「鬼ヶ島の鬼てぇのはこの俺の事よ!!」
長曾我部元親よ!!
「きゅうきゅう!」
鬼ヶ島の鬼さんは花ちゃんをおひざに乗せてとってもご機嫌に名前を名乗ってくれました。
ぬん。 鬼さんの名前はなー、長曾我部元親さんってゆうねんてー。 ちょうそかべもとちかさん。 噛んでしまいそうよね。 ちょうそかべもとちかさん。
「俺は真樹緒ですー。」 「いなりの花です!」 「おうおう、よろしくな。」
俺と花ちゃんが長曾我部元親さんを見つけた時、俺はびっくりしてもうて思いっきりダッシュしてもうたんやけどな。 やぁ、ほら長曾我部元親さん見かけが銀髪で目つきがちょっぴり悪くって血だらけってゆうどこの輩なん、ってつっこみたくなる感じやったから。 今にも「ああん、何ガンつけてやがんだコラ」とか言われそうな感じやったから。 こんな暗い洞窟で花ちゃんもおるし、俺は戦えやんし、ここは逃げるのが一番やと思って。 でも一歩足を踏み出したところで花ちゃんに「くらいところをやみくもにはしるんじゃねぇぇぇ!」って足を掴まれたわけですよ。 顔面から地面にこんにちはしたからちょう鼻の頭が痛い真樹緒ですこんにちは!!
すりむいた鼻の頭は花ちゃんが舐めてくれたんやけどなー。 ちょっぴりひりひり。 でもかすり傷やからほうっといた方がすぐ直るんやって。 お稲荷様のゆう事は聞かなきゃねー。 今は花ちゃんが長曾我部元親さんの手当(怪我の原因はなぞ)をしてるのを見守ってます。
あ、洞窟は長曾我部元親さんが明るくしてくれたんやで。 長曾我部元親さんが指をぱちんと鳴らしたら洞窟の中が一気に明るくなったん。 天井近くにあった松明?みたいなんに火つけたんやって。 すごいでなー。
じっと長曾我部元親さんを見たらばっしゃばっしゃ息つく暇も無く花ちゃんにお神酒かけられてて。 それでもにこにこ笑ってる長曾我部元親さんは実はとっても優しい鬼さんでした! …あれ、結構な量を結構な勢いでかけられてるよ。 お神酒。 花ちゃんは見かけによらずやっぱり男前!
「なぁ、なぁ、おにがみさま。」 「あん?」 「どうしておにがみさまはこんなけがだらけなんだ?」
あ、それ俺も思ってたー。 やって長曾我部元親さん頭から血すごい出てるん。 せっかくの綺麗な銀髪が台無し。 手とか足とかも何や傷だらけやしー。 誰かと喧嘩でもしてきたんやろうか。
花ちゃんがお神酒のかかった長曾我部元親さんをはらえぐしでぽんぽん軽く叩きながら聞いた。 頭の方はちょっと背ぇ足らんみたいで長曾我部元親さんがかがんでくれてる。 何だかほほえましいー。 まるで兄弟みたいやねぇ。
「ああ、ちィと上でやりあっちまってなぁ。」 「うえ?」 「神界だ。」
オメーはまだ行った事がねぇか? 稲荷だろう。
「おれはいなりになってすぐにおやしろにきたからわかんねぇ。」
「そうか。」
に、って笑って長曾我部元親さんが花ちゃんの頭を撫でる。 首をすくめた花ちゃんは楽しそうで俺はちょっぴり政宗様を思い出してもうた。 政宗様もああやって俺の頭を撫でてくれるん。 その手はとっても優しいんやで。 俺はいつでも力が抜けてしまうんやから。
「ぬん…」
じ、って長曾我部元親さんを見た。
そういえばちょっと政宗様に似てるかもー。 やぁ、目ぇだけやけど。 政宗様も片目なん。 ほんでなんか雰囲気とか。 笑った顔とか。
みるみる傷が治っていく長曾我部元親さんは、よく見たらちょうイケメンで。 そんなとこもちょっと政宗様に似てるなーとか思ったり。
ぬぅ… そんなんゆうてたら政宗様に会いたなってきたん。 政宗様。 お仕事ちゃんとやってるかなー。
「やぁ、政宗様はツノとか無いねんけどなー。」
ツノ。 俺が思ってたよりもちょっと細くて長いツノが長曾我部元親さんの頭からにょっきり伸びてるん。
うーん。 何てゆうたらええん? ほら、俺らが知ってる鬼のツノとかやなくてな、えーとあれ。 奈良におる。 どっちかってゆうたらシカ? にょきっと上向きの。 そらシカよりは短いんやけどな。
「…なァ…花よォ、」 「きゅ?」
どうしたおにがみさま。 まだいたいところあるか?
