あにきおかみ


火鉢や囲炉裏の火で温まりすぎた部屋からちょっと息抜きのために雪がしとしとと降る庭を見るために出て来た明智の光秀さん。
足元に懐いてくる三毛猫の頭なんか撫でたりして。
白い息を吐きながら傘もささずに庭を一回り。

温かい部屋の中ではキネマ主や武蔵君が餅を焼いていたりすごろくしていたりとにぎやかですが、お庭には雪の降る音だけが耳を撫でます。
手を伸ばして雪をすくって。
じわりと溶けるそれを見ながらまた一息。

特に理由も無く過去とか別に思い出さなくてもいい事を思い出してしまって、今と比べてしまって、どうにも今が幸せすぎるんじゃないかと柄にもなく不安になってしまって、ちょっとセンチメンタルになる明智の光秀さん。
思わず目を細めて雪が降りて来る空を見上げてしまいます。

灰色の空は自分の腹の内のようでもやもやする。
不安になる資格など無いのにうまく整理がつかない。
ああこのままここに立っていたら雪に埋もれてしまえるだろうか。

そんな物騒な事を考えてる明智の光秀さんですがそんな事キネマ主もむさし君もあにきも許すはずがないので。
ここは久しぶりのアニキおかみでいきたいと思いますアニキが迎えに来てくれるよ。


「何してンだい。」

そんな薄着で。

「鬼。」
「風邪ひいちまうだろ。」

ただでさえてめェは喉が弱ェんだからよ。
体冷やすな。


そう言って自分が着てる上着をきせて、首にも襟巻巻いてくれる元親さんですいけめん。
大きな上着を着せられて襟巻ぐるぐる巻かれてもこもこになった明智の光秀さんは暖かさを取り戻してやっと雪から空から視線を元親さんに戻します。


「雪が積もってるぜ。」


笑いながら頭に積もった雪を払ってくれる元親さんはちょっと明智の光秀さんの様子がおかしいな、って分ってるけれどもいつも通りにふるまってくれます。
明智の光秀さんが聞かれても答えられない事を知ってるのです。


「鬼、」
「あン?」
「……」
「どうしたい。」


背中から明智の光秀さんを抱き込んで細い体をあたためる元親さん。


「鬼。」
「おウ。」


言いたいなら言やァいい。
言いたくないならそれでいい。
どうした。
俺はここにいるぜ。


「私ね、幸せなんですよ。」


今。
こうやって寒空の雪の中立ちすくんで。
過去の己を腹の内に住まわせて。
私はどうあがいても私だという、その事実をもってしても。


「幸せなんです。」


どうしましょう。
頭の中は今、坊やと真樹緒と忍びのおやつの事でいっぱいです。
夜にやってくるという毛利をどうもてなしてやろうかという事でいっぱいです。
私がこうやって庭に出て、そうしたら鬼がおいかけてくるだろうという予想が見事に当たった事が幸せでなりません。


「本当に、どうしましょうかねえ。」


めもあてられない。


そんな事を言う明智の光秀さんはそれでも口元は笑っていて。
元親さんの胸に背中を預けながらほうと息をはくのです。

そんな明智の光秀さんをかかえ、明智の光秀さんの頭に顎を乗せながら楽しげな元親さんは明智の光秀さんにばれないように顔をくしゃくしゃにして笑い。


「そーかそーか、そりゃァいい。」
「鬼?」
「もっと幸せになっちまえよ。」


真樹緒と坊主は餅の入ったぜんざいが食いたいって言ってたぜ。
毛利には秘蔵の酒を出してやりゃァいい。
俺には。


「俺はオメーが俺の腕の中にいたらそれで十分だ。」


けらけらと笑ってぎゅうと明智の光秀さんを抱きしめる元親さん。
めをぱちくりと見開く明智の光秀さん。
冷たい鼻先を首におしつけられながら元親さんの言う事を反芻する明智の光秀さん。
オメー体温低いなァ、なんて言われて首元にちゅうとかされても反撃できない明智の光秀さん。


「…鬼、」
「あん。」
「……鬼。」
「何だよ。」
「………鬼。」
「だから」
「あなた本当に安い鬼ですねぇ…」
「あァ?」


憎まれ口をたたくけれども満更でもない顔の明智の光秀さん。
そんな明智の光秀さんを見てしまったから元親さんは何にも言えないんですね。
ため息はいて明智の光秀さんの頭をぐりぐりするぐらいしか反撃しないんですよ。


「痛いです鬼。」
「あァん?」
「もう温かくなったので腕も離していいですよ。」


というか離して下さい。
わたし真樹緒と坊やと忍びのおやつを作らなくては。
いい小豆をいただいたんです。
餡を作って、残りはぜんざいにしましょう。


「つれねェな。」


もっと甘えてこいよ。
切ねぇ声で鬼、鬼、ってよ。


「いつも通りです。」


いつわたしがそんな風に呼びましたか。
心外です。


「可愛くねェの。」
「ふふふあなたは少し可愛かったですよ。」


拗ねた顔は気に入っています。


なーんていちゃいちゃ。
この後は二人一緒にお部屋に戻るんじゃないですかね。
お庭にキネマ主と武蔵君と小太郎さんが迎えに来てもいいんですけれども、お庭はほら二人っきりにしてあげたいというかね。
お部屋の中では別世界っていうね。

でもお部屋に戻るとお部屋の中が暑すぎて換気の名の元、明智の光秀さんが扉やら窓やら全開にするんですけれど。


「ぬーん!明智の光秀さんさむい!ちょう寒い!」


せっかくお部屋ぬくもってたのに!
快適やったのに!
一気に!
一気にお外と同じおんどに…!


「汗をかいていた癖に何を言うんです。」


ちゃんと換気をしないと感冒にかかりますよ。
少ししたら閉めますからちゃんと汗をふきなさい。


「まきおー!ゆきであそぶぞ!」
「むさしくんなんでそんなに元気なん…!」


換気がおわったらお待ちかねのぜんざい。
元親さんはこんな雰囲気を幸せだねェ、なんて思いながら見守っているよ。



という事でおそまつさまです。
まさかの拍手が小ネタな上、あにきおかみというアレでソレな感じで大変恐縮ですが、何の動きも無い亀サイトに遊びに来て下さる方々に感謝をこめて。
いつも本当にありがとうございます!

01/25


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