[おへんじ]


前篇
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「真樹緒殿、」
「ぬ?」
「少しよろしいですか?」
「あれ、鬼さん!」


お城のお手伝いが全部終わったお昼下がり、ぽおかぽかあったかい縁側で虎次郎とうとうとしてた時。
虎次郎のお腹に頭を乗せてごろごろしてた時。
ひょっこりお庭から鬼さんが現れたん。


やぁやぁ鬼さんどうしたん。
まだお手伝いあった?
お馬の毛は全部綺麗に整えたと思ったんやけどー。
まだの子がおったやろうか。


「いえいえ、そうでは無く。」
「ぬ?」
「失礼。」
「わぁ!?」


のそのそ起き上った俺に、鬼さんが笑いながら急にぎゅって。
俺の体をすっぽり包んでぎゅうって。
背中をよしよしって優しく撫でてな、ちょっと強めにぎゅうするん。


「鬼さん?」
「申し訳ありません、痛かったですか?」
「ううん、あったかくて気持ちいいんやけどー。」


ちょっとびっくり!
急やったから!
首を振って俺からもぎゅう。
鬼さんからこうやって貰う事あんまりないからびっくりしたん。

でも嬉しいで!
俺鬼さん大好きやもん!


「ふふ、ありがとうございます。」


笑いながら俺のつむじにちゅってして鬼さんが離れた。
もう終わり?って首を傾げたんやけど鬼さんは「はい、ありがとうございました」ってゆうて手を振って行ってしまうん。


ぬーん。
俺もーちょっと鬼さんを堪能したかったなー。
鬼さんがお仕事終わったんやったらお昼寝とかも一緒にしたかったなー。
そんなぎゅうしてすぐ行っちゃうなんてー。


「がるる?」
「うーん、突然何やったんやろうね。」
「がう、」


……
………


「…俺も虎次郎をぎゅー!!」
「がうがうがうがう!」


くすぐってえぞ真樹緒!
今まで大人しく寝てたのに急になんなんだ!
おいらの腹ばっかりくすぐるんじゃねぇよ!
がうがうがうがう!


「お腹もふもふもふ。」
「ぐるぐるぐる。」
「あったかー…」


虎次郎ぬくい。
ちょうぬくい。


のそって虎次郎のお腹の上に乗ってぎゅう。
あったかくて気持ちいいん。


「真樹緒ー!」
「あ、おシゲちゃん!」
「まーたこんなところに寝て。」


日が暮れてきたら寒くなるんだから昼寝なら部屋の中でしなっていっつも言ってるでしょ。
もう、風邪ひいてもしらないよ。


「虎次郎とくっついてたらあったかいん。」


やから大丈夫。
虎次郎のぬくぬく毛皮にくっついてるから大丈夫。

俺が虎次郎のお腹でぬくもってたらおシゲちゃんが廊下をとたとた歩いて来たん。
お茶とお菓子が乗ったお盆を俺と虎次郎の隣に置いて、おシゲちゃんが羽織をかけてくれる。


「虎次郎悶えてるけど。」
「よろこんでるん。」
「がぶ、」
「…頭を甘噛みされながら何言ってんの。」
「ぬん…」


こじろう、こじろう、ごめん。
くすぐってばっかりでごめん。
謝る。
あやまるから。
やから頭はなして。
痛くないけどよだれででろんでろんになる俺…!


「全く、」


ほら、温かいお汁粉。
よだれ拭いてこっち座りな。
そろそろお腹空いてる頃でしょう?
お汁粉食べて、あったかくしてからお昼寝しな。


「お汁粉!!」
「今日は白玉じゃなくてお餅入り。」


虎次郎も食べていいけど、喉に詰まらせない様に良く噛むんだよ。


「がるるる!!」
「おもち!!」


焼きたてのおもち!
いい匂い!!
おシゲちゃんありがとう!


