[おへんじ]鬼さん


「鬼さーん、」
「いかがしました、真樹緒殿。」
「お湯きもちーねー。」


ぽかぽかあったかくなるね。
初めは熱くてしょうがなかったけど、ぬくもってるとじんわりくるってゆうか。
体の芯からあったまるってゆうか。


ぬー。
いいよねー、露天風呂。
俺、しあわせー。


「ぬー。」
「真樹緒殿、手拭いが。」


ずれておりますれば。


「おでこ乗せて―。」


おねがーい。
俺もうお風呂気持ちよくって動きたくないんー。

ぬー。
俺このままずーっとおってもええぐらいー。


「おや、この後は宿の者が腕を振るった夕餉にございますよ。」


腹は減っておられませぬか。
ここは海鮮が名物なのですが。


「!ごはん!?」
「すしが人気とか、」
「おすしー!」


やぁやぁ食べる!
鬼さん俺お腹空いてるよ!
やぁ、おすしの事考えたら余計にお腹空いて来たってゆうか!
とたんにお腹もなりだしそうよ!


「はは、風呂はもう満喫されましたか?」
「ういうい、とっても!」


体もあったまったしー、景色も楽しんだしー、貸切ってゆうてくれたからいつもはあかんってゆわれてるお風呂でスイミングもやってみたしー。

ほら、何せ今日は鬼さんと俺の二人っきりの旅行やから!


ぬーん。
あのね、今日は鬼さんと俺だけの旅行なん。
鬼さんがお久しぶりにお暇が取れてやぁ、「真樹緒殿、私と共に旅などいかがですか」って笑うからな。
丁度その時俺も暇で、うーん、政宗様とかこじゅさんとかおシゲちゃんとか、こーちゃんとか揃って急がしそうやったん。
理由を聞いても内緒やし、俺がお手伝いしようとしたら大丈夫だよ、ってゆわれるし暇やったから鬼さんと一緒に旅行の真っ最中です!


一泊泊まって帰るんやって。
お城をお昼ぐらいに出てね、お馬にのってぱっかぱっか。
海沿いをぱっかぱっか。
まったり半日かけてお宿についたんやで。
それからゆーっくりお宿の露天風呂を堪能してたわけです。


でも次はご飯!
海の幸!!
体ぽっかぽかのままお部屋に戻ったらそこには机の上いっぱいの晩御飯!


ぬーん!
豪華!


「真樹緒殿、どうぞこちらへ。」
「おひざ?」


ええの?
ご飯食べる時お膝に乗ったら行儀悪いっておシゲちゃんとかこじゅさんとか怒ってくるよ?
やぁ、政宗様はいっつも俺を乗せてくれようとするんやけど。
俺も政宗様とくっつくんは好きやからたまにそのままでおろうとするんやけど。

最終的にはいつも怒られちゃうのよねー。
奥州のお父さんとお母さんに!


「今宵は小十郎もいませんし、成実殿もおられませんよ。」

「!」


鬼さんが笑いながら手招きしてゆうん。
一緒にご飯食べましょう、って。


机の上にはおいしそうなご飯がいっぱいで、俺も、鬼さんと一緒にくっつきながら食べた方が楽しいかなって思ったり…
思ったり、


「さぁ、何をよそいましょうか。」
「ぬん!」


やぁやぁ、鬼さん俺そこのおすしと天ぷら食べたい!
そこの大きい奴ぜったいにエビやと思うん俺!
エビ!エビ食べる!
ゆげが立ってすっごい俺に食べてってゆうてるよ!


いいよね、今日は鬼さんと二人だけやからいいよね、お膝で食べても。
おしゃべりしながら食べても。
ほら、旅行中やからこういうテンションでもいいよね!


「鬼さんお膝失礼しますー。」
「どうぞどうぞ。」


鬼さんが笑って俺に天ぷらをよそってくれる。
優しい―。
ぬー。
ちょう優しい―。


いっつも思うけど鬼さんって怒ったりする事あるんやろうか。
俺とおる時とかはにこにこ笑ってくれてるけど。
コワモテやけど笑ってる時の鬼さんはすっごい格好いいし、優しいんやで。

男前ー。
こじゅさんがたまにそんな鬼さんをひきっつた顔で見てる時とかあるんやけど何でやろうねー。
鬼さんイケメンやのに。


「真樹緒殿、海老を。」
「はーい、あーん。」


もぐもぐ。
もぐもぐ。


「いかがですか。」
「おいしー、」


鬼さん、鬼さん、エビちょうおいしいよ。
ぷりぷりさくさくあつあつ。
でっかいし食べごたえもばつぐんー。

鬼さんも食べる?
おいしいで!


「どうぞー。」
「頂きます。」


おっきいから気をつけてね。
熱いし。
どうぞー。
あーん!


「おいしい?」
「はい、とても。」
「ねー、おいしいよねー。」


きっと高級なエビやと思う!
贅沢よねー。
幸せ!


「真樹緒殿、こちらも。」
「ぬー?」


なに?
この丸い天ぷら。
お芋やろうか。
お芋。


鬼さんが口元に持ってきてくれたからさっきみたいにあーんってしてぱく。
一口噛んでもぐもぐもぐ。


「!お魚!」
「鯛ですよ。」
「おいしー。」


うまー。
ほくほく。
白身のお魚っておいしいよね。
とろけるよね。
ほっぺた落ちそうよね!


