鈴の音は近づき、美しい竹やぶに囲まれたそこが見えるとやっと探していた子狐の姿が。
「………花?」
鈴のついた何かの枝を持って、耳と尾を揺らしながら。 くるくるくるくると、まるで空を飛んでる蝶とでも戯れるように。 ひたすらに飛び跳ねていた。
ああ、何でござろう。
耳と尻尾を揺らしくるくる回る花は確かに可愛らしい。 たとえ足がもつれて転びそうになったところで、それが倍増されこそすれ損なわれる事はあるまい。
「……」 「あれ?花ちゃん?」 「うむ…」
だが理由が分からぬ。 いつもは毛玉になっている時間帯に、俺や佐助にも気づかず何を懸命にくるくる回っているのか。
「………、新しい遊びでござるか花。」
「あそびじゃねぇ雨ごいだ!!」
|