畑で採れた野菜を厨に運び、後はかの方をお迎えするのみだと気を引き締めていればその厨の片隅で、何やら難しい顔をして米を食む真樹緒の姿が見えた。
「真樹緒?」
隣に己の忍を従え、無言で箸を進めるその姿は普段の真樹緒とは似ても似つかない。 いつもなら今日はあれをして遊ぶだの、どこそこに行くなど、楽しげに話しているのに。
そして今も、声をかけたものの返事は無くちらりと恨めしげな目線を向けられただけで。 いよいよあの真樹緒からは考えられない様子に俺は目を丸くした。
「…真樹緒?」 「…おはよう、こじゅさん。」 「あ、…ああ。」
こじゅさんも忙しそうやねぇ。 ふーん。 へーえ。 大変やねー。 やぁ、俺はゆっくり朝ごはん食べてるけどー。
あー。 あつあつのお味噌汁おいしーなー。
「…真樹緒、」
そうかと、合点がいった。
黙々と米を食べ、ずずっと汁を飲む真樹緒は頬を赤く染め床を睨み付けている。 不貞腐れた顔を隠しもしないところを見ると、大分ご立腹のようだ。 そう言えばこの二人だけの朝餉というのも常では無い。
ああ、これは随分臍を曲げさせてしまった。
「そんな膨れてくれるな。」 「…別に膨れてへんもん。」
お客様来るから忙しいんやろう? 政宗様もおシゲちゃんも朝ごはん食べれやんぐらい大変そうやったしー。
こじゅさんもはよう行けば? どこへ行かなあかんのか知らんけど! ぬーんだ!!
そう言ってぷいとそっぽを向く真樹緒に思わず苦笑った。 ここで更に拗ねているのかと聞けば更にむくれてしまいそうだ。
だが、このままではそれこそ主の株が下がってしまう。 主の事だ。 録に説明もせず、甘い言葉で言い含めたに違いない。
効果はあったのかなかったのか。 あの真樹緒がここまでむくれているところを見れば、言わずもがなだ。
出るのは溜め息とやはり苦笑いで。 だが真樹緒をこのままここに放って置くのは余りにも。
「真樹緒。」 「聞こえへんもーん。」 「真樹緒。」
聞け、とその頭を撫でると恨めしげな目がこちらを見上げる。 それに素知らぬふりをして続けた。
「本日ここへ来られる方だがな。」 「…」
ぴくりと動いた小さな肩がいじらしい。 気になるならそう言えばいいのに、あくまで拗ねたまま真樹緒は未だ静かに箸を動かしている。
よくもまぁ、ここまで。
「名を、伊達輝宗様とおっしゃって政宗様のお父上であらせられる。」
…… ………
「政宗様のお父さん!?」 「機嫌が直ったか。」 「別に怒ってへんもん!」
もやもやしてただけやもん! それよりこじゅさん政宗様のお父さんってどういうこと!
ぱぁ、と。 音でも聞こえてきそうな勢いで、膨れていた頬が緩みいつものふわふわとした真樹緒に戻る。
ごちそうさまでしたと箸を置いて、「ほらこーちゃんもお話聞こう」と忍を呼び興味津々の顔で俺を見上げ。
さてどうしたものか。
幸い己の仕事はもう無い。 とりあえず暫くここに腰を落ち着かせ、真樹緒の気が済むまま話の相手をしてみようか。
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