「おきつね様―――!!!俺勝ったよーーー!!」 「こら、声が大きいぞ。」 「神様!駒の兄さん!俺のゆーし見てたかい?」 「…よく雄姿なんて言葉知ってましたね…」
少々手こずりながらも前言通り龍神の小手に一発入れた慶次が「ありがとうございました!」と礼も慌しく、稲荷のところに駆け寄った。 浮かれているその後姿を追って佐助はやれやれと息をつく。
「まーったく、竹刀ほっぽって。」 「元気なもんだな。」 「…アンタが歳なんじゃないの?」
龍のおっさんだっけ?
「Ahー?」
「政宗殿は龍神故、ご高齢であるか。」
「そーそー、きっともう翁ぐらいの歳じゃないの?」
「なんと!某、先ほど思い切り腹を蹴ってしまったでござる!」
「柔な人間と一緒にするんじゃねぇよ。」
「えー?」
でも本当におじいちゃんでしょー? 喉を鳴らして佐助は龍の隣を歩く。 先の勝負、戦法はどうであれ勝ちは勝ちだ。 呆れながらも満足げだった龍神は慶次の小さな背を眺め、ため息を吐きはしたが何も言わなかった。
あんただって甘いじゃない。 よく人のことが言えるよね。
「おきつね様、寝てんのか?」 「さっきからぐっすりぞ。」
本殿の板張りに腰掛た神様だという男の膝の上に顎を乗せ、慶次はすぴすぴと未だ寝息をたてる稲荷を見上げている。 「俺さっき、すっごい格好よかったのにね!」と自分で言ってのけた子供は大物になるよ、本当に。 それが楽しみなのはきっと俺だけではないはずだ。
旦那も。 恐らく龍神も。
「起きねーかなぁ?」 「遊ぶのか。」 「龍のおっさんが空に連れてってくれるんだ。」 「ほぅ、それはまた稀有な。」
花ちゃんの尾や背中を撫でている慶次は、起きるのを待っているというのにまるで眠りを誘うように優しげだ。
その慶次の頭を神様サンが撫でて。 もう、ほんと。
どんな癒し空間だろうここ。 何かすごく緩い。
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