03



「って事で、俺家出してくるからー!」
「Wait!!真樹緒!」


どういうこった!
きちんと説明しやがれ!


「詳しいことは風魔に聞きなよ。」


あいつが原因だからさ。


「おいこら猿!」
「じゃ!」


真樹緒を背負い、右手をすちゃりと立てて颯爽と猿は窓を飛び出して行った。

突然の出来事に動く事ができなかったのは俺と小十郎で。
「ばいばーい政宗様!いってきますー!」なんぞ叫びながら、およそ家出というには程遠い程楽しげな声で叫ぶ真樹緒の背を呆然と見送り、やるせなく伸びた手がやはりやるせなく宙に浮いた。


「…待てって言ってんだろうが…」


何だ。
一体どうした。
てめぇは本当にいつも突然だな真樹緒。


「政宗様…」
「風魔はどこだ…」


真田の忍と共にいきなり部屋の窓からやってきたと思えば頬を膨らまし「家出するん」と。
止めるのもきかず真樹緒は姿を消した。


原因は風魔だというが、それも意味が分からない。
あの二人の主従らしからぬ間柄など、今更口に出さずとも周知の事実だ。
真樹緒は真樹緒で「こーちゃん、こーちゃん」といつだって忍の名を呼び、片や風魔はその声が聞こえると瞬く間に主の元へ駆けて行く。
そんな二人だ。
あれと真樹緒が仲を違える訳がない。


猿の野郎、一体どういう事だ。


「政宗様。」
「風魔はいたか。」
「いえ、それが…」
「…どうした。」


言葉を濁した小十郎に眉を上げ振り返る。
早々に真樹緒を追ったかと首を傾げてみればそこに。


………
…………


Ah?


そこに。


「…おい、風魔。
「(…)」
風魔。
(……ふるふる)


………
…………


小十郎。
「は、」
何で伝説の忍が部屋の隅っこでのの字書いてんだ。


凡そ伝説らしからぬ程の陰鬱な気をまとい、さめざめと風魔小太郎がその図体を小さく丸め部屋の隅で蹲っていた。


「…どうやら真樹緒と悶着があった様です。」


呆れたように息を吐く小十郎によると、どうやら真樹緒がへそを曲げたのは猿が言った様に風魔に原因があるらしい。
ばかなと思うが目の前の忍を見る限りそうも言っていられない。
陰気な気配はじわじわとこの部屋を包み込もうとしている。


鬱陶しいこと甚だしい。


真樹緒と風魔の間に何があったのやら。
説明しろと促せば、部屋の中にもう一つ知らない気配が入ってきた。


「何者!」
「まて小十郎。」


俺の前に出た小十郎を制し、跪くそれを見る。
ただ静かに頭を垂れるばかりで言葉を発しないそれは風魔に一度目をやり、そして再び俺の前に戻すと礼をした。


「お前が元凶か。」
「(こくり)」


風魔と同郷だというくの一が現れた事で事態の凡そは想像がついた。
そのくの一が元凶というのなら、そう言う事なんだろう。
二人連れているところを真樹緒にでも見られたか。
それだけで家出とは穏やかでないが、真樹緒の事だただ拗ねているだけだろう。


「そこを猿にかっ拐われたのは気に食わねぇがな。」


甘やかし、慰めるのは俺の役目だこの野郎。

一つ分からない事があるとすれば、いつも主の側を離れずにいる例の風魔が陰気な雰囲気で未だ城に留まっているのかという事だ。
こんな事態には真っ先に猿を追うのがあいつだろう。
何を置いても小さな主がいの一番で、他は二の次だというのに。


「それが、」
「Ah?」
真樹緒に追うなと命じられているようで。


………
…………


成る程。
それでこの体たらくか。
伝説の名が泣くぞお前。
ちらりと風魔を見れば相変わらずで、腑抜けた伝説の忍に息を吐く。


「いかが致します。」


真樹緒の向かった先は甲斐と存じますが。
目線を投げてよこす小十郎は勝手知ったるものだ。


「迎えに行くに決まってんだろ。」


言えばすぐに腰を上げその準備を始めた。

真樹緒が拗ねてしまったのならば仕方がない。
早々にご機嫌を取りに行かねぇとあいつが腹を据えるとそれはそれは長い。
甲斐へ居着いてしまうのは許さねぇ。
真樹緒はうちの真樹緒だ。


「風魔。」
「(…)」
「俺達は真樹緒を迎えに甲斐へ行く。」


お前はどうする。


風魔を見ずに立ち上がる。
あくまでも主の命を全うするというのなら止めはしない。
このままここで俺達を待て。


「ああだがそれであいつの機嫌が直るかねぇ。」


あいつはお前らが睦まじく連れていたから拗ねてるようだしなぁ。


「(ふるふる!!)」


そうではない、と忍にあるまじき必死さで首を振る風魔に喉が鳴る。
だったらてめぇがすべき事は一つだろうが。
真樹緒の命がどうした。
追いかけて来て欲しいと、そんなあからさまにねだられて。
お前はじっとしていられるのか。


なあ。


「急がねぇと猿に取られちまうぜ。」
「っ!!」


瞬く間に風魔の姿が消えた。
やれやれと首を振れば申し訳なさそうに俯くくの一が目に入る。
「軽率でした」と目を揺らしたくの一はすぐに姿を消した。
再び城に来る事はないだろう。
風魔との間柄は気にはなれどそれは後で真樹緒に聞けばいい。


「何も心配するこたぁねぇのにな。」


蝶よ花よと溺愛されて、端から見れば始終甘ったるく、二人ふよふよと花でも飛ばしそうな雰囲気でいつもそこにいるというのに。


「何を拗ねたんだあいつは。」
「風魔が、」


かのくの一の頭を撫でてやったのだそうで。
それを見た真樹緒の可愛らしい嫉みであります。


「…よく知ってるな。」
「当人が申しておりました。」
「はん、」


成る程。
真樹緒らしい実にcuteな理由だ。


「明日は我が身にございますな。」


最も、真樹緒を一番に甘やかしている政宗様には過ぎた忠告にございましょうか。


「心外だぜ小十郎。」


的を得ていて些かの否定もないが。
それを言うならお前こそ。
真樹緒を甘やかしたがりたいのは実はお前だろう。

不敵な笑みで振り返ってやれば小十郎からも同じそれが返ってきた。


「ええそうなれば。」


負けるつもりは。


「くく、いいねぇ。」


ならばそろそろ俺達も甲斐へ向かうと行くか。
窓から見える空にまだ日は高い。
この分なら本日中に甲斐につけるだろう。
先に着いているはずの風魔がどれだけ真樹緒を宥められたか、冷やかしに行こうじゃねぇか。


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こーちゃんのお迎えです。
キネマ主は本当はこーちゃんに来て欲しいのですよ(笑)
強がってしまうお年頃なのです。

次回は甲斐サイドから。
幸村さんや、おやかた様にこーちゃんが浮気したんやでと愚痴っているかも知れません(笑)

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