16





どうやら真田幸村を始め、他の奴らは真樹緒に見つかってしまったらしい。
茶室の水屋に寝転んで耳を澄ませば聞き慣れた声があちこちで。
一度あった爆発は一体何なのかは分からないが、恐らく「かくれんぼ」が始まって早々に暴れだした忍達に業を煮やした誰かの仕業だろう。


あえて誰だとは言わないが。
心中察するに余りあるぜ。


そろそろ己の番だろうか。
見つかってはいけない遊戯のはずなのにどこか見つかりたいと願う己がいて、政宗は思わず口元が緩んだ。


「くく…」


さあ早く来やがれ俺のsweet。
待ちくたびれたぜ。


穏やかな風の音とさらさらと鳴る笹の音が眠気を誘う。
目を瞑れば畳の青臭い匂いが広がった。
ああ本当に眠ってしまいそうだ。


体がとても重い。
力を抜けばすぐにでもまどろんでしまう。


きっと真樹緒は今頃屋敷にいるんだろう。
庭を探し、厨を探し、畑を探し、俺の部屋も探し。
一体ここにはどんな顔をして現れるのか。


「…早く来い。」


政宗様見つけた、と。
早くその小さな口で。


脳裏に浮かぶのは眩しいほどの笑顔。
思わず目を瞬いてしまいそうな笑顔。
その途端もうすでに限界に近かった意識が温かい何かに包まれるようにとろけ、腕も足も動かず。


ただただその何かに身を任せ、俺の意識はぷつりとそこで途切れた。


***


「……あれ?」
「ぶも?」


政宗様を探してお城の中をどんぶらこ。
いろんなお部屋を探してみてもおらんくて、お城のお庭の端っこにあるお茶室にやってきたら政宗様が気持ちよさそうに眠ってました。
真樹緒ですよこんにちは!!


「政宗様?」


やぁやぁ、寝てるで政宗様。
ぐっすりよ。


お茶室にはな、お茶をたてる床の間とそのお茶の用意をする水間ってとこがあってな、政宗様その水間にどーんと寝てたんやで。
かくれんぼしてたけど俺が中々見つけにけぇへんから寝てもうたんやろうか。


「おーい、政宗様やーい。」


政宗様のほっぺたぺちぺち。
さらさら気持ちいい髪の毛をわっしゃわっしゃ。


でも政宗様全然起きへんのやで。
ぬう、本格的に寝てしまってるよ政宗様。
かくれんぼ中やのに。


やだわー。
待たせ過ぎちゃったかしらー。
ごめんなー。


「…政宗様、」


せーっかく見つけたのに。
「見つかったー!」ってなってくれやなつまらんー。


もー。
政宗様、もー。
ぶうって頬っぺた膨らましてもむにっとしてくれる政宗様がおらんからやっぱり面白くありません。
やだわー。


「……ぬー。」


しょうがないから政宗様の隣に転がって、ちょっと開いてる脇のスペースに入り込んでみた。
すっぽり入れてどうしましょう。


俺が小さいからやないよ。
政宗様の脇が俺に調度ジャストフィットやからやで。
小さいからやないん。
間違わんように気をつけて!!


「ぴったりー。」


政宗様のお腹にだきついて俺も眼を閉じた。


あったかほこほこ。
最近奥州も寒くなってきたからくっつくのも気持ちええよねー。
これやったらすぐに寝れそうよ!


ぬふふん。
お休み。
政宗様お休み。


政宗様が起きてくれへんから俺も寝てまうんやもんね!


「ぶも。」
「鴨田さんもお休みー。」


俺の頭の上で大丈夫?
寝にくかったら政宗様の頭の方へ行くんやで。


「ブモモ。」


はい、では。
鴨田さんも落ち着いた事やし。
お休みなさい!


***


「………Ah…?」


うとうととまどろんでいたのはほんの僅かの間だ。
ふいに身動ぎをしようとすれば右肩が動かず、その異変に瞼を持ち上げる。
気だるい体をよじってみると腹に真樹緒がへばりついていた。


動けないのも道理だ。
真樹緒は小さな体をさらに小さくして俺の腹と腕に巻きついている。
一体いつの間にやってきたんだお前。


「……真樹緒?」
「ぬにゅー…」
「何だぬにゅーって。」


ぐずるように顔を俺の胸に擦り付けて、まだ何だか分からない言葉をつらつらと。
顔を覗き込めば餅のような頬に涎が垂れていた。
余りにも気持ちよさそうに眠っているので起こすのが忍びないぐらいだ。


「くく…」


いつここに来たんだ。
なぜ起こさなかった。
聞いてやりたい事は沢山あるのにどうもこの顔を見ていると。


「……真樹緒。」
「ぬぅー…」


垂れていた涎を指ですくい、幸せそうに緩んでいる唇に口付けた。
お前は鬼じゃなかったのか真樹緒。
易々と俺を見つけておきながら危機感も無く。
しっかり捕まえていねぇと逃げられたらどうするんだ。


「んー…んぅ…」


逃げるつもりは更々無いが。


「真樹緒。」
「…ぬ……?」


寝てそれほど経っていないのか、少し揺すれば真樹緒は瞼を動かした。
このまま寝かせてやりたいところだがそれでは俺がつまらない。


なぁ、真樹緒。
かくれんぼをしてたんじゃないのか。
さっさと起きて、俺を見つけやがれ。


「…ぬー…、」
「起きたか。」
「!!政宗様!」
「Good morning」
「やぁ!政宗様!!」


政宗様いつ起きたん!!
じぃとそのまま見ていれば、先程の眠たげな目が嘘のようにこれでもかと目を見開いて真樹緒が起き上がった。
ぺたぺたと俺の顔を触りながら「やぁ、俺来た時はぐっすりやったのに!」と笑いながら。


