「むー……」 「真樹緒?」
知ってる人?って言うさっちゃんにお返事せんとやぐらの方をじっと見る。
ううん。 俺全然知らんよ。
「…」
こーちゃんの隣にいるのはこーちゃんより背が低い小柄な人で、もしかしたら女の子?かもしれへんで。 顔はよう見えやんけど、何やこーちゃんに話しかけてるん。
……話しかけてるんよなぁ。 特に二人が向き合ってる訳でも無いし、こーちゃんもお相手さんも口動いてへんからよう分からんの…!
は!! もしかしたらあの人もお忍びさんなんやろうか。
「里の仲間かなんかかねぇ…」
風魔の里がどこにあるかは知らないけどさ、剣呑な雰囲気は無いみたいだし。 まぁ、危険が無いなら別にいいんだけど。
「邪魔もされないみたいだしねー。」 「ぬー、さっちゃん苦しー。」
今このほかほか取られたら俺様寒すぎて死んじゃう。 さっちゃんが俺をぎゅうして屋根に座り込んだ。
やだわさっちゃん。 俺カイロ違うんやけどー。 そんな力一杯ぎゅうってされたら息が出来ないわ! こーちゃんらも見えないわ!
「何、お汁粉食べに行かないの?」
さっきから言ってたのに。
「こーちゃんらが気になるん。」
やって仲良さげやん。 こーちゃんとあのお相手さん。 こーちゃんがあんな風にお話ししてるんて鴨田さんしか知らんねんもん俺…!
すごい気になるん。 すごい気になって。
「……」 「真樹緒?」
ほんで、ほんで、ほんの少しちょびっとだけ、もやっとするっていうか。 こーちゃんは俺のこーちゃんやのにな、って。 そんなとこでこっそり(こっそり違うかもしれへんけど)お話しせんでもいいのに、って。
さっちゃんの腕からのそのそ顔を出してやぐらをじーい。
「あ…、」
そしたらこーちゃんと目が合った。 ばっちり目が合った。
やぁ、前髪で分かりにくいけどな、こーちゃん俺にちゃんと俺に気付いてくれたんよ。 「あ、見つかっちゃった。」なんてゆってるさっちゃんの腕から身を乗り出して手をぶんぶんふった。
こーちゃんこーちゃん! 俺ここにおるよ! さっちゃんがお仕事帰りに寄ってくれたからさっちゃんもおるよ! その人はお友達ー?
「…」 「…?」 「(ふるふる)」 「…、」
「ぬ?」
あれ、でもなんかすごい良い雰囲気? やぁ、相変わらず声とかいっこも分からんけど! どうしても口パクに見えてしまうんやけど!
ぶんぶん振ってた手を止めてさっちゃんを見上げた。 二人仲良しさんなんどうしよう。 声かけたんやけど、何やお邪魔できやん感じなん。 こーちゃん楽しそうに笑ってるみたいやし… 口元緩んでるし。 訴えるような目を向けてみたんやけど。
「……さっちゃん?」 「もう、本当こーちゃん激しいんだから。」 「……何でクナイ?」
さっきこっちに気付いたこーちゃんがちょっとね。 いやぁ、流石の俺様も驚いた驚いた。 でもこーちゃんはこうでなくっちゃね。
さっちゃんな、右手の指にクナイ三本挟んではははって笑ってるん。 はははって笑ってるさっちゃんはでも実は目が笑ってません。 クナイはこーちゃんが投げたっぽいんやけどいつの間に!
こーちゃんいつの間に…!
流石は伝説のお忍びさんー。 すごいん。 いっつも思うけど、ほんまにすごいんー。 でもそれをちゃんと受け止めてるさっちゃんもすごいね!
「あらよっと。」
ほんでそれを投げ返すさっちゃんも凄いね! 右手で三本とも投げてもうたよ!
首元をひゅって冷たい風が吹き抜ける。 真っ直ぐ飛んでいくクナイはこーちゃんめがけて一直線。 でもさっちゃんが本気で投げてへんのは分かってるから心配ないん。 こーちゃんやったらよけれるで! 多分キャッチもできるで!
やからそのままクナイを目で追ってたんやけど。
「え…」
キンキンキン!
クナイが、 さっちゃんが投げたクナイがこーちゃんの隣におったあの子に弾かれた。 弾かれたクナイはぱらぱら下に落ちて行く。 それから何でもない顔して、こーちゃんを見上げたその子は静かに一回おじぎした。
ぺこり、って。
「…」
…すごい。 やっぱりあの子もお忍びさんなんや、って思ったら胸の奥がどくん。 こーちゃんと一緒のお忍びさんで、こーちゃんと同じくらいすごいんやって、どくんどくん。 じんわり手も汗ばんで。
「あ、あれ…?」
あれ、何でやろう。 なんなんやろうこれ。 俺心臓がなんかおかしい。 原因は分からんけど何やおかしい。 どきどきしてもやもやする。
しんどい。
俺の知らん人とこーちゃんが仲良くて、その人がこーちゃんと同じくらいすごくて。
「ふぅん。」
さっちゃんが何や思わせ振りな声で頷いてるけど、それも遠いとこから聞こえてるみたいにキーン、って。 俺、ちょっとおかしい。
「真樹緒?」 「…。」
さっちゃんのポンチョをぎゅうって握りしめた。 目はきょろきょろ。 こーちゃんらを見るのは、ちょっと胸のとこがやっぱりどくどくするから止めようって思うのにやっぱり気になって。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、ってちらって覗く。 ほんならこーちゃんは。 俺がこんなにしんどいのにこーちゃんは。
こーちゃんは…!
