餅を金網の上に乗せ七輪に炭を落とし、火を点け。 丁度いい火加減にくすぶってきた後やれやれと、腰を上げたところで聞こえてきた足音には覚えがあった。
「やっと来たか労働力。」
遅いぞてめぇ。 花の友だというカラスに書を持たせたのは随分前だ。 この俺を待たせていい奴なんざ世の中には存在しねぇんだよ。
「…何をされているのでござるか政宗殿。」
幸村と佐助が神社にやってきて一番初めに見えたのは、可愛がっている稲荷でも無く。 最近こと一緒にいる村の少年でも無く。 団扇片手に七輪に火をつけ餅を焼く龍神だった。
「Ahーー?」 「政宗様、こちらの餅は頃合かと。」 「Thanks小十郎。」
…… ………
「何やってんのおたくら…」
団扇をパタパタと振る政宗を胡散臭そうに見てから、佐助は辺りを見回した。 境内の向こうでは稲荷が、顔も衣も泥だらけで村の少年と一緒に走り回っている。 なんだいるんじゃないのと思いもう一度視線を龍神へ。 再び眉を上げた政宗はお前らも手伝えと帯に差していたもう一つの団扇を佐助に投げて寄越した。
「何であんたがいるのー?」 「聞いてねぇのか人間。」 「書簡は受け取り申したが、」 「Ha!!」
鼻で笑われて勘に触る。 ちょっと呼び出しておいてアンタ何様だ。 ふん、と佐助が政宗を睨めばそんな視線を余裕ありげに流し政宗が肩をすくめた。
「花が餅を食いてぇんだとよ。」 「ぬ?」 「花ちゃん?」
龍の人の話によると、どうやら今日村で餅投げに参加した花ちゃんがが慶次という例の少年と一緒に餅を大量に拾ってきたらしい。 そのくせ餅を食べた事が無いという花ちゃんのために、慶次が皆で餅を食べようと事を企てたそうだ。 まずは慶次が龍神の元へ行き、龍神が旦那に書簡を送ったという。
「へー…」
え、でもちょっと待って。 そうなればこんな騒ぎを目聡く嗅ぎ付けてくる人がもう一人いなかったっけと嫌な予感がよぎれば。
「花、餅が焼けるまで芋掘りにゆくぞ。」 「いもほり!!」 「あーー神様!!俺も俺も!!」
…… …………
「……やっぱりいるの…」
「俺より先に来て花と遊んでたぞ。」
…… ………
えぇ。 マジ?
「花ーーー!!俺も行くぞ!!」
「あー!ゆきむら!!」
「赤いにーさん来たのかぁ!!」
「旦那!?」
背後から聞こえる声に、一瞬。 佐助がふ、と遠い目になったのは恐らく政宗しか知らない。 てめぇも苦労してんだな、と肩を叩かれ佐助がやるせなく笑ったのは恐らく小十郎しか知らない。
ちょっと旦那。 何仲間に入ろうとしてんの。
「だから手伝え。」 「…」
何で俺様がと言ってやりたい佐助だったがこの場合。
稲荷と慶次は遊びに夢中だ。 泥だらけで耳と尻尾を揺らす様はいつも通りかわいらしい。 そしてなぜか神様だというあの男も稲荷と子供に交じって遊びに夢中だ。 おまけにうちの旦那も遊びに夢中だ。
自身を駒と言うあの男は稲荷と子供と神様とやらのの面倒で手一杯だろう。
そうなれば。
「…忍。」 「……なに、」 「毛利に期待するだけ無駄だぜ。」
あいつは顔こそ真面目腐っているが。 下らなくて馬鹿な事が殊更好きだというどうしようもねぇ野郎だ。
「…どいつもこいつも…」
薄々分かってたけどね。 佐助は政宗が餅を焼くという、その人選が現実味に溢れすぎて嫌になった。
|