02



静かな庭に風が一筋吹いて、猪嚇しの音が響いた。
その音に驚いたのか池の鯉がばしゃりと跳ねる。
鯉が跳ねれば池に浮かぶ紅葉がゆらゆらと揺れて実に趣深い。
庭には暫く水音が続いていたが次第に辺りは元の通りに静まりかえった。


秋深まる晴れた日。
今日も奥州は平和である。



「却下だ。」
「にょー!!!」


政宗様と一緒にこじゅさんのお部屋に来て「秋だ皆で本気かくれんぼ大会!」の計画をものすごく一生懸命にお話したのに、すぱんと切り捨てられて思わず食べてたいそべ餅を畳に落としてしまいました。
かくれんぼがどんだけ楽しいんかを誠心誠意お話したのにこじゅさんは俺を睨んでばっかりです。
真樹緒ですよこんにちは!


あ、いそべ餅はちゃんと政宗様がキャッチしてくれたから大丈夫。
まだ食べれるん。



餅を食いながら誠意が伝わると思うなよ。
「ぬー。」


やぁーって。
こじゅさんとこ行くのに炊事場通ったら女中さんがくれてんもん。
皆さんで食べて下さいねーって。


お醤油がきいてておいしいん。
ほら、こういうんあつあつのうちに食べやなあかんやん。
お餅が伸びるうちに頂かなあかんやん。
ほら政宗様も食べてるやんー。


「醤油がうまいな。」
「ねー。」


ねー。
お醤油が決め手よね。
おいしいん。


「Delicious」


やぁ、それは分かるんやけどでも政宗様、それ俺のたべかけ。
政宗様のんはそっちにあるやん。
おもち。
俺のん食べんとって。


「ほれ。」
「むー。」


手ぇ伸ばしたら政宗様がいそべ餅俺の口の中に入れてくれた。
やわらかもっちもちのいそべ餅やで。
しあわせ。
今日のお茶はほうじ茶なん。
俺、お抹茶よりこっちの方が好みー。
あったかほっこりするん。


「真樹緒。」
「んん?」
「早く食わねぇと落ちるぞ。」
「ぬー!伸ばしたらあかんてー!」


俺がもちもち食べてたら政宗様な、笑いながらお餅伸ばすねんで。
俺の口に半分お餅入ってるってゆうのに!
もーういやらしいん!
いじわるいん!


やめて、って言うてるのに政宗様楽しそうやしやぁ。
俺の口はもぐもぐ動いてるから文句言えやんし。
ちょっとこじゅさんどう思う!
こうなったらもう俺にはこじゅさんしかおらん。
ぐる、ってこじゅさんを振り返ったらその勢いに任せて頭をがっしり掴まれた。


「……ぬ?」


こじゅさん?
あれこじゅさん。
頭痛いん。


「真樹緒。」
「うぃ。」
「政宗様。」
「Ah―…」
今は何の話をしてたんだてめぇら。
「「!!!」」



怖い。
こじゅさんが俺だけやなくって政宗様にも怖い。


あんな、こういう時はこじゅさんに逆らったらあかんねんで。
ちゃんとごめんなさいしやなあかんねんで。
間違っても言い返したりしたらあかんねんで…!!


こじゅさんにかくれんぼ大会のお願いです…!


お餅をちゃんと飲み込んでこじゅさんにぺこり。
忘れてたわけちゃうねんで!
ほら政宗様が俺のお餅食べるから。
ごめんなさいこじゅさん。
ちゃんとお願いするん。


「…こじゅさん、」


かくれんぼしたいん。
ほら、皆で楽しそうやん?
もちろんこじゅさんも一緒にやで。


最近皆忙しくって中々遊べやんかったやろう?
ほら、こじゅさんもお出かけとかようさんあったやん。
政宗様もお仕事ばっかりでやぁ。
俺、最近一人で寝てばっかりよ!


「…一人は寒いん。」


でも今はもう忙しい事無いやろう?
やから皆で遊びたかったん。
騒ぎたかったん。


「…真樹緒。」
「寂しかったのか?」
「…ちょびっとね。」


俺の頭を撫でながら政宗様がそうか、って俺を抱きしめてくれた。
悪かったな。
構ってやれなくて。
そう言って政宗様は俺をぎゅう。


いつもやったらこじゅさんがおるのに!って逃げるんやけど今日はちょびっと特別。
何たって久しぶりやからね!
すり、って政宗様の首に擦り寄った。
政宗様の匂い、久しぶりなん。


おちつく。
今日は一緒に寝てな。
やくそくやで。
言いながらすりすり。
気持ちいいん。
後でこじゅさんにもすりすりしに行こう。


「ぬー。」


政宗様にくっついて頭撫でてもらって。
ああ幸せ、って思ってたらこじゅさんが「はぁ」って。


「こじゅさん?」
「くく…」
「政宗様?」
「鬼の小十郎が形無しだね。」
「おシゲちゃん!!」
「小十郎が真樹緒に折れるなんざ今に始まった事じゃねぇぜ。」


顔を上げたらこじゅさんがため息吐きながら首振ってたん。
ああもう、本当に。
小さく呟きながら。


俺、どうしたんか分からんくって首傾げてたらこじゅさんの後ろから真樹緒にお客様だよ、っておシゲちゃんが!!
おシゲちゃんいつの間に!
さっき探してんけど全然見つからんから俺どうしようかと思ってたん。
どこにおったんー。
手え振ったらおシゲちゃんが振り替えしてくれる。
やさしい!!


「いやぁ、ちょっとお客人を迎えにね。」
「お客人?」
……早くねぇか。
「大丈夫。」


門全部閉めてきたから。
でも時間の問題だけどね突破されるの。
それならそれで門を破壊した責任はちゃんと取ってもらうから。
抜かりは無いよ。


「ぬ?」


おシゲちゃんと政宗様が何やしゃべってるけどよう分からんの。
何のお話?
こじゅさん見たら首を振ってばっかりでやー。


「真樹緒。」
「うぃ?」
「よかったな。」


Memberがそろったぞ。
小十郎のお許しも貰って後は迎え撃つのみだ。
政宗様が俺をだっこして立ち上がる。


あれ?
こじゅさん許してくれたん?


「見りゃ分かるだろう。」
「やぁ、ものっそい溜息ついてるけど。」


ええの。
あれでええの。


「of course」


ええんや。


さぁ、真樹緒。
思いきりかくれんぼとやらをやろうじゃねぇか。
俺に笑って、こじゅさんに笑って、おシゲちゃんに笑って政宗様は外を見た。


そこには「真樹緒殿ぉぉぉぉぉ!!!」っていう声と土煙が広がってて。
「だからちょっと待て旦那ぁぁぁぁ!!」っていうさっちゃんがぴょんぴょん飛んでるのが見えて。


「(しゅた!)」
「あれ?こーちゃん?」


こーちゃんがきらっと光るクナイ持って飛んでいったんやけどあれは止めやんでええんかなぁ?


ぬー。
今日はかくれんぼ大会なんやけど。


「真樹緒。」
「ぬ?」
「かくれんぼと言えど勝負は勝負。」


Survivalだ。
止めてやるな。
やけにイケメンな政宗様が真面目に俺の頭を撫でたからここは止めやん方向で!
あれ、でもまだかくれんぼ始まってへんねんけど。
さっちゃんちょう気をつけて!!


「ちょ!あんた今日俺様まだ何もしてないでしょ!!」
「(シュシュシュ!!)」


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