02



高くそびえる上田城天守閣。
青空でトンビがぴーひょろろと鳴いて今日も今日とて平和である。


肩の凝るような執務を終えて幸村は伸びをした。
筆を置き、思わず横になると開けっ放した窓格子から秋空が見える。
このところ戦も無く連日政務続きだから体が鈍ってしまった。
昼からは槍を振るうかと小さく欠伸したところで、空から黒い点が近づいてくるのが見えた。


「む?」


よくよく見ればカラスで。
あれはうちの忍のものだ。
大きく旋回しているのを見ると主でも探しているのだろう。
何かの大事か、と身を起こせば部屋に人の気配が。


「佐助。」
「あれ?さっすが旦那。」


ばれてたの、なんて軽口を叩きながら天井から音もなく現れたのはうちの忍頭だ。
橙色の髪は忍としてどうなのかと思うが、その腕は確かなので口は出していない。
元服前から俺に仕える古参だ。

その佐助に仕事を言い渡していた覚えは無い。
先ほども言ったが最近は戦もなく、静かなものだ。


「何か急用であるか。」
「旦那にお届け物ですよー。」
「届け物?」
「お手紙。」


首を傾げると佐助が懐から書簡を差し出した。
はて。
書簡などやり取りをする相手がいただろうか。
お館様であれば佐助がもったいぶる必要も無い。
ぺらりとめくる。


さっさと来やがれ労働力


達筆な字で。
それだけ書かれた紙がひゅるるとやるせなく風に靡いた。


「………」
「………」


「……………で?
いやいや。
「誰からの書簡だ。」
「うちのカラスが山で預かったんだよ。」
「花か!!」


花が書簡とは珍しい。
む、
だが花は字がかけたであろうか。
今まで一度も見たことは無い。
それにこの文面を見るとどうも。
花が寄越したにしては横柄ではないか。


「花ちゃんって言うかきっとあの龍の人だと思うけどー。」


やな感じ。
口を尖らせる佐助に笑う。
やめぬか。
腐っても龍神であられるぞ政宗殿は。


旦那の方が何気にひどいよね。
行くぞ佐助。


本当の事であろう。
早く仕度をせぬか。


「にんにんってなぁ。」


窓から外に飛んだ佐助を確かめ立ち上がる。
書簡を懐に仕舞い槍を持った。
今頃は佐助が馬の用意をしているところだろう。


政宗殿の真意は量りかねるが、花からの書簡となれば行かぬ訳にはいかぬ。
待っていろ花!!
この真田幸村すぐにお前のもとに参る!!

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