「…政宗様けぇへんね。」 「(こくり)」 「…もうお外暗くなるのにね。」 「(こくり)」
ごろごろするのにもいい加減飽きて、じっとお部屋で三角座り。 こーちゃんの背中にもたれながらちらっとお外を見たらもう空はオレンジ色。 でも、全然全く俺のお部屋の扉は開きません。 政宗様の声もしません。
さっき、女中さんがお部屋に火を持ってきてくれたけど政宗様の事聞けやんかったん。
やぁ、何か。 政宗様、俺の事忘れてもうたんかなとか考えたらまたお腹がきゅうってするし。 もしかしたら、もうちょっと待ってたら政宗様来てくれるかもしれへんし。
「ぬー…」
少しな、怖かったん。 やから三角座り。 寒いからこーちゃんとくっついてね。
「今日の晩ごはん何やろうねぇ。」
「(?)」
「そろそろお鍋がおいしいからお鍋かもね。」
「(こくり)」
やぁ、実はな。 さっきちょびっと見に行ったん大広間。 今度こそ政宗様にばれやんようにこそっとやで。 ほんならまだ楽しそうにお話し中で、はじめ行った時みたいに政宗様も覗いてくれやんくってやあ。 またそおっと帰ってきたん。
ほらあれやん。 親子みずいらず。 お邪魔したらあかんやろう? やから三角座り。
「え?真樹緒!?」
「ぬ?」
「てっきり夕餉を食べに行ってるかと思ったのに、」
「おシゲちゃん!!」
そしたら政宗様の代わりに「もう支度出来てるよ」ってお部屋を覗いてくれたのはおシゲちゃんでした。 さっきとは違う荷物を抱えたおシゲちゃんでした。
三角座りしたまんまの俺を見てびっくりして、どうしたのって顔を覗きこんでくれる。
ぬー。 おシゲちゃーん。 何て素敵なタイミングー。 ちょうど俺今さみしんぼやったー!
さっきぶり! さっきぶりやけど、何だか懐かしいんー! こーちゃんから離れておシゲちゃんにぺそっとくっついた。
ぐりぐり頭を擦り付けてぎゅう。 おシゲちゃん、おシゲちゃん。 どうしたのって頬っぺたくつっけてくれるおシゲちゃんに俺はやっぱり黙って頭をぐりぐり。
「…夕餉は?」
「…政宗様と一緒に食べるって約束したん。」
「…梵と?」
「…やから待ってるん。」
厨からええ匂いがしてきて夕ご飯の用意できてるってゆうんは知ってるで。 でもやぁ、おシゲちゃん。 俺、政宗様と約束したもん。 一緒に夕ご飯食べよなって。
もうちょっとしたら呼びに来てくれるん。 政宗様な、約束破った事無いんやで。
「真樹緒…」 「…一緒に食べるんやもん…」
やから厨へは行かんの。 ここにおる。
おシゲちゃんを見上げたら困ったような顔で笑ってた。 「梵は本当に仕様がないねぇ」って笑ってた。
「お饅頭あるけど、食べない?」
おいしいんだよ、って言うおシゲちゃんに首を振ってさっきよりも強くおシゲちゃんの背中にぎゅう。 優しいおシゲちゃんに何か胸がきゅっとなる。 目の奥も熱くなる。 喉がつまってちょっと苦しくなって首だけ振って。
「…まだお腹へってへんからええん。」
呟いたら余計に苦しくなった。
…… ………
なんなん、もう。 お腹も目も全部痛い。
「…そっか、」
俺の頭を撫でておシゲちゃんが立ち上がる。 困った顔はそのまんまで「お腹が減ったら食べるんだよ」ってお饅頭を置いてお部屋を出ていった。
まだお仕事残ってるんやって。 「一緒にいられなくてごめんね。」 おシゲちゃんの言葉が切ない。
いつもやったら俺もお手伝いしようか?って聞くんやけど、今はそれも無理なん。
ぬぅ…
「(なでなで)」 「…こーちゃん。」
ありがと。
またあのもやもやが戻ってきてちょっと息苦しい。 その苦しさがどうにかならんやろうかってこーちゃんにくっつきながら政宗様を待った。
政宗様。 政宗様。 はよう来て。
はよう来やな俺待ちくたびれて。
…… ………
「…お腹すいたん…」
待ちくたびれて泣いてしまうかもしれへんよ。
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