「ふふ、じゃあはい。」
「ぬ?」
「お汁粉の前にはい。」
「へ?」
「おいで。」
「おシゲちゃん?」


俺がお汁粉に目を輝かせてたらおシゲちゃんが「ほら」って両手広げて俺に笑うん。
笑っておいでって。


俺はおシゲちゃんを見てじーい。
虎次郎を見てじーい。
ほんでもう一回おシゲちゃんをじーい。


それでもおシゲちゃんが笑ったまんまやから俺は同じように両手を広げて。


「えい。」
「はい、よくできました。」


おシゲちゃんにぎゅう。
ぎゅうって抱きついたら「良くできたね」っておシゲちゃんもぎゅってしてくれる。


「真樹緒。」
「はーい?」
「おシゲちゃんの事好き?」
「だいすき!」


「俺も好きだよ」っておシゲちゃんがぎゅってしながら俺をだっこ。
俺は足が浮いて慌てておシゲちゃんの頭に抱きついた。
しばらくぎゅーってしてたらおシゲちゃんが「はー、」って深呼吸。


「お汁粉のおかわりあるからね。」
「お餅も食べていい?」
「食べ過ぎは駄目だよ。」
「うい!」


じゃあおシゲちゃんはまだお仕事あるからって俺を下に下ろしておシゲちゃんがばいばいって。
やっぱり笑ったまんま廊下を歩いて行ったん。



ぬー。
おシゲちゃん行ってもうた。
何だかご機嫌で行ってもうた。


何やったんやろう。
おシゲちゃんのぎゅうはとっても嬉しかったけど!
ぬーん…


「…虎次郎もお汁粉食べる?」
「がうがう。」


あんまり熱いとおいら食えねえから冷ましてくれよ。
餅は半分こしようぜ!!


「おっけー。」


ほんならお箸で割ろうかな。
おもち。
でも伸びるよね、おもち。
切りにくいよねおもち。


「虎次郎、虎次郎、俺半分食べるから残り食べる?」
「がう?」
「やぁ、ほらお餅お箸で切りにくいから。」
「がうがう。」
「ほんならお先にいただきますー。」


お汁粉頂きます。
たっぷりアンコを絡めてー。
あずき絡めてー。
あ、栗発見。


「こじろう、栗も入ってるよ。」


ほい、あーん。


「ぐるぐるぐる。」


俺はお餅をもっちもっち食べて、虎次郎に栗をあげて。

ぬー。
おいしいー。
甘くておいしいー。
アツアツやから体もあったまるよねー。


「ほい、今度はお餅ー。」


お髭にあずきつかんように気をつけてね。
お餅がつかんように気をつけてね。
きっと虎次郎の毛にお餅ついたら取れやんと思うん。


「あーん。」
「がーう。」
「もぐもぐもぐ。」
「がうがうがう。」


ぬー。
おいしいねー。
栗もおいしいねー。


「しあわせー。」
「ぐるぐるぐるー。」


「たのもうー!!」


「ぬ…?」


「たのもうー!!」


某、武田が一本槍真田幸村と申す!
本日伊達政宗殿から火急の知らせがあると聞き、急ぎ参った次第!
たのもうー!!!


「ちょっとー!旦那!門壊れてるじゃない!」


待ちなって!
前にもこんな事やったよね俺様が謝ったんだよ分かってるの!
もー!ちょっと待てったら!!



……
………



「ぬ………?」


あれ?
うん?


「……」


なぁなぁ、虎次郎。
虎次郎、今の聞いた?
聞き覚えがあるような男の人の声二つ。
あれ正面の門の方から違う?
ほんでさらにはこの声多分ゆっきーとさっちゃん違う?
でも段々近づいてきてるよね。


あれ?


「がる?」
「ゆっきーとさっちゃん。」
「た、の、もうー!!」
「ああもうちょっと煩い!!」


他所様のうちなんだから静かにしなさいよ!


「!さっちゃん!ゆっきー!」
「え!?」
「何と!」
「「真樹緒(殿)!!」」


やぁやぁ、やっぱりさっちゃんとゆっきーや。
声がしたからもしかしたらとはおもってたけどー。
まさか塀を飛び越えてお庭から入って来ちゃうなんてー。
正面の門からここまで結構あるのにー。


すごいね甲斐のお馬。
あの塀飛び越えられるんやね。
さっちゃんもさすがお忍びさんよね。
俺ちょうびっくりした!!