「…」 「…、」 「…(こくん)」 「(なでなで)」
こーちゃんは…!
「……っ!」
あの子の頭を! お忍びさんなあの子の頭をぐりぐり撫でてん…! 俺の頭撫でるみたいに優しくこーちゃんの大きい手で頭一杯ぐりぐりって…!
こーちゃんは、こーちゃんは…! 俺のこーちゃんやのに! こーちゃんに撫でてもらえるのは俺の特権やのに!
「〜〜〜っ!」 「真樹緒、どう」 「こーちゃん!!」 「真樹緒!?」
なんで。 なんでこーちゃんその子の頭撫でてるん。 俺、 俺ここにおるのに!
名前を呼んだらすぐに来てくれるんはいつものこーちゃんと一緒。 手を伸ばしてくれるのもいつもの優しいこーちゃんと一緒。
でも、でも。
「…?」 「いやや!」
触らんといて!
ぱし、ってそのこーちゃんの手をはねのけた。 やって、やって。 俺の頭撫でようとするねんもん。 さっきあの子の頭撫でたその手で撫でようとするんやもん。 それは嫌なん。 何か、嫌なん。
「…!!」
叩かれたそのまんま止まってるこーちゃんの手とこーちゃんをかわりばんこに見て、しんとする空気に目の奥が暑くなる。 じぃって見てくるこーちゃんの視線が切ない。 「どうして。」 そんな声が聞こえてくるようで。
やって、やって、こーちゃんが…!
「真樹緒、可愛い顔が台無しだよ。」 「…さっちゃん、」
さっきまでどうしたのって顔してたさっちゃんが抱き締めてくれた。 俺でも分かってへんこの気持ちをまるで全部分かってるみたいに、あったかい手でそっと背中を撫でてくれた。
「…なあに、真樹緒、」 「さっちゃん…」 「うん?」
さっちゃんの声が優しくて喉がつまる。 気まずい雰囲気の中で、普通に何でもないように俺の背中をポンポンあやしてくれる。 大丈夫だよ、ゆっくりでいいよ、ってゆるゆる温めてくれる。
でもその間もこーちゃんの視線が痛い。 うろたえるようなそれをどうしても受け止められやんくて目をつむった。
「…っこーちゃんの…」 「…?」 「…こーちゃんの浮気ものー!」 「!?」
もう! もう!! こーちゃんもう!!
何でおれ以外の人の頭撫でるん! 優しくするん! そんなん、そんなん、 そんなん、嫌なん。
俺の我が儘やって分かってるけど、あほな事ゆうてるん分かってるけど。 けど嫌なん…
……… …………
「さっちゃん。」 「…どうしたの。」 「俺家出する。」 「…それはまた新しい展開だなぁ。」
いやいやまさか家出とくるとは。 そうくるとは。 独眼竜が黙っちゃいないねぇ、きっと。 俺の知った事じゃないけど。
「何、甲斐に来る?」
旦那も大将も喜ぶよ。
「行く。」
でもその前に政宗様とこじゅさんにご挨拶するん。 やからお部屋に行こう。 さっちゃんに早くって抱きついた。
こーちゃんがおろおろしてるけど、それがちょう可愛いけど、今は。 今は振り返れへんもん! ぴく、って俺に手を伸ばそうとしたこーちゃんをじろり。
「…こーちゃんは追っかけてきたらあかんねんから。」
「!!」
ぷーんだ。 ここでその子と仲良くしてたらええやんか! 頭撫でてあげたらええやんか! 俺なんかおらんくてもいいでしょー!!
ぷい、って顔をそらしてさっちゃんの胸に顔を埋める。 さっちゃんさっちゃんお願いね! 甲斐までよろしくね! でも先に家出の事ゆわなあかんからまず政宗様のお部屋にレッツゴー!
「……いいの?」 「なにが?」 「こーちゃん。」 「…しらーんもん。」
俺は家出するって決めたんやもん!
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カオル様からいただきました企画リクエストです! ご参加ありがとうございました! まったり更新申し訳ないです(汗)
頂いたリク内容はキネマ主とこーちゃんの喧嘩でございます。 他の人に優しくするこーちゃんにキネマ主が焼きもちやいてしまって喧嘩しますが、最後はやっぱりラブラブで。
小太郎さんと一緒にいたのはカオル様のリク通り許嫁で妹ポジションなお忍びさんなのですが、うまく伝わらずすみません(汗) あまり出張るのも、と思いまして… 本人らは妹と兄ポジションにしか思っていないのに、きっと里の偉いさんが煩いのでちょっと様子を見に来た、という事でどうでしょう。
妹も会話はできません。 でも兄の大事な人なので、キネマ主の事も好きなのですよ妹は。 キネマ主の焼きもちに狼狽えてしまった兄の肩を頑張ってねと叩いてくれまする(笑)
カオル様! リクエスト本当にありがとうございました。 後書きにて改めてご挨拶させていただきますが、こちらでも御礼を申し上げます。
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