「ぬー…やっと落ち着くんー。」
真樹緒の体が女の子になってしまって一日。 昨日の騒ぎが嘘のように真樹緒はすっかり元に戻ってしまった。 平たくなった胸をぽんぽん叩きながらふにゃふにゃ笑ってる真樹緒の背後では、梵と甲斐の忍が風魔に詰め寄っている。
どうも。 お久しぶりのおシゲちゃんだよ。 影薄いとか言わせないんだから。
「風魔、例の薬を出さねぇか。」
「(ふるふる)」
「あんただってもう一回可愛い真樹緒を見たいでしょ!?」
「(しゅっ)」
「ちょ!あっぶね!!」
…… ………
下らない。 あれだけ小十郎に灸を据えられたのに懲りていない梵に、こちらもあの風魔と一戦交えていたくせにけろりとしている甲斐の忍。 真樹緒の体を女の子にした薬を出せとさっきから。
もう本当、馬鹿ばっかり。
そしてここで一喝入れてくれるはずの小十郎は未だ朝から松永サンと庭で戦闘中だ。 そうまさかの。 奥州のお父さんがまさかの。 ほら、小十郎一回キレたら長いじゃない。 きっと日が暮れるまでは帰ってこないよ。
でも俺だけにこの状態を収拾させろってのが無理があるよね。 いくら俺が奥州のお母さんでもそんな面倒臭い事、御免だから。
これはもう真樹緒連れて氏政殿のところにでも逃げようかな。 「実家に帰らせていただきます」って真樹緒に言わせてさ。 あ、面白そう。
「おシゲちゃーん。」 「んー?」
いいね、それ。 うん。 あと少ししても収まらなかったらそうしよう。 俺が一人でうんうん頷いてたら真樹緒がぱたぱたと走ってきた。 それはもう、とってもご機嫌な顔で。
何、真樹緒。 どうしたの。 そんな可愛い顔で両手なんか広げて走ってきたら、おシゲちゃん思いっきり抱きしめちゃうよ。 さぁおいで。
「俺、戻ったんー。」 「おっと。」
ぼすんと飛び込んできた体は「おシゲちゃんおシゲちゃん」と俺の首元に擦り寄ってくる。 はいはいなぁに。 何だか本当にお母さんになったみたいで可笑しくて、真樹緒の頭を撫でながら笑う。
「俺、大変やってんで。」 「よしよし頑張ったね。」
梵に襲われそうになって、甲斐の忍に乳触られて(これについては真田殿に報告させてもらうよ)松永サンに足触られて。 もう本当、おシゲちゃん心臓が飛び出るかと思っちゃった。 思わず本気出ちゃうところだったよ。
ちらりと梵達を見れば未だ諦めきれていないようで、相変わらず風魔に丸薬がどうのという声が聞こえてくる。 懲りないね。 本当、懲りないね。
「女の子になってもうてやぁ。」 「可愛かったよ?」
そりゃぁ真樹緒の事だから、男の子だって女の子だって可愛いのに変わりは無いよ。
ふわふわの髪と、柔らかい体、甘ったるい匂いにその笑顔。 全部が真樹緒で全部が愛しい。 可愛い可愛い俺達の真樹緒だ。 笑うと顔を上げた真樹緒が拗ねた様に膨れた。
「もう、おシゲちゃんまで。」 「褒めてるんだよ。」 「俺は男の子なんー。」
おシゲちゃんのいけず。
「心外な。」
その膨れた頬を突っつきながら立ち上がる。 本当、柔らかいこと。 おシゲちゃんちょっと至福よ今。 そんな事を思って喉を鳴らした。
さぁ、真樹緒。 そろそろ真樹緒のこーちゃん助けてあげないと。
「ぬ?」 「ほら。」
困ってるよ。 甲斐の忍は軽くあしらっているけれど、流石に梵の相手はこのままだと難儀なんじゃないかな。 ほら。 梵、くーると見せかけて実は猪突だから。 馬鹿な事にだって一直線なんだよ。
「まぁ、聞け風魔。」
「?」
「もし真樹緒が子を為せばcharmingな子が生まれてくるとは思わないか。」
約束しよう。 Charmingでcuteな子を必ずお前に見せてやる。 ああ、勿論お前がすべからく仕えるべき子だ。
「…!!!」
「えっちょっとそこで揺らぐの!?」
…… ………
ほらね。 猛進なんだよ。
「ま…政宗様…何いうてるん…」 「真樹緒。」 「ぬ…?」
ちょっと耳貸して。 梵の方を見て呆然と立ち尽くしている真樹緒の耳に手を添える。
よく聞くんだよ。 俺の言うことちゃんと聞くんだよ。 そしてガツンと言ってやるんだよ。
梵に。 そして現実が見えなくなってる忍達に。
「…え、いうてええの?」 「大きな声でどうぞ?」
さぁ、真樹緒。 言ってあげなさい。 小さな背中を梵と甲斐の忍の前にとんっと押し出した。
「ま、政宗様!!」 「Ah?真樹緒?」
どうした。 構って欲しいのか? ちょっと待ってろ。 今風魔と大事な話をしているところだ。 終わればすぐに抱きしめてやる。
そんな真剣な顔したって駄目だから梵。 言ったでしょ。 真樹緒のおっぱいは俺が守る。
「えっと、」 「真樹緒?」
「お、おれ…」 「Ah?」
「俺っ!じっかに帰らせていただきます!!!」
「「「!!!!」」」
お見事。
「これでええ?おシゲちゃん。」
ばっちし。 完璧。 よく言えたね、偉い偉い。
そしたらこっちにおいで。 実家に帰るよ。 氏政殿のところにいくよ。
いっそ清々しい程に固まった面々を満足気に見て、俺は真樹緒を抱き上げた。
「てめぇどういうつもりだ成実。」
「だからまだお嫁にやる気無いって言ったでしょ。」
「ちょっ、真樹緒!実家ってどこ!!」
「(ふるふるふる)」
「ぬー?俺もよう知らんねんよー。」
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おまけなのに長くてすみません(汗) 一日経って元に戻りました。 戻ったものの、諦めきれない政宗様と佐助さん。 そして少し揺らいだ小太郎さん。 この流れは少し頂いたコメントに乗らせて頂きました。
おシゲちゃんが実は一番強いんだよーというニュアンスが伝われば幸いです。 別に黒い訳じゃないのですよ(汗) 実直なのです。 思った事はすぱっと有言実行なナイスガイなのです。
ですがあくまでおまけなのでさらっと読んでやってくださいませ。 それではこれにて本当に完結でございます。
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