冬にしては温かいある日、小さな稲荷と人間の子供はいつものように仲良く手を繋ぎながら森を歩いていた。 キツツキの巣穴を見つけて中を覗いてみたり、兎の足跡を見つけてそれを追ってみたり、川のそばに行って鮎を捕まえようとしてみたり二人の好奇心は尽きない。
「あ、見なよおきつね様。」 「きゅ?」 「でっけぇつららだよ!!」 「つらら!!」
休む間も無くちょろちょろと動き回って見つけたのは、岩場に垂れ下がる氷柱だ。 溶けかけのそれは高いところからポツポツと二人の額に水滴を落とす。
「つめてー!!」 「きゅー!!」
冷たいと叫ぶくせに離れては近づきまた水滴を顔に受けて、慶次は頭を花は耳を震わせ飛び回った。
あれ取れっかな? むりじゃねぇか? でも赤いにーさんとか、忍のにーさんとかに見せたくないかい? きゅーん… なぁ、なぁ、やってみようよ。 でもあぶねぇぞ、けいじ。
そんな会話が続いて暫く、花が止めるのも聞かずに慶次は岩場をよじ登る。 冷たい岩肌は登りにくいだろうに小さい体はひょいひょいと。 下ではらはらと稲荷が見上げるのも構わず慶次は岩の頂上へたどり着いた。
「んー、どれがいーかなー。」
やっぱここまで来たからにはでっかいのを持って帰りたい。 おいなり様もいるしね! ここはいいとこ見せとかねぇと!!
「んじゃぁ、これ!」 「けいじ!そんなでっかいのむりだ!」 「だいじょーぶ!見てろっておいなり様!!」
ちょっと冷たいけれどそれは仕方が無い。 おいなり様が心配すっから、さっさと取らねぇと。 ふん、と慶次は自分の手に少し溢れるぐらいの大きな氷柱を片手で掴み、最近ことに力をつけてきたその腕力でもって、清々しく鮮やかにその氷柱をへし折った。
「とれたよー!!」 「すげぇぞけいじ!!」
氷柱を掲げ指で鼻を擦る慶次は得意げに笑う。
透明な氷柱は太陽の光を反射してきらきらと光っている。 氷の中に小さな泡が見えた。
つららって、近くで見るとこんなんなんだなーとぶんぶんと振って見せては「ああああぶねぇ!」と花をはらはらさせて、慶次は岩場から飛び降りた。
「!っけいじ!!」
「ひとっとび〜ぃ!!」
「あんなとこから飛んで、あぶねぇだろ!!」
「大丈夫だってー!」
「だいじょうぶじゃねぇ!」
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