01



最近な、おやしろにまいにちやってくる奴がいる。
なまえはけいじ。
住んでるところはここから少しはなれた里で、年は10よりちょっと上かそこらの元気なやつだ。


初めて見かけたのはずいぶん前の朝のおつとめがおわった時。
手をたたく音がそとから聞こえて、こんな朝はやくからだれが来たんだとこっそりのぞいたんだ。
そしたらそこ子供がすずの前でしんでんをずっとにらんでいるのが見えた。


「な…なんだ…?」


しんでんの中から耳を立ててみる。
このところとりたてて厄災なんかはなかったはずだ。
いなりの祭事はきさらぎの月にあったし。
ただ遊びにくるにしても時こくがはやすぎる。


「…きゅぅ……」


だからその子供がいったいどうしてこんな朝っぱらに森の中なんかにいるのか気になっておれは少し鈴の方へ近づいた。


ちょっとだけな。
ほら。
あんまり近づくとあいつがびっくりしちまうかもしれねぇだろ。
おれはいなりなんだから!


「そーっと、な…」


しっぽをぎゅうとにぎりながらしんでんの戸を少し開く。


なあ、おまえ。
そんな顔していったいどうしたんだ。
ひくん、と耳をすませているとあいつがガラガラと鈴をおもいきり鳴らしだした。


「なぁ神様!!俺、慶次ってんだ!!」


そりゃぁもう。
すずが縄ごととれるんじゃねぇかってぐらいに。
そしてさけんだ声はそれにまけねぇ大声で。


「み…みみが…!」


ぐわん、と頭がゆれてちからがぬけた。


何なんだけいじ。
おまえもうちょっとちっせぇ声でおちついて鈴をならせねぇのか。
おまえのかたにいる子ざるもびっくりしてるじゃねぇか…!


「あのな!お願いがあるんだよ!」


ガランガラン
ガランガラン



「……おねがい…?」

「ここ最近全く雨が降らなくってさぁ…」

「あ…」


そういえば、雨がふったのはもうずいぶん前の大雨いらいだ。


ガランガラン
ガランガラン



「米がぜんぜん育たなくて村のみんなが困ってるんだよ!」


ガランガラン
ガランガラン



「だからなぁ、神様!!」
「……」


ガランガラン
ガランガラン



「雨を降らせてくれよぅ!!」


このとーり!!
それだけいってけいじはかしわでを打つと走っていった。


「……」


そうかわかった。
雨がふらなくてこまってたんだな、けいじ。
たしかにこの日照りじゃぁたんぼだってひ上がっちまう。
みずぶそくだって気になるところで。
ここは五穀をまもるいなりのでばんだ。


けどな。
おまえは鈴をならしすぎだけいじ。


「…みみが…!!


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