03



「こじゅさん、痛くないー?」


こじゅさんの背中を手ぬぐいでごしごし。
自分とは比べ物にならんほど広い背中をごしごし。
ヒノキのいい香りの中、こじゅさんのお背中流してる真樹緒ですー。
こんにちは!!


「ああ、丁度良い。」
「ぬふー。」


丁度ええんやって!


さっきこじゅさんが俺の頭を洗ってくれたやろう?
やから今度は俺の番なん。
お湯かけてな、手ぬぐいで背中ごしっとするんやで。


鴨田さん?
鴨田さんはもう洗い終わったから湯船でぶもぶも言うてるよー。
気持ちよさそうなん。
ほんで温泉の雰囲気出るかなーって思ってな、頭にちっちゃい手ぬぐい乗せてあげたんやで。
ぶもーって言いながら湯船に浮かんでる鴨田さんはちょう癒しです!
後で一緒に遊ぶん。


「こじゅさーん。」
「どうした。」
「…、」
「真樹緒?」


やぁ、こうやって見たらこじゅさんの背中ってほんまに広いなーって思てやぁ。
ほんで何や傷がいっぱい。
きっとな、刀傷やと思うん。
背中とかわき腹とか。
もしかしたら前に回ったらもっとあるかもしれへんなぁ。


むきむきなこじゅさんの体の傷は、もう全然血ぃとか出そうにないぐらいに全部塞がってもうてるけど、何や気になってぺたぺた。
こじゅさんの怪我をぺたぺた。


「真樹緒、どうした。」
「ぬー。」


なぁなぁ、こじゅさん。
こじゅさんの背中、怪我でいっぱいなん。
そんな怪我とかびくともせぇへんような背中やけど、でもいっぱいなん。
こじゅさんが真樹緒って呼んでるけど、ぺたぺた。
触った後、その自分の手ぇ見てたら「もう全部塞がってる。」ってこじゅさんが。


「あ…」
「何もつかねぇだろう?」


振り返って俺を見てたん。
昔の傷だってちっちゃく笑いながら。


「…もう痛ない?」
「全くな。」


若かった頃に負ったもの、敵と対峙した時のもの、あわやと覚悟を決めた時のもの。
数え切れない程の傷に、今までの己が全て結集している。


痛みを感じる事はもう無い。
だが回顧を弛むこと無く今を緊要に。
傷を負うたびにそう思う。


「こじゅさん…」


こじゅさんが笑いながら俺の頭をわしゃっと撫でた。
それより早く流してくれって。
体が冷めちまう、って。


「ああ!かんにん!」


ごめんやでーこじゅさん!
あったかいお湯かけるからな。
ちょっと待っててや。
桶でお湯すくってこじゅさんの背中にざっぱん。


お待たせしてごめんなー。
ちょっと背中の傷が気になっちゃって!
ほら、こじゅさんって政宗様とおんなじでクールかと思いきや、熱いやん?
やから色々無茶してもうたんちゃうかな、って。


「よく分かったな。」
「笑ってる場合ちゃうでー。」


もくもく湯気が上がる中、お疲れ様でした!ってこじゅさんの背中をぽんぽん叩く。


もう、こじゅさん。
笑い事やないよ。
とっても素敵な背中やけど。
ぺそっとくっつくんには抜群の背中やけど。


「真樹緒?」
「ぬー…このままお風呂いくんー。」


こじゅさんの背中にぺそっとな。
抱きついたらふわん、っていい匂いするん。
あぁ、こじゅさんやなーって目ぇつぶった。


「真樹緒。」
「ぬーん。」


どけへんもん。
このまま運んでぇやってちっちゃくお願い。
首にぎゅっと巻きついて。


なぁ、こじゅさんこのまま運んで。
湯船のとこまで連れてってー。
後ろからこじゅさんを覗き込んだら体が浮いた。
この甘ったれが、って俺を担いで歩くこじゅさんが笑うん。


「離すなよ。」
「だいじょうぶー。」


ええんやもん。
甘ったれでええんやもん。
こじゅさんが、政宗様が、甘やかすんが悪いねんから。
言い返したら絶対にまた笑われるから、黙ってこじゅさんの首に抱きついた。


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