01



秋の匂い色濃い風が窓からそよぎ、頬を撫でていく。
身が焦げるような夏が過ぎ、大分過ごし易くなった奥州は戦も無く至って平和だ。
今日も今日とて相変わらず机に向かい、つまらない執務に欠伸を噛み殺しながら未だ日の高い空を見上げていた時だった。


「なぁなぁ、政宗様―。」
「Ah―?どうした。」
「俺、ちょっと考えててんけどー。」


真樹緒がのそりと背中に張り付いてきたのは。


「あ、今だいじょうぶ?」
「of course.」
「ぬー。あんなー。」
「どうした。」


さっきから畳の上でごろごろと転がりながら絵巻を見ていたんじゃなかったのか。
「お仕事が終わるまで待ってるんー」といじらしい笑顔を咲かせたのはつい先程の事だったのに。
けれどこうも甘い声に誘われては振り返らない訳にはいかず、背中に引っ付いている温もりをずるずると引っ張り上げ腕の中に抱きしめた。


さぁ、どうした俺のsweet。
待ちきれなくなったのか。
相変わらず可愛い奴だなお前はよ。
頬をうりうりと撫で、細まった目元に唇を落とす。
「こちょばいやん」とはご挨拶だ。
愛でているんだじっとしてやがれ。


「お鼻やったらええで。」


あんまりこちょばないから。
でもちょっとはこちょばいんやで。
気ぃつけてな。


「鼻にもするがここにもする。」
「もー。」


けらけら笑う真樹緒に気がするまで口付けて、さぁ今日は一体何を思いついたんだと頭を撫でた。
そうすれば「あんな!」と勢いよく。


「俺とー、政宗様のー。」
「俺とお前の。」
「おでこをなー。」
「おでこを。」
「ごつんってしたらやぁ。」


どうなると思う?
ほらこうやって。
言葉の通り、額をこつりと寄せてきた真樹緒が大きな目で俺を見上げている。


「なぁ、なぁ、どう思う?」


その返事に淡い期待が見てとれる(いや、どちらかと言えば何かを企んで浮かれているような)真樹緒の言っている意味が分からない俺はふん、と一つ息を吐いて。


「kissが出来るんじゃねぇか?」
「ぬっ!!」


聞こえよがしに音を立て、その小さな唇を奪ってやった。
額と額が合されば縮まるのは距離で。
間近に見えるお前がより一層愛しくなるだけだろう。


ん?違うか。
首を傾げれば当の真樹緒はわなわなと。


「ちっ違うんー!」
「Ah―?」
「もう政宗様!」
「どうした。」


ちゃうの!
そういうんとちゃうの!
もう!
ちゃんと聞いてや!


ぷくりと膨れた真樹緒の頬は赤い。
これまでに何度も合わせてきたというのに何を照れている。
初心なお前は相変わらずcuteだが余りそんな顔をするな。


「ぬ?」
「止まらなくなるだろう?」
「んぅっ!」


不意に見せた隙を狙い、もう一度真樹緒に口付けた。


「ん、んー!」


逃がさないように少し腕を強め。
柔らかいそれを食む。
優しく舐っては真樹緒の体が震えるのに喉を鳴らしながらゆっくりと離れた。


「…ちゅうのお話してへんかったやん…」


もう、と。
ちゃんと聞いて、と。
力の抜けた体でしな垂れかかる真樹緒に笑い、ああ悪かったと柔らかい髪を撫でた。


お前と共にいると自制が利かなくて困る。
そう言えば確か額の話だったか。


「そう、おでこ。」
「二人で合わせて。」
「うん。」


それからどうするんだ。


「あんな、」


聞いて政宗様。
もうちゅうしたらあかんで。
ちゃんと聞いててや。
そんな前置きで話し出した真樹緒はやけに楽しそうだった。


「こう、ごつんってぶつかるやん?」


結構思いっきり。
俺、漫画で読んだ事あるねんけど、こうごつんってぶつかったらやぁ。
二人の中身がもよーんって入れ替わるねん。
もよーんって。


………Ah…?
もよーんやねん。


やぁ、角度とかたぶん大事やと思うん。
でもこうグッとやってガッてやってバッとなってもよーんやから大丈夫なん。


……
………


…も、…?
「もよーんやで、政宗様!」
「…」


一体何の話だ真樹緒。
額の話から何故そんな妙な擬音が出てくる話になってんだ。
入れ替わる?
一体何の話だ真樹緒。


「やからー、」


もしな、俺と政宗様がこうグッとやってガッてやってバッとなったらもよーんって入れ替わらんかなーって思って。
入れ替わったらおもろいなーって思って!


どう!
政宗様どう!!
漫画では大概ちゃんと入れ替わってたから俺らも大丈夫やで!
やってみよ!!


……
………


……Ah…?
って事で真樹緒行きます!!
っwait!!!


待て真樹緒!!
早まるな!
そもそも入れ替わる訳がねぇ…!!
近づいてくる真樹緒の額を手で押さえようと腕を伸ばしたが遅く。


「いっせーのーせぇ!!」
っ!!


ゴッ…!!!!


小さな額がぶつかったとは思えぬ程の音を出してそれは目の前で弾けた。



「ぬー!!いたいんー!!」
…っお前、どこにそんな力が…


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入れ替わりました(笑)
まさかの自発的チェンジです。

御影様にいただきましたリクエスト、「キネマ主と筆頭が入れ替わる」でございます。
御影様、企画へのご参加ありがとうございます!
なんとたぎるリクエスト…!
私のテンションがあがったりですー!!

リクエストの御礼はお話が完結しました折に改めましてさせていただきますね。
どうぞ暫くお付き合い下さいませ。

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