「いや、傷はもう癒えた。」
ありがとよ。 きゅう!
「あの人間はお前の知り合いか。」 「きゅん?」
えらく恐ろしげな目で睨まれてんだが。
俺ァ、鬼だからよ。 普段は人間の前には出てきたりしねぇんだ。 どう見たって異形だからなぁ。 あの人間も岩屋に入ったらこんな野郎がいたもんで、怖がっちまったか。
長曾我部元親さんが俺を見て苦笑い。 ちょっと寂しそうに肩をすくめる。
「きゅう?まきおか?」 「ぬ?」
俺? 俺のおはなし? 顔を上げたらばっちり花ちゃんと長曾我部元親さんと目が合って首を傾げた。
やぁ、そんな睨んでたつもりは無かったんやけどー。 怖いとかも無かったんやけどー。 見てたんかって、ほら、俺…
「まきおのあれはべつにこわがってんじゃねぇぞ。」 「ん?」
そうなのか? きゅう。
「おおかたおにがみさまのつのをさわりてぇとか思ってるだけだ。」
「ぬーん!!」
お、お、お、お見通し! 花ちゃん俺の事お見通し!! てゆうか何でばれたんやろうどうしよう! 長曾我部元親さんに内緒で後でこっそりツノ触りに行こうと思ってたのに。 やから今まで身を潜めてたのに。
ぬう、さすがお稲荷様。
「おまえはわかりやすすぎだぞ、まきお。」 「まじで!」
だからほら、そんなとこにいねぇでこっちにこい。 おにがみさまにあいたいっていってたじゃねぇか。
手招きする花ちゃんに、「何で分かったん」なんてほっぺた膨らまして近づいたら長曾我部元親さんがけらけら笑って俺の事見てる。 なぁに。 なぁに長曾我部元親さん。 そんな笑わんとってぇや。 ちょっとした好奇心やん。 鬼さんのツノとか普通やったら触れやんのやもん。
「オメーは変わった人間だな。」 「ぬ?」 「稲荷と連れてるのにも驚いたが、」
俺が怖くねぇか。
長曾我部元親さんが俺の頭を触ろうとして髪の毛に触れる寸前に手をぴたっと止めた。 ぬん? 頭撫でてくれへんの? ちら、って見上げたら何だかまたさっきの寂しそうな顔で。 俺はちょっぴり背伸びして長曾我部元親さんの手に頭を擦りつける。
ほらほら撫でてやー。 さっき花ちゃんにやってたみたいにやぁ。 長曾我部元親さんは手がおっきいから優しくね。 俺別に長曾我部元親さんの事怖くないよ。 さっきのはちょっとびっくりしたってゆうか。 暗闇の中に突然血だらけのお兄さんおったら誰でも驚くやんか。 でも今はもう全然大丈夫なん。
「はっはっはっ!!」 「ぬお!」
ほんなら長曾我部元親さんが俺の頭をがしがしがしって…! 思い切りかき混ぜたん…! ちょっと待って長曾我部元親さん! そんな力いっぱい撫でられたら俺頭とれるん!!
「たのしそうだな、まきお!」 「花ちゃん…!!」
まじで! 俺頭もげそうなんやけど!!
「異形の鬼が怖くねぇたァ、オメーら大物だ!」
俺は鬼よ。 上でも下でも異形とされる鬼よ。 その鬼の手の中に入るか!! 俺達を忌み、辺鄙な島へ追いやった馬鹿野郎共に見せてやりてぇぜ!
長曾我部元親さんがおかしそうに笑う。 手の力はそのまんまやから多分そろそろ頭取れると思うけど俺…! すっかり傷が治ってしまった長曾我部元親さんはご機嫌で、花ちゃんを肩車して俺の頭をぐりぐりしながら歩き出した。
「ぬー!やめてー!」 「おらおらおら、随分丁度いい場所にありやがる。」 「首とれたら長曾我部元親さんのせいなんやから…!」 「まきおはなでられるのすきじゃねぇか。」 「てきどな優しさでおねがいしたいん…!」
じたばた暴れてたら「こえーこえー」なんて笑いながら手を離してくれた。 やっと解放された頭をさすって恨めしげにじぃーって長曾我部元親さんを見る。 ええもん。 俺かってそのツノ狙ってるんやから。 絶対触り倒してみせるんやから。
「そんなに触りてぇのか。」 「あかん?」
やってツノら触れる機会なんて滅多に無いし。 ちょっとだけでええん。 やぁ、触られたくないんやったら無理にとは言わんけど…
「ほらよ。」 「ぬ?」 「触りてぇんだろ?」 「ええの!?」
聞いたらさっき花ちゃんにしたみたいに頭を下げてくれる。 綺麗な銀髪が目の前でふわふわ。 そこから伸びてる細いツノにそっと触った。
「おおおおお…!」
手触りはつるつる。 とんがってる先は鋭い。 ツノの根元はしっかり頭にくっついてて固いん。 触ってたらこちょばいんか長曾我部元親さんが笑いながら頭を軽く振った。
あれやぁ、ごめんね長曾我部元親さん。 こちょばかった? もうええでありがとー。 満足!!