「いらっしゃーい!」
「おお、こちらは本丸ではありませんでしたか。」
「だから俺様待てって言ったのに。」


旦那は人の話も聞かないで。
溜息を吐きながら、さっちゃんはお馬から降りるゆっきーを見て言うた。


ぬーん。
奥州へやってきてもやっぱりさっちゃんは甲斐のお母さんー。
大変ねー。


「ここはお城の東側のお庭やで。」


ほんでもって俺のベスト昼寝スポットなん。
今日もね、虎次郎とお昼寝しようと思ってここでごろんって寝転んでたん。
でもおシゲちゃんがお汁粉持ってきてくれたからおやつタイムでやー。


「なー、こじろう。」
「がうう。」


お餅をもっちもっち食べてたらさっちゃんとゆっきーの声が聞こえて来た訳ですよ。
何や急いでたみたいやけど、政宗様にご用なん?


「そうそう、昨日書が届いてねー。」
「夜明け前に甲斐を出立して参りました。」
「へー…」


お手紙届いたんやー。
俺何にも聞いてへんかったからびっくりしたよー。
政宗様全然言うてくれへんねんやもん。
いっつもやったら前日から政宗様教えてくれるのに!
さっちゃんとかゆっきーとか来る前に。
そんでもって寝る前とかに刀のお手入れとかしてるのに!


「政宗殿はおられますでしょうか。」
「ういうい、お部屋におると思うよ!」


一緒にいこうか?


「平気平気。」


真樹緒はここでこれからお昼寝でしょ。
今日はあったかいもんね。
虎君とゆっくり眠りな。


「がう?」
「真樹緒をよろしくね、虎君。」
「がうがうがう。」
「ええの?」
「はい、某共は正面に回らせて頂きまする。」


ああ、しかしその前に。


「佐助。」
「あ、そうだね。」


忘れてた忘れてた。
大事な事を忘れてたよ。


「ぬ?」
「はい真樹緒、ぎゅー。」
「わあ!」


さっちゃんがぽん、って手を打ったと思ったら縁側にやってきて俺の頭をぎゅう。
ぽんぽんって頭を撫でて「あー、このあったかさ久しぶり」なんて言いながら俺をぎゅう。
顔をすりすり、ってされてちょびっとこしょばい。

こしょばいでって髪の毛引っ張ったら今度はおでこをごっつんこされた。
へへへって笑ってさっちゃんが鼻もすりすり。


「さっちゃん?」
「ほら、旦那もどうぞ。」
「うむ!」


真樹緒殿、失礼いたす!


「へ?」


すりすりが終わったらさっちゃんがゆっきーを呼んで俺をひょいっとゆっきーにバトンタッチ。
赤ちゃんみたいにわきに手を入れられて持ち上げられた俺は簡単にゆっきーにバトンタッチ。
そしたら今度はゆっきーが俺をぎゅうってしてくれたん。



ええ…!
ほんまに一体何!
さっきから一体なに!


鬼さんから始まってさっちゃんやゆっきーまでぎゅうして。
何かあるんやろうか虎次郎どうしよう…!


「がるがるがる。」


おいらは忍野郎じゃなかったら別に真樹緒が誰とくっついていようが気にしねーけどな。


「ぬーん!!」


こ、こ、虎次郎!
そんなあくびしてやんと!
俺がちょっと困ってるのにそんなあくびしてやんと!


「では真樹緒殿、」
「ぬ?」
「某共はこれにて。」


また、後ほど。


「へ?」
「後でねー。」


日暮れまでには起きるんだよ。
寝過ごさない様にね。
後で見に来るからー!


「………さっちゃん、ゆっきー。」


えー?
行くん?
そんな爽やかに行ってまうん?
俺がとっても分からん事だらけやのに行ってまうん?


……まじで!!



……
………ぬん、



ばいばい。
ばいばい二人とも。
……ほんまに一体何やったんやろう。
何が起こるんやろう。

ていうかさっちゃんはほんまにお母さんよね。
今日はお母さんが二人もおるね。
大丈夫ちゃんとおシゲちゃんに羽織貰ったから!


「…やぁ、ぎゅは好きやけどー。」


こんなに一杯ぎゅうしてもらったんは初めてってゆうか。
びっくりしてまうってゆうか。


「虎次郎、虎次郎、」
「ぐるる?」
「お椀厨に返しに行って、政宗様のとこ行こー。」
「がう、」


真樹緒、昼寝はいいのか?
おいら結構すぐ寝れそうなんだけどな。
腹もいっぱいでここはあったけえし。
さっきからあくびが止まらねーんだ。


「…虎次郎が行けへんねんやったら一人で行くもん。」
「……………がる、」


分かったよ。
もう、しかたねぇなお前は。
言い出したら聞かねーんだから。
ほら、おいらの背中乗れ。


「こじろう!すき!」
「がるがるがる。」


知ってる知ってる。
そんな事とっくの昔に知ってるさ!
真樹緒がおいらの事好きなんて事はな!


