「一体これはどういうおつもりでござるか真樹緒殿…!」
「どうもこうも…」
真田幸村がやって来るのは誤算だった。 手にした六爪がやけに重くて思わず舌打つ。
たがここで少しでも躊躇っている暇はねぇ。 目の前にいるのは真田幸村だ。 寸分の油断も許されない。
俺と真樹緒の中身が入れ替わっているという信じ難い事態の今、一番ややこしい事を仕出かしそうなこの男を真っ先に落としておかねば絶対に面倒臭い事になる。 間違い無い。
なぁ、そう思わないかlady共。 話の分かりそうな猿はそのままでも構わねぇ。 ただこの男だけは…!!
「悪いが眠ってもらうぜ!!」 「っ真樹緒殿!!!」
お止め下され!!
二槍で刀を受けた真田には驚きと困惑が見て取れる。 事態を図りかねているのかその腕に力は篭っていない。 ああ、そりゃぁそうだろう。 普段はほよほよと笑う真樹緒がお前を迎え撃ってるんだ。
「ちょっと真樹緒!?本当にどうしちゃったの!」
「うるせぇ猿!手ぇ出すなよ!!」
「真樹緒が反抗期…!?」
だがな真田。 てめぇの困惑なんざ取るに足らねぇ問題だ。 考えてもみろ。 Cuteな真樹緒が近づいて来たと思えば思い切り額を打ち付けてきた時の俺の衝撃を。 そしてその後、図らずも中身が入れ替わるっつー不測の事態が起こった時の俺のshockを。
ふ…俺は身の毛が弥立ったぜ。
このまま俺と真樹緒が元に戻り、事が穏便に収拾されるまで悪いがてめぇはお呼びじゃねぇ。 大人しく落ちやがれ…!!!
「HELL DRAGON!!!!」 「何と政宗殿の技を…!!」
思い切り六爪を振り下ろした。 にやりと笑って、目を見開く真田幸村の額を狙い思い切り。
説明は後でしてやる。 ただ今は黙って俺の太刀を受けやがれ。 轟音と共に上がった土煙は俺と真田の姿を隠し、もうもうとたなびいてゆく。
「…やったか?」
手応えは確かなものでは無かった。 真田も虎の子、そう易々と一撃を食らいはしないだろう。 ならばもう一度か。 そう思い体を起こそうとした時だった。
「……真樹緒殿…」 「っ!?」
その体がぐらりと傾いたのは。
風に吹かれ、細くゆうるく土煙が晴れていく。 ぼこりと窪んだ地面に俺と真田幸村は対峙していた。 何故か俺が真田幸村に組み敷かれるという形で。
「………Ah…?」 「真樹緒殿…!」
腕を動かそうにも、真田に押さえつけられている手はひくりとも動かず何か思いつめたように俺を見下ろしてくる真田に背筋が冷えた。 冷える程、奴の顔はマジだったんだ。
「っちょっと待て真田幸村…!」
近い! てめぇ近いんだよ顔が! 真樹緒のちっせぇ体は真田に体重をかけられれば動く事すらままならず、ならばと足を蹴り上げ踵を腹に入れてやっても全く効きやしねぇ…!
「…水臭いでござる。」 「さ…さな、」 「いつもの様にゆっきぃと呼んで下され真樹緒殿。」
だから俺は真樹緒じゃねぇんだよ…! 何思いつめた様な顔してやがる。 手を離しやがれ。
じろりと睨み、じたばたと暴れても軽くいなされる細い体が恨めしい。 いつもの破廉恥はどうしたテメェ…!!
「某、真樹緒殿とは戦いとうござりませぬ。」
い、いつもの様に甘味を共に食べたり、真樹緒殿のお話を聞きながら笑い合いたく! そっ…某、真樹緒殿が笑っておられるのがと、とてもおおおお可愛らしくその、某も満ち足りた気持ちになります故…!
いっいえその! 深い意味というのはございませぬ!
し、しかし。 しかし某、その真樹緒殿が以前甲斐に居られました時より、真樹緒殿を思うとどうも体の奥底が熱く時にはもやもやと只ならぬ気を持て余しております。 一体これはどういう事なのかまだまだ未熟な己では分かり兼ね、真樹緒殿にお聞きしようとも思うておりました。
「真樹緒殿…某は一体どうしたらよいのでござろう…!」
「……」
…… ………
知らねぇよ。
「………Jesus…」
思わずひくりと口元がわなないた。
顔を真っ赤にして俺を見下ろす真田の初心は今に始まった事じゃねぇが、このままだと色々まずい。 非力な真樹緒の体では、この男がもし何かの拍子にタガが外れてしまった時に満足な抵抗は望め無い。 常識が通用しないのがこの男だ。 甘い顔をしていてその腹の中に何を飼っているのか分かりゃしねぇ。
早く。 早く大人なしくさせねぇと後々面倒臭ぇ事に…
「真樹緒殿…」 「っ離せ…!」 「お答え下さるまで離しませぬ。」
………もうすでに面倒臭ェ…!!!!
「っ…っ…!」
真樹緒…! お前体が元に戻ったら色々鍛えてやるから覚悟しやがれ…! 真田如きに簡単に組み伏せられねぇように扱いてやる…!!
渾身の力を振り絞るとはこの事だ。 自由が利くのは頭だけ。 さっきよりもより一層近づいた真田の額目掛けて思い切り頭を振りかぶった。
ゴッ………!!!!
「離せって言ってんだろうがぁぁぁ!!」
「ぐあ…!!??」
本日二度目の裂くような痛みが頭から首を走る中、間違ってもこいつと入れ替わったりしてねぇだろうなと思わず真樹緒の体を確かめた。
「…ふー…」
大丈夫だ。 目の前に伸びているのは人の話を聞きやしねぇ赤い男で、俺は未だ真樹緒の体の中にいる。 どうやらこれでようやく振り出しに戻ったようだと、深い深いため息を吐いて真樹緒達がいる座敷を見上げた。
「政宗様―!!!だいじょうぶー!?」
「ちょっと本当、これどういう事!?」
「あ、さっちゃん。」
「………えっさっちゃん?」
「あ、もう、真樹緒!ややこしくなるから大人しくしてなさい!」
「え?真樹緒!?」
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