02



ぷりぷりと怒る花をへらへら笑いながら見て「かわいいなー」と慶次は思う。


しっぽとみみがぴんと立っているのもかわいい。
鼻がひくりとうごいているのもかわいい。
小さな手をこしにあててぷん!とふくらませているほっぺたも可愛い。
だから慶次の顔は怒られているというのにへらりと緩んでしまう。


「なにわらってんだ!」


と花がその手にも劣らない小さな足をだん!と踏みしめてもまったく恐ろしくない。
だからかわいいって言ってるじゃん、と慶次はまた笑う。
口に出してしまえば拗ねてしまうので心の中で。
機嫌を直すのは大変なんだ。


「ほらほら、お稲荷さま、赤いにーさんとこにこれもっていこーぜ?」

「あ、こらまだおわってねぇぞけいじ!!」

「歩きながら聞くってー。」

「ぅわ…!」


花の手を取って慶次はつららを首に巻いてあった襟巻きに包む。
それをひょいと背中に背負って駆け出せば、途端に冷たい風が頬をなでた。
思わず足がもつれる花の腕を器用に引っ張り腕に抱き上げて。


「けいじ?」


驚いて目をむいた稲荷ににかりと笑って慶次は走る。
つかまってなよ、と優しく笑って走る。
花が慶次の首に腕を回し力いっぱい抱きつけば、その速度はもっと速くなった。


「まずは赤い兄さんなー!」


その次は龍のおっさんとこ行こうよ。
絶対びっくりするから!!


「きゅう!!」


毎日毎日、幸村や佐助との稽古を欠かさない慶次は日に日に成長を見せている。
腕の力も強くなった。
刀の振り方も様になってきた。
そして最近早くなってきた足は一度走り出すとそう簡単に止まりはしない。
猪突とはこの事だと龍神は呆れたが、それも長所のひとつだと言って苦笑った。


「はやいなけいじ!」
「まかせとけー。」


ずんずんと森を走ってもうすぐ村の入り口だというところで突然ガサリと茂みが揺れた。
けいじがん?と首を傾げればその茂みから黒い塊がのそりと姿を現す。


「ええ!?」
「きゅっ!?」
うわ止まんないよー!!
「けいじぃぃぃ!!」


急に現れた物体に慶次の体が反応できるはずもなく、思わずその物体の上を飛び上がる。
走った分の勢いそのままに飛んだものだからその反動をもろに受け、ごろごろと二人地面を気持ちいい程転がった。

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