「がるる、」


もーしかたねぇな。
とりあえず厨だな。
椀を落とすんじゃねえぞ。


「ういうい、よっこらせー。」


ではではお願いしますー。
虎次郎お願いします。
あんまり速く走らんとってね。
気をつけてー。


「がう。」


ではでは皆さんちょっと行ってきますー。
ぎゅうの原因を探るために政宗様とこ行ってきますー。
でも先にお椀を女中さんに渡してごちそさましてからね!


「ぐるるる!」


行くぞ!
ちゃんとつかまってろよ!


「うい!!」



みんな


後編
-------

虎次郎と一緒に厨に行って、お汁粉食べ終わったお椀を女中さんに渡して。
「ごちそうさまでした!」って虎次郎と一緒にぺこり。
おかわりはよろしいですか?って聞いてくれたんやけど、俺らちょっと政宗様のとこにいかなあかんから首を振ふって厨を出たん。
ありがとーってお礼もゆうたよ。
女中さんは笑って俺と虎次郎の頭を撫でてくれました!


ぬーん。


虎次郎、最近奥州の女中さんやったら触っても何にもせえへんねんで。
初めはちょっと牙むいたりしちゃってたんやけど。
今はもう慣れてくれたんか静かにいい子にしてるん。
俺が一緒におらん時は女中さんに毛並みを整えたりもしてもらってるみたい。
日に日に虎次郎の毛並みがつやっつやになってるん。


「虎次郎、虎次郎、政宗様お部屋におる?」
「がうがう。」


そうだなー。
匂いは部屋の方だからいるんじゃねぇか?
さっきの奴らが城に上がってるならもしかしたら広間かもしれねーけどさ。
取り合えず部屋に向かうかー。
落ちんなよ真樹緒!


「ういうい。」


虎次郎が鼻をひくひく、って動かして俺を振り返った。
多分落ちるなよってゆう意味やと思うー。
大丈夫、大丈夫、虎次郎の背中とっても広いから大丈夫ー。
虎次郎はね、鼻がいいから政宗様の居場所も分かるん。
凄いやろー。
やから虎次郎にまかせといたら俺は政宗様に会えるって訳ですよー。
虎次郎は俺ご自慢の虎っ子ですからー。


「ぬーん。」


のっしのっし歩く虎次郎の背中で揺られながら、今日あった事を考える。
初めに鬼さんがやってきてー、その後はおシゲちゃん。
二人にぎゅうされてびっくりしてたらさっちゃんとゆっきーがやってきて。
やってきたと思ったらさっちゃんとゆっきーにもぎゅうされて。


ぬん…


今日は何なんやろう。
ぎゅうの日なんやろうか。
出会う人皆にぎゅうってされるんやけど。
でもそんな日あったかな俺初耳やけど…!!


「ぎゅうは気持ちいいんやけどねー。」
「がう?」
「虎次郎もぎゅー。」
「がるる…」


虎次郎の背中でちょっとうつぶせになって、虎次郎の首にぎゅー。
ちょっと虎次郎が溜息ついた様な気がしたけど多分気のせいやから気にしないー。


ぎゅー。
ぬくいー。
ぎゅー。



「(……………)」



ひょい。



「ぬ?」
「ぐるる?」
「(ぎゅう)」
「あー!!こーちゃん!」
「がる!?」


やぁやぁ、こーちゃん!
今日はお久しぶりのこーちゃん!
やー、朝会ったきりやねぇ。
朝おはようのあいさつしてから何やお仕事あるってゆうてたもんねぇ。
もうお仕事終わったん?
俺と一緒に遊べる?
急にだっこするからびっくりしたやんー!


なぁなぁ今から政宗様のとこへ行くんやけどこーちゃんもどお?
ほんで行った後また厨に行ってお汁粉もらおう。
俺と虎次郎は食べたんやけどこーちゃんはまだお汁粉食べてへんやろう?
焼いたお餅入っててとってもおいしかったよ!


