「まきお、あしもときをつけろよ。」 「ういうい。」 「あめのあとだからすげぇすべるぞ。」 「あいあい。」
大丈夫大丈夫。 もー、花ちゃんは心配しょうなんやからー。 俺かって足元ぐらい見てるよー。 しっかり土と岩踏み締めてるよー。 だから花ちゃんもちゃんと前向いて進んでねー。 ちいちゃな足が滑ってしまうよー。
雨あがりの爽やかな匂いがする森を花ちゃんと二人でてくてく。 木と木の間からお日様に照らされて、森の雨粒がぴかぴか光る。 いつもの森とはまた違った綺麗さで、俺はちょっとわくわくしながら花ちゃんの後ろをついていった。 流石花ちゃんはお稲荷様で、軽快なリズムで岩やら木の枝やらの上をぴょんぴょん飛びながら俺を「おぬのいわや」へ案内してくれてるん。 「おぬのいわや」 どうやら花ちゃんがゆう土地神様がおるらしいよ。
ぬふー。 真樹緒です。 いつもは穏やかな流れやろうけど今は濁流な感じの川のほとりを花ちゃんみたくぴょーんと飛び越えながらこんにち、わぁ…!?
「にょー!すべったー!!!」 「まきお…!!」 「何かぬるっとしたもんふみつけたー!!」 「だからいったじゃねぇかまきお!!」
きをつけろっていっただろ! おまえはただでさえあぶなっかしいんだからよそみなんてしてるひまねぇんだぞぉぉぉ!!
「ごめんー!!」
花ちゃんごめんー! 俺気ぃぬいてた…! 気抜いたまんまめっさ川を飛び越える気満々やった…!
花ちゃんが伸ばした手をつかんで、川の近くにあった枝にも手を伸ばした。 足をちょっと川の流れにのまれながらそれでもしっかり力を入れて、必死で体を持ち上げる。 お空を飛べる花ちゃんはちいちゃいけどやっぱりお稲荷様で、眉をぎゅうって寄せながら俺を引っ張ってくれた。
「だいじょうぶかまきお。」 「ぬー…川に流されるとこやったー。」
俺泳げやんのに…!
安全な岩の上に上ってはぁ、ってため息。 心配そうに覗き込んできてくれた花ちゃんの頭を撫でた。 大丈夫やで、ってぐりぐりなでた。
ごめんな花ちゃんー。 心配してくれてたのになぁ。
「おれ、ちょっといそぎすぎたか?」 「ううん、俺が悪いん。」
よそ見しとったから。 今度はちゃんとゆっくり花ちゃんの後についていくから、また案内お願いできる? 一緒に来たんも花ちゃんのお手伝いするためやし。 土地神様のとこへいこう?
「きゅう。」
花ちゃんをぎゅってして、ちゃんと注意して歩くから、ってお約束してまた森を進む。 可愛いリスさんを見つけても歩きながらやなくて止まってご挨拶。 花ちゃんは不思議そうに首かしげてたけど何やすごい懐かれとったよ。 やっぱりお稲荷様は森の動物さんと仲良しなんやねぇ。 ほほえましー。
「あ、そうや花ちゃん。」 「きゅ?どうしたまきお。」 「今から行く土地神様ってどんな神様なん?」
太い木の幹の間を抜けて、根っこをまたいで。 お星さまみたいな花が咲いてる草原を歩きながら花ちゃんに聞いた。
「おぬのいわや」なんて聞いたことないん。 洞穴に住んでるんやったら岩の神様とかかな。 それか日影の神様とか。 花ちゃんはその神様見たことあるん? 後半分くらいだから頑張れ!って励ましてくれる花ちゃんはしっぽをくるって回して振り返る。
「とちがみさまか?」 「うい。」
やぁほら、何や怖い神様やったら人間の俺とか行ったら怒られるかもしれへんやん。 花ちゃんは優しいキュートなお稲荷様やけどやぁ、お祀りされてる神様は何や気難しいイメージー。 人間なんか知るか!って言われそうなイメージー。
「おれもあったことはねぇんだけどな。」 「ないん?」 「きゅう。」
ずっといわやをまもってくださってるんだ。 いいつたえではな、いわやのおくにはそのかみさまがすむせかいがあるんだぞ。 なんていったかな… おやしろにつたわるまきものにかいてあったんだけどな…
首を傾げたり腕を組んだりして花ちゃんが唸る。 やぁ、唸るゆうてもきゅうきゅう言うてるだけでちょう可愛いんやけど。 一生懸命思い出そうとしてる姿は何ともいえずキュートです!
