05



がさがさと落ち葉を縫って泉に近づいてくる足音には覚えがある。
泉の底で己のありのままの姿でとぐろを巻いていた政宗は、ゆうるりと長い首をもたげて鬣を靡かせた。


「政宗様。」
「…花か。」
「は、本日は一人のようですが。」


日も落ちたというのに一体どうしたというのだろう。
めっきり冷え込んだ森で湖面はうっすらと氷が張っている。
あの泳げない稲荷があやまって踏み外しはしないかと、青い鱗を月明かりに照らされながらほの暗い水の中足音のする方へと上っていった。


「!りゅうじんさま!」
「何してんだ。」


こんな日暮れに。
龍の姿のまま、優しく稲荷の顔を鼻先でこづく。
未だ濡れているのに懐いてくる小さな足を体を鼻っ面で受け止めてふん、と息を吐いた。


「きょうは、りゅうのすがたなんだな。」
「龍だからな。」


よじよじと鼻を上ってきた花を落さない様に鬣に乗せて。
そこから身を乗り出してくる稲荷は何だか楽しげだ。
何かいいことでもあったのかとほくそ笑んで政宗は鼻を鳴らす。


「あのな、おんせんみつけたんだ!!」

「Ahー?」

「さすけともりをとんでたらな、見つけたんだぞ。」

「ほう。」


「みんないっしょにはいろうぜ!」と鬣をくすぐる花は可愛らしい。
ふさふさの尾が鱗を叩くのも心地よい。


小さな手で俺の角を掴み足をばたばたと振って、何が面白いのか眉間を滑り落ちてくる。
鼻先でころんと一回転だ。
ぽてっと鼻を超えたところで着地してへへと花が笑った。
cuteなのは相変わらずだな。


「俺を誘ってくれんのか?」
「あたりまえじゃねぇか!」
「Thanks.」


ああこの姿だと勝手が違っていけねぇな。
小さく息を吐きながら口に入ってしまいそうな程小さい花の頬を舐める。
いつものようにふさふさの耳に口付けてやりたかったがまぁ仕方が無い。
俺の鼻面に顔を押しつけている花も結構気に入っているのだ。


「今からか?」
「さすけが、ゆきむらとけいじをむかえに行ってんだ。」


そうなると後は毛利と、あの駒か。
花が「かみさまとこまさん、よんでくれるか?」と首をかしげたが、呼ばれなくても来るだろう。
むしろもう来てんじゃねぇのか。
やたら鼻が利く野郎だ。



流石、腐っても龍神ぞ。
「!!かみさま!?」
「久しいな、花よ。」
「昨日の朝ぶりじゃないですか。」
「こまさん!!」


お前らお約束すぎて逆に引くぜ。


大方、温泉がどうのという事の始めからずっといたんじゃねぇのか。

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