「顔ぺちっとしても起きへんかったで政宗様。」


俺政宗様のお名前呼んだのに。
全然目ぇあけてくれやんから俺も政宗様の小脇に挟まってみました。
ジャストフィットやったん。



やから思わす俺も寝てもうてやー。
気がついたらぐっすり。
政宗様にくっついてたらあったかくて気持ちよかったんよ。


ぬん。
政宗様の方が先起きてもうたんやねぇ。
言いながら真樹緒は小さく欠伸をひとつ。


「くく…かくれんぼじゃなかったのか。」
「むぅ、政宗さまこそ。」


こんなとこで隠れやんと寝てたやん。


唇を尖らせているお前はcuteだが、そんな言い草は心外だ。
ちゃんと隠れていただろう。
人気の無いところで騒ぎもせず静かに息を潜め。
眠ってしまったのは計算外だが、それもこれも目を瞑った先でお前が笑うからだ。


「ぬー?俺?」
「何でもねぇ、」


くつくつ喉を鳴らせば真樹緒が覗き込んでくる。
何もねぇよともう一度言って「かくれんぼ」は終わったのかと小さな額に唇を落とした。


「もう政宗様でさいご。」
「Really?」
「うん!」


俺の勝ちやで。
ちゃんと見つけたんやから。
寝てた政宗様が悪いんやから!
得意げな真樹緒首を捻る。


「ああ、」


そう言えば、鬼が勝てば俺達が鬼の願う事を何か一つ、聞かなければいけなかったか。
成実が言っていたruleだが、考えれば考える程意味のねぇruleだな。


真樹緒の願い事なんざそれこそいつだって。
全力で叶えてやる位のものは俺だけに限らず。
分かってねぇのはお前だけだこら。
幸せそうな顔しやがって。


「ぬふー。」
「俺の負けで結構だ。」


初めから勝ち目など。


真樹緒を抱き上げて笑う。
さぁ俺のsweet。
これからどこへ。
どこへなりとお連れ申し上げるが。


「あ、そうや。」
「Ah?」
「松永さんとことー、畑に寄ってー。」
………Ah?


松永さんとこにはこーちゃんとさっちゃんがおってー。
畑にはこじゅさんとゆっきー、おシゲちゃんが追いかけっこしてるはずー。
そりゃあもう命がけの。
三人とも何かまじやったん。


真樹緒が笑っているが内容が笑えねぇ。
小十郎と成実、真田幸村が何だって。
忍達が何だって。



「…真樹緒。」
「うい?」
……「かくれんぼ」なんだな?
「うぃ。」


もちろん!!
全員俺が見つけてきたんやで。
やぁ、隠れてへんかった人もおったけどね!
どんなに皆が暴れても、松永さんとかが指ぱっちんしても、これはあくまでかくれんぼ!!


言ってる事に少しも真実味が無いのはいつもの事だが。


「あ、」
「あァ?」
「そうや政宗様。」


忘れてた。
さっきちょっと寝てもうて忘れてた。
政宗様こっちむいて。


茶室を出たところで真樹緒に顔を掴まれた。
何だどうした。
頭を打つなよと言いながら身をかがませ縁側に出ると真樹緒が笑って「政宗様」と。


「あんな、」
「どうした。」


政宗様じっとしててや。
動いたらずれてしまうから。


「ちゅっ。」
「お、」
「ちゅっちゅっちゅっ、」


政宗様のおでこにちゅう。
お鼻にもね。
それからやっぱりお口にも。


ちょっとかさってしてるんはさっきまで寝てたからかなぁ?
でもちゅうしてるから大丈夫ね!


「熱烈だな真樹緒。」
「んー、ちゅ!」
「くすぐってぇよ。」


やぁ逃げたらあかんよ。
かくれんぼの鬼に見つかったらちゅうされやなあかんねんで。
他の皆にもやったん。


………Ah?


何だって?


「他の皆にもちゅうしたん。」


全員か?
うぃ全員。



「奪っちゃったー。」


あ、松永さんは鴨田さんやけど。
ほら、鴨田さん。
忘れてたかも知れへんけど実はずっと頭の上におったんよ鴨田さん。


「…政宗様?」
「……真樹緒、」
「……ぬ?」


話は分かった。


そうか。
あいつらが。
あいつらがお前の唇を。



OK、OK



「政宗様…?」
「真樹緒。」
「ぬ?」
「風魔と真田の忍はどこだって?」


やぁ、二人は松永さんのお部屋のとこ。
ほらイチョウの木があるとこやん。
政宗様も知ってるやろう?


「他の三人は。」
「えーと、畑。」


多分まだ追いかけっこしてるはずやで。
何や本気やったもん。
こじゅさんはまじで怒ってたし、ゆっきーもおシゲちゃんも楽しげに武器振り回してたん。
ほんまあの武器どっから持ってきたんやろう。
不思議。


「真樹緒。」
「んんっ、」


見上げてきた真樹緒を床に下ろし口付けた。
お前は何も気にすることは無い。
ただ俺の腹の虫が納まらないだけだ。
だからここで少し待っていろ。
すぐに迎えに来てやるから。


「うん?」


あれ政宗様どこ行くん。


そんな声が聞こえてきたが今は振り返ってやる余裕も無い。
小十郎や成実、風魔はまだ良しとしよう。
だが、真田幸村やその忍までを許してやる程俺は出来てねぇんだよ。



「あ、ちょっと政宗さまー!!」

いい度胸だ真田幸村!無事に甲斐まで帰れると思うなよ…!!

にょー!武器持ってどこいくんー!!



終!!

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