「よかったな、まきお。」 「うい!」
笑ったら長曾我部元親さんも笑われて、何でかイカリの上に乗せられた。 傷も直ったし、鬼ヶ島に帰るん違うんかなぁって思ったんやけどどうやら俺らをお社まで送ってくれるらしいよ。 …でもイカリ?
「あ、そういえば長曾我部元親さん。」 「あん?」 「上で誰と喧嘩しとったん?」
鬼さんって俺、すごい強いイメージあるんやけど。 ほら、金棒持って。 何でか長曾我部元親さんが持ってるんはイカリみたいな槍やけど。 …槍よな? 本物のイカリちがうわな? やってそんなん持てやんもんな?
でも何か全員イカリの上に乗ってもうたんやけどどういう事やろう。 このイカリ動くんかな。 俺らを乗せて動くんかな。
…… ………
まじで!!
「ああ、毛利の奴のちィとな。」 「毛利?」 「あっ!おれしってる!」 「花ちゃん?」
もうりって、あれじゃねぇか。 もうりもとなり。 おれとよくあそんでくれるかみさまだ!
…… ………
「神様?」 「花、おめーあの野郎と知り合いか!」 「きゅう!!」
花ちゃんによるとやぁ。 毛利さんって上にいる神様らしいよ。 神様。 神様やねんけどいつも下まで降りてきて花ちゃんと遊んでくれるねんて。 お餅食べたりしたんやって。 神様と。
え、神様ってそんなフレンドリーなもん? なんやお空の彼方でふんぞりかえってるようなイメージなんやけど。 お餅食べるんや。
「あの野郎、俺の島を「野蛮な愚民共の巣」なんぞ抜かしやがって。」
俺がむーん、って考えてたら長曾我部元親さんが眉間にぎゅっと皺を寄せた。 皺を寄せておっきなため息を吐くん。 もうあんまり怒ってへん感じやけど、やぁ自分の住んでるとここんなんゆわれたら確かに腹立つやんなー。
ぬう、喧嘩の決着はついたんやろうか。
「ああ、四日ほど暴れたからなァ。」 「よっか?」 「へっ!あの野郎の小奇麗な神殿をブッ壊してやったぜ!」
清々すらァ!!
「まじで!」
何その壮大な喧嘩。 喧嘩ってゆうかもう戦なかんじ。
「真樹緒、」 「ぬ?」 「お前ら人間にはちと迷惑かけたな。」 「へ?何が?」
ここ数日大雨降ったろう。 流石に毛利相手に手加減も出来ねぇからよォ。 本気出してたら下にも被害が出たみてぇでな。 岩屋に戻って驚いたのなんのって。
…… ………
「………ぬ?」
ええ、ちょっと待って。 どういう事それ。 鬼さんと神様が喧嘩したら大雨降るん? しかも結構な豪雨やったで?
四日?
…… ………
まじで!!
「そうら、しっかり掴まってろよ!」 「へ?」 「きゅ?」 「行くぜ。」
俺が長曾我部元親さんを見上げたら男前な顔がニヤって。 ニヤって口元が上がったん。
あれ、なんか嫌なよかん。 すごい嫌なよかん。 イケメンさんがイイ笑顔する時って大概いい事なんか無いねんで。
瞬き二回。 長曾我部元親さんから目線をそらす。 じゃら、ってイカリについてる鎖が鳴ったのが聞こえて急に足元がふらついた。
ちょっと待って。 これなに浮いてるんちゃうん。 イカリって浮いたっけ。 イカリって人が乗るもんやったっけ。 そもそもイカリって船とかについてるんちがうかったっけ。 花ちゃん何でそんなに楽しそうなん肩車されてるからなんやろうけど…!!
「舌噛むんじゃねぇぞォ!!!」 「にょぉぉぉぉぉ!!!」
ほんなら動いたん。 イカリ動いたん…!! 何で動くん…!!
てか飛んでる…!
長曾我部元親さんが鎖を引っ張ったらイカリが光だして。 光りだしたと思ったらまるでエンジンがかかったみたいに炎が出て。 イカリがまるでスケボーみたいな機敏さで洞窟の中を縦横無尽…!! この猛スピードの中、長曾我部元親さんの肩車できゃあきゃあ両手離しで喜んでる花ちゃんは流石お稲荷様やと思います…!!
俺ちょっとおうち帰りたくなってきた! まさむねさまたすけて…!!
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