06



かくれんぼかくれんぼと、自分の隠れる場所を探しに屋敷の廊下を歩いていたら「破廉恥にござるぅぅぅ」と庭の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


ああ多分あれはきっと真田殿だろう。
真樹緒に捕まったのかな。


……
………


まぁ予想通りだよねー。


どうも。
最近何かと真樹緒に甘いんじゃないかと噂のおシゲちゃんだよー。
それこそ今更何言ってんのって話だよね。
俺が真樹緒に甘いのは何時もの事じゃない。


小十郎に溜息を吐かれてしまったのは全く以って心外だ。
まぁ確かに。
今回の事は俺らしくなかったかもしれないけれど。


「さーて、俺はどこに隠れようか。」


今回の「かくれんぼ」は、最近構ってやれていなかったお詫びを実は兼ねていたりする。
梵は梵で政務に追われ、小十郎と風魔にも何かにつけて仕事があった。
色々忙しくもあって寂しい思いをさせていただろう。
だから少しぐらい羽目を外したってねぇ。


「きっと庭を探し終わったら畑か屋敷だなー。」


ここにだってすぐにやってくるはずだ。
見つからない自信はあるけどね。
そればっかりじゃ面白く無いし。


ほら、かくれんぼって見つかってなんぼじゃない。
特に今は真樹緒が鬼なんだよ。
きっと「おシゲちゃん見つけたー!」って飛び込んできてくれるよ。
そこはちゃんと抱きしめておかないとさ。
おシゲちゃんとしては。


「うん?」


さぁ、そこそこ隠れられてうまく見つかるようなそんな場所は無いかねーなんて思いながら廊下を歩いていたら、厨の前で鼻をくすぐる匂いに足を止めた。


白い湯気と共に匂ってくるのは甘い香り。
そっと中を覗けば女中達がきゃぁきゃぁと。


「何の匂いかな。」


何だか楽しそうだけど。
いい食材でも入ったの。
声をかければ「成実様!」「見苦しい所を!」と、思わず頭を下げられてしまったので慌てて首を振った。


「咎めている訳じゃないよ。」


ただ、とてもいい匂いが廊下まで香ってきたから何だろうと思って。
そう言うと一人の老女中が笑いながらざるを見せてくれた。
そこには栗がざるから溢れる程たくさん盛られてあって。


「あれ、栗?」
「今年の初物にございます。」


実が大きく、沢山届きましたのでこれから羊羹にでもと思いまして。
真樹緒様にも喜んでいただけるかと。
後でお持ちいたしましょうか。
柔らかく笑う老女中にそれはいいねと返してふと。


「…、」
「成実様?」
「いや…」


うん、栗羊羹は真樹緒だって大好きだ。
何でも棒状の羊羹を丸ごとかぶりつくのが最近の夢らしいよ可愛いよね。
それこそ叶えてあげるぐらい訳無いんだけどほら、こういうのってお母さんよりお父さんのが煩いんだよ。
一気に沢山食べるのは俺もどうかと思うし、今のところ真樹緒の夢は実現される予定は全く無い。


いや、それはそれでいいんだけど。


「…少し、栗分けてもらってもいい?」
「お食べになられますか?」
「いいや、ちょっとね。」


うんちょっとね。


ほら、真樹緒の喜ぶ顔が見たいっていうか。
羊羹だけでも真樹緒はきっと満面の笑みで笑うんだろうけれど、でもどうせなら自分の作ったものでと思うのは唯の俺の我侭だ。
料理は梵のが上手なんだけど俺だってねー。
真樹緒に「おいしいおシゲちゃん!!」って言ってもらいたいじゃない。


って事で。


「この間いい砂糖も入ったんだよね。」
「はい、それならこちらの瓶に。」
「ありがとう。」


待ってなさいよ真樹緒。
おシゲちゃん、手によりをかけて美味しいお菓子作ってあげるから。
そしてその可愛い声で「美味しい」って言ってね。


その後は、愛しすぎて抱きしめてしまうかもしれないけれど。



「真樹緒殿!」
「ぬ?」
「次はどちらに参られるのですか?」
「えーとやぁ、おシゲちゃん狙いでお屋敷!」

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