腕の中の主は、いつもより一層小さく頼りなげで。 力を入れ過ぎてしまうとその体を折ってしまいやしないかと風魔は少し腕の力を抜いた。
「こーちゃん、俺ちゃんと元に戻るかなー?」 「(こくり)」
任務があるからと、主の傍を離れたのは今朝の事だ。 そして、先日に作っておいた丸薬の数が足りないと気がついたのも今朝の事だった。
体内に馴染ませ体の変化を促すその丸薬は心身に害は無いものの、忍でない者が使用した折の効果副作用は未知。 数を間違えぬよう細心の注意を払い調合したはずだ。 それが一つ足りない。
よもや紛失するなど。 けれど何度数えても一つ足りない丸薬にじわりと嫌な汗が流れた。 そしてまさかと。 慌てて城へ戻ってみれば案の定。
「…、」 「こーちゃん?」 「…」 「どないしたんー。」
へらりと笑う主は昨日よりも一際小さい。 どこもかしこも矢鱈と柔らかくなって、触れるのさえも躊躇ってしまう。
主の体は確かに今、女だった。 ふわふわと甘い匂いのする小さな女子だった。
できるだけ無礼の無いようにと遠ざけた体はすぐに捕まって。 己がどれ程うろたえているか知りもしない主は、突然女子の体になってしまったというのに楽しげだ。 小さく漏れた溜息は聞こえているだろうか。 いつもの様に体を寄せてくる主に今度は違う汗をかく。
「…」 「こーちゃん?」
あなたは、己なぞがおいそれと触れて良い方では無いのです。 分かっておられますか。
少しだけ。 もう少しだけ用心を。 そんな思いを込めてじぃ、と目を覗き込めば「頭撫でるん?」と。
「…」 「よしよしー。」
こーちゃんは今日も可愛いなぁ。 はい、こっちおいでー。 よしよしー。
「……」
小さな手でぐりぐりと頭を撫でられてしまった。 それはもう、花でも飛ばしそうな程、眩しい笑顔で。
「…」 「こーちゃん?」
もう、本当に好い加減にしなきゃ自分だって限度ってものがあるんですよと。 あなたの忍である事に誇りと自負は絶えず持っていますが自分だって男子です。 余りに危ういあなただから時折くらりと眩暈がする思いです。
伝わらない思いに焦れて、風魔は思わず項垂れた。
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