子供の腕でひとしきり遊んでやったら、慶次が拗ねた。 いけねぇ、いけねぇ。 やりすぎたか。
この後は花のところに直行して俺たちの仕打ちを告げ口した挙句、稲荷を独り占めにするんだろう。 けれどまだまだ子供。 二人揃ったところで可愛らしいのは変わりはしない。 そろそろ機嫌を取っておくかと、人間から木刀を受け取り慶次の頭をもう一度撫でた。
「慶次。」 「……あんだよー。」 「俺が稽古をつけてやろうか。」 「!!!」
いつもなら俺は人間と慶次の稽古に手を出したりはしない。 「龍神はああ見えて中々のつわものよ。」といつか毛利が漏らしたせいで暫く、なぜか花も一緒に足に纏わりついてきた事があったが(あの時は踏みそうで危なっかしかった)「人間に干渉は出来ねぇんだよ」と尤もらしい理由で諦めさせた。 単に龍神としての力に触れて、まだまだ小さな子供が怪我をしてはと危惧しただけだったのだが。
「俺に一発入れられたら空に連れてってやるよ。」
「本当!?」
「二言はねぇ。」
「おきつね様も一緒に?!」
「好きにしろ。」
「やったーーー!!」
木刀を肩に担ぎ見下ろした顔はもう膨れてはいない。 簡単なものだと噛み殺した笑みはどこかくすぐったかった。 何が「人間に干渉は出来ない」だ。 そんなもの、とうに守られていないというのに。 自分の言った事に苦笑う。
「なら慶次、お前は素手で右から狙いな。」 「忍のにーさん!!」 「俺は正面から参る!」 「赤のにーさん!!」 「俺様は後ろで援護ってねー。」
「Ah?」
おいこら人間。 てめぇ俺と慶次の勝負に何勝手に入ってきてやがる。
「あんたと慶次じゃ、そのままやったら勝負見えてんでしょー。」
作戦会議よろしく慶次の肩を寄せて、勝負は公平に行わねばならぬ!とは師匠を気取る人間の言い分だ。 餌で釣っておいて勝負が見えている稽古は不公平だと言いたいのか。 可愛がりすぎじゃねぇのかお前ら。 甘すぎじゃねぇのかお前ら。
「いけ好かない龍から一本取るよ、慶次。」 「俺たちならば勝てる!」 「がってん!!!」
てめぇら段々似てきやがったな。 ひくりと口角を上げて、俺は木刀を構えた。
|