「もぐもぐ。」


鬼さんから貰ったお魚のてんぷらを食べて、目の前にあるおすしを食べて、ちいさいお船にのったお刺身も食べて。

鬼さんはね、お酒も飲んでたよ。
白いお酒。
弱いのですけどね、ってゆう鬼さんは目元がちょっぴり赤いん。

やぁ、かわいー。


「俺も飲んでみたいなー。」

「真樹緒殿は殿達から止められているのでは?」


酒はくれぐれも飲ませるなとうかがっておりますが。
以前悪酔いでもされた事がおありでしょうか。


「ぬー?お酒は飲んだ事あるけど。」


そんなに気持ち悪くならんかったよ?
顔があったかくなって気持ちよくなっただけで。
次の日お酒飲んだ事全然覚えて無かったからかなぁ?
でも飲んだ時はすっごい気持ちよかったん!


「やからちょっと飲みたいな―。」


一口。
一口でええん。
ちょっと飲んだらまたご飯食べるから。
お口直しにちょびっと飲ませて鬼さん。


「口に合わない様ならどうぞお出し下さい。」
「はーい。」


いただきます!
鬼さんが渡してくれたおちょこのお酒を一口。
ちょっとぬるっとした感じのまま喉を通って行ったん。
でも甘い。
つぶつぶした感じと甘いのが口の中で残って、


「おいしい!」
「気分は悪くはありませんか?」
「ういうい。」


まだ飲める。
全部飲める。


ぬんぬん、ごくごく、甘くておいしー。
やっぱり何だか頭がぼーっとする気はするけどおいしー。
やっぱり頭が揺れてしまうけどおいしー。


「真樹緒殿、」
「ぬーん。」
「…真樹緒殿?」
「ぬーんぬん、」


「…やれ、私とした事が。」


真樹緒殿、真樹緒殿、もうそろそろ猪口をお渡しください。
顔が随分と赤い。
酔うておられるのではないですか。


「まだ、のめる、よ?」


おいしいこのお酒。
おれすき。
もっとのめるよ。


「いけませんよ。」


飲み過ぎては。
次の日が辛うござます。
良い子でございますから綱元に猪口を。


「あかんの?」
「綱元の頼みを聞いてくれませんか?」
「ぬん、おにさんのおねがい…」


やぁ、おにさんがやめて、ってゆうんやったらいいけど。
おれやめとく。
おにさんの言うこと聞くよ。


「ありがとうございます。」
「ぬん!」


でもね、お酒はわたすけどね、おれちょっとすっごいいい気分ってゆうか。
ふわふわして気持ちいいってゆうか。
おにさんのお膝はちょういごこちがいいってゆうか。
おにさんといっしょにおるんがうれしいってゆうか。


おにさんにちゅうしたいってゆうか。



「…………はい?」
「ちゅう。」



ほら、なんかすっごいおれいい気持ちやから。
ちゅうしたくなったん。
お顔のあかいおにさんもかわいいし。
びっくりした顔のおにさんもかわいいし。
やからすっごいちゅうしたいんおれ。



「おにさん、ちゅう。」



ちゅうしよう。



「………成程、」



成程、成程。
殿がおっしゃられていたのはこれにございますか。
何ともこれは。
殿も小十郎も、成実殿も難儀だった事でしょう。


お可愛らしい半面、衝撃は口では言い表せない程です。
いやはやこの綱元も心の臓が飛び出るかと。


「…おにさん?」


ちゅうは?
おにさんからがあかんかったらおれがやってもいい?
ちゅう。



「…真樹緒殿。」
「はい?」
「ここには私と真樹緒殿の二人しかおりません。」
「うい。」
「さすれば斯様な事も許されましょうか。」
「へ?」


おれがくびをかしげたらな、おにさんがすっごい近くにおったん。
いつもみたいに笑いながらおれの頭をなでてくれる。
なでながらおれの名前をよんでな。



「真樹緒殿。」
「おに、んっ…」



おにさんからちゅうしてくれたんやで!
ちゅっちゅっっていっぱい!
顔やろう、お鼻のてっぺんやろう、それにおくち。
お口はふさがれた後ちょっぴり舌をちゅうってされてくすぐったかったん。
おにさんはちゅうがおじょうずね!



でもや。



ちゅうはとってもきもちよくってうれしいんやけどや。
あたまがくらくらするん。
でも、でも、おにさんははなしてくれへんくって。
んう、ちょっとおれ息が。


「ぷ、は…」
「これで、真樹緒殿は足りましたでようか。」
「おに…」
「綱元は足りません。」
「んーぅ、ん…!」


息ができひんくって、んう。
あれ、もうおれ。


「…真樹緒殿、」
「は、ぁ…」
「此度の生誕日、心からお祝い申し上げます。」
「おにさん…」



この日を真樹緒殿と過ごせるとは何と光栄な事でしょう。
名誉な事でしょう。
喜ばしい事でしょう。

殿を差し置きと心苦しい思いですが。



「唯、今はどうぞ私の腕の中で。」
「んー…、」



おにさんの声がとっても遠くから聞こえるん。
やっぱり息がしんどいなっておもうんやけど、ちゅうはきもちいいし。
目つむったらもうおれ、いしきが。



「おにさ、」
「どうぞゆるりと。」
「ん…、」



ふ、っておにさんがわらったのが見えたとおもったらもう目のまえはまっくら。


ごはんまだのこってるのに、とか。
ねるときはいっぱいおにさんとお話しようっておもってたのに、とか。
おんせんもういっかいくらい入りたかったな、とか。
ぜんぶぜんぶどこかに飛んでもうて。


あったかくて気持ちいいものにひっぱられるみたいにそこでおれのいしきはぷつん、ってとぎれてしまった。



「あれ?」



朝起きたらとって素敵スマイルな鬼さんの腕の中で、目を見開いたのは秘密です!



あれ?
俺、いつの間に!




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