「あ、そうだ。」 「ぬ?」
おもいだした。 おもいだしたぞまきお。
「うん?」 「おにがしまだ。」
…… ………
「………うん?」
俺が人知れず癒されとったら花ちゃんがぽん、って手を叩いた。 ぽん、って手を叩いて満面の笑顔でゆうたん。
「いわやのおくはおにがしまにつながってるんだぞ。」
えー… え? まじで? おにがしま?
まじで…!?
「きゅう。」
やぁ、花ちゃんそんな得意げにしっぽ揺らしてやんと。 ぴくぴくお耳揺らしてやんと。 今すごい大事な事言うたよ。
あれ鬼ヶ島? 鬼ヶ島ってほら、ちょう有名なあれちがうん。 鬼がごっさおるとこ。 よう桃太郎とか一寸法師とかにやっつけられてる鬼がごっさおるとこ。
こないだも政宗様に読んでもらったご本に載ってたで。 さしえで。 顔まっかで眉毛太くてしかも両方繋がってて角とか生えてるん。 もっとゆうたら体すっごいムッキムキなんやで。
そんなんがいっぱいおるとこに繋がってる洞穴がこの森にあったなんてー。 リアルミステリーツアー…!!
まじで…!!
「おぬのいわやだからな。」 「ぬ?」 「おぬ、ってのはおにのことなんだぞ。」
しらなかったのかまきお。
「まじで!!」
初耳―。 そんなん全然知らんかったよー。
おぬかー。 そう言えばちょっと語呂が鬼に似てるよね。 ふむふむなるほど。
えへん、って胸を張る花ちゃんに頷いた。 花ちゃんによるとな、目に見えへんもんとかこの世におらんもんとかが「おぬ」なんやって。 やから土地神様でも姿は見られへんかもしれやんねんて。 ほんなら俺の知ってる鬼とはまたちょっと違う感じなんかなぁ。 鬼ヶ島も実は鬼がごっさおるわけと違うんかなぁ。
ぬー。 すごい花ちゃん物知り! お稲荷様っぽい…! お稲荷様なんやけど!
「まきお、まきお、」 「ぬん?」 「ついたぞ。」 「え、もう!?」
俺が一人鬼について考えてたら花ちゃんに着物の袖をひっぱられた。
顔を上げたら目の前は大きな洞窟。 思ったよりも大きな洞窟の入り口は何や人の口みたいで、ちょっとひんやりした風が流れてくる。 ここから見える洞窟の中は思ったよりも明るくて、お日様の光に地面が所々照らされてて綺麗やった。 下から盛り上がってる岩みたいなんは鍾乳石なんかなぁ。 初めて見た。
幻想的―。
「綺麗やねぇ。」 「りっぱだろう?」
へへ、って笑いながら花ちゃんは洞窟に入っていく。
中の方に祭壇としめ縄があるらしいよ。 花ちゃんはお稲荷様やからこういう神聖な物に何かあったらぴくーん!って分かるんやって。 すごいでなー。
「いくぞまきお!」 「ぬんぬん。」
ではでは。 感心してやんと俺もちゃんとお手伝い!! 頑張ってしめ縄巻き直すよ!
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まだまだ稲荷とキネマ主。 鬼さんが出てこずすみません(汗)
何だろう、この二人がそろうと合間に本編とは特に関係の無いことを沢山話し出すので、とても長くなりまする。 本当はこの後つらつらと稲荷とキネマ主だけのお話が続いていたのですが、あまりにも長くなりすぎたので次回へ持ち越しました。
岩屋の奥には鬼が島(笑) キネマ主は特に怖がってはいませんが、ちょっぴり非日常にドキドキしていたりします。
それでは!
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