それは任務で隣の国へ偵察へ行って、丁度森の上を飛んでいた時だった。
風を受けて凧が靡く中、ふと下を見下ろすといつもは静かな森がどこか騒がしい。 忍という職業柄聴覚は長けているつもりだが、そうでなくても木々は激しくガサガサと不自然に揺れている。 その音に驚いて飛び立ったのだろう鳥達が羽を散らして顔のすぐ横を通り過ぎていって。 「あれぇ?」と首をかしげた佐助は凧の糸を操り森の上を旋回した。
「何だぁ…?」
崖崩れか何かだろうか。 けれど最近雨などが降った覚えはないし、地盤が緩んでいるとは思わない。 その上ここら辺りはなだらかな平地だ。 地震でもこない限り、地面が崩れる事すらありえない。
「うーん?」
じゃぁ何事? 本来ならこのまま城へと戻り、幸村に任務遂行の報告をしなければならない佐助は、けれどやはり気になって口元に手をあてると森へ目を凝らした。
相変わらず激しく揺れる森の木々。 所々に砂煙まで立って。 耳を澄ませば小さい悲鳴も聞こえてくる。
「……うん?」
悲鳴……? 何で悲鳴。 心なしか獣の鳴き声も聞こえるような。
「………えー?」
何だろう、この既視感。 ものすごく聞いた事があるんだけどこの悲鳴。 確かあれは熊用の罠にこの声の主がひっかかった時だったんじゃなかったっけ。
そうそう結構最近でさ。 悲鳴を辿って下りた森の中。 木でできた檻の中に熊じゃなくて、小さなお稲荷様がかかっていたんだ。 え? うん、花ちゃんに決まってるじゃない。
怪我なんてのは無かったんだけど、恐らく熊をおびき寄せるために置かれただろう林檎を手に持ちながら半泣きだった花ちゃんにを前に俺はただ体を固める事しか出来なかったんだよ。
「いやいや、まさか。」
そんな事二度も無いよ。 いくらあの花ちゃんだからってねぇ。 旦那からも龍の人からも気をつけろとあんなにこってり絞られたんだから。
「………」
でもまぁ、完全に否定できないところが痛いよね。 ほら逆にありそうじゃない。 あの花ちゃんなら。 だって熊用の罠にかかるんだよ。 林檎一個で捕まえられるんだよ。 危ないよ。
「えー…」
未だガサガサと騒がしい森へさらに目を凝らす。 砂煙の元を確かめ気配を辿って。 ピン、と耳を研ぎ澄ませば。
……… …………
「きゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
見慣れた金色の毛が、それはもう目にも留まらぬ速さの四足走行で真下の森を横切っていった。
「…あー……まじでかー…」
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