「(………)」
「こーちゃん?」
「(ぎゅう)」
「あれ?」


やぁやぁ、こーちゃんな。
俺が虎次郎の背中で寝そべってたら突然ひょっこり現れてな。
本当にきゅうに黒い羽と共に現れてな。
俺をこう抱き上げてぎゅってくっついてくるん。
くっついてきて、やっぱりぎゅう。
ふわふわもこもこの虎次郎の毛皮から今度はこーちゃんの素敵筋肉に包まれてしまったのです。


ぬーん。
ほんまに今日は何やろねー。
本格的にぎゅうの日かしらー。
こーちゃんからこうやってくっついてきてくれる事少ないから俺どきどきしちゃうわー。
ぬーん。
とっても嬉しいんやけど!


「がるるるるる!!!」


やい忍野郎!
お前どういうつもりだこの野郎!
真樹緒はこれからおいらと政宗のとこに行くんだぞ!
その手を離しやがれ!



「(……………)」



ふんっ…!



「ぐるるるるるるる!!」


てめー!
無視してんじゃねーぞ忍野郎!
真樹緒を返せ!
返さねぇとどうなっても知らねぇからな…!



……
………



「…え?」


あれ?
虎次郎?こーちゃん?
あれ?
どうしたん?
どうしてそんなに睨みあってるん?
険悪な雰囲気なん?


こーちゃん、こーちゃん、ぎゅうしてくれてるんはとっても嬉しいいんやけど虎次郎ちょう牙むきだしやから。
今にもつかみかかる勢いで構えてるから。


あれ?
何で二人はいっつも出会うと緊張感に包まれるん俺ちょっといたたまれやん…!


「こーちゃん…虎次郎…」


ちょっと落ち着こう。
二人とも落ち着こう。
虎次郎、虎次郎、ほら政宗様のとこ行くんやろう?
こーちゃん、こーちゃん、一緒に行こう?



……
………




「がうがうがうがうがうがー!!」
「(しゅたたたたたたたたた!!)」
「えー!!こーちゃーん!こじろうー!!」


どこ行くん!
二人ともどこ行くん!!
俺をほうってどこ行くんー!!!


えー!!
まじで…!!


廊下走ったら女中さんに怒られるよー!
てゆうか追いかけっこするんやったら俺も連れてって…!!
俺一人で寂しいやん…!



「…こーちゃん…こじろう…」



俺が手をわなわなと伸ばしてみても、そこには長い廊下があるだけで。
虎次郎とこーちゃんの背中はどこにも見当たりません。
物凄い速さで俺の目の前を駆け抜けてゆきました。
やぁ、そりゃあね…あんな勢いで走って行ったらすぐに見失ってしまうよ…
ひゅるると切なく風が吹いた様な気がして俺がとってもせちがらい!!


「お、お、お、俺おいてけぼり…!」


ぬーん!
ひどい。
ひどい虎次郎とこーちゃん。
俺を置いて行くなんて。
一緒に政宗様とこ行くってゆうたのに…!


ひどい…!!


「…何してんだ、真樹緒。」
「!?」
「縁側で昼寝をしてたんじゃねぇのか。」
「こじゅさん!?」


うわぁ、こじゅさん。
こじゅさん!
俺が虎次郎とこーちゃんが駆け抜けて行った先を切なく眺めてたら後ろからこじゅさんが!
何かお仕事してたんか着物にたすきがけ姿のこじゅさんが!

しかもほっかむり!
かっこいい!


「こーじゅさーん!」


やぁやぁこじゅさん!
ぐっとたいみんぐこじゅさん!
ちょっと俺のお話聞いてこじゅさん!
虎次郎とこーちゃんがな!


「、待て真樹緒。」
「………ぬ?」


なに?
どうしたんこじゅさん。
俺、今すぐこじゅさんに抱きつきたいんやけど。
飛び付きたいんやけど。
抱きついて飛びついて俺のお話聞いてほしいんやけど。


俺が今にも走り出そうとした瞬間こじゅさんが掌を前に出して「待て」って。


「こじゅさん…」


ええ、こじゅさん。
俺すごい今、でばなをくじかれたで…!
俺両手を開いて準備はばんたんやったのに!

ぬん…
抱きつきにいったらあかんかった?


「いや、そうじゃねぇ。」
「へ?」
「ほらよ。」
「わぁ!」


俺がちょっとしょんぼりしとったらこじゅさんが近づいてきて、おっきな腕を広げて俺を捕まえた。
ゆうるく捕まえられてすっぱりこじゅさんの胸に収まったらちょっと強めにぎゅうって。


「こじゅさん…」


腕を回して背中をぽんぽんってされる。
俺はそれに安心してそろっと手を伸ばした。
やぁやって、こじゅさんの腕がすっごく優しいから!
俺もだきつこうと思って!
こじゅさんの太い首にぎゅうって!


「こじゅさん今お暇?」


もうお仕事が終わってお暇やったらお願いあるんやけど!
俺と一緒に付き合ってほしいんやけど!


「どこか行きたい所があるのか?」
「政宗様のお部屋。」


虎次郎とこーちゃんと行こうと思ってたんやけど、二人とも追いかけっこして行ってしまったん。
それで俺ちょうショックやってんけど、ぐっとたいみんぐでこじゅさんが来てくれたから!
もう寂しくないん。
やから一緒に政宗様のお部屋へ行こう?


「あ、もしかしてもうゆっきーらとお話してる?」
「知ってたのか。」


真田とその忍がやって来た事を。


「ういうい。」


さっき会ったん。
さっちゃんとゆっきー。

どう?
今、俺とお話するんは無理やろうか。
ゆっきーが何やとっても急ぎのご用で呼ばれたみたいな事ゆうてたし。
ちょっと腕を離してこじゅさんを覗き込んで見る。
覗き込んでどうやろって首かしげたらこじゅさんが笑って。


「大丈夫だ。」
「お話しできるん?」
「ああ。」


真田やその忍は客間に通してある。
政宗様がお待ちだ。
早く行って差し上げろ。


「へ?」
「今か今かと待ち兼ねて、何も手についておられねぇ。」


政宗様が?
待ってるん?
俺を?


あれ?
でも俺何もお約束とかしてへんかったお思うんやけど…


「…俺?」


もう一回聞いて見たらこじゅさんが大きく頷いた。


ぬん…
政宗様待ってるんやって。
お待ちかねなんやって。


「…こじゅさん、俺、ちょっと、いってきます。」


俺もそう言えば全然今日は政宗様と会って無いってゆうか。
それ思い出したら何やそわそわするってゆうか。
政宗様をお待たせしたらあかんやろうし、早く会いたいなーってゆうか。


「ああ、行って来い。」


廊下は走るんじゃねぇぞ。


「えっと、うんと、がんばる…!」


いそぎあしで頑張る!
はやあしで頑張る!
でもちょっとだけ静かに、その、走ってもゆるしてね…!



「いそぎあし、いそぎあし、」



ぬんぬん。
ぬんぬん。


政宗様。
政宗様、もうちょっと待ってね。


もうすぐつくから。
もうすぐで政宗様のお部屋やから。



「政宗様!!」
「待ちくたびれたぜsweet!!!」
「うわぁ!!」



すぱん、って政宗様のお部屋の扉を開いた瞬間。
ほんまに開いてすぐに目の前にあったのは政宗様の胸。
ぶつかる勢いで飛び込んだ。
飛び込んですぐ捕まった!!


「び、び、びっくりした…!」
「くくく…小十郎に会わなかったか?」


俺がお前を待っていると言伝たんだがな。
抱きしめてくれた政宗様が笑いながら言うた。


抱きしめたまま政宗様が俺をだっこしながら移動して、日差しでぽかぽかあったまってる窓際に座る。
俺はいつも通りにお膝に乗って。
お腹に回ってる政宗様の手と手を繋いだ。


「こじゅさんには会ったよ。」


政宗様がお待ちかねやでってゆうてた。
やから俺頑張って急ぎ足できたんやで。
廊下走ったらこじゅさんとか女中さんとかに怒られてまうから!
政宗様のために頑張ったんやで。


「俺の為?」
「俺も政宗様に早く会いたかったら、その…俺のためでもあるけどー。」


そこはほら。
照れるから。
俺照れちゃうから。
政宗様のためって事にしときたいん。


「政宗様も俺に会いたかった?」
「Of course!!」
「ぬん!」


あのね、あのね、政宗様。
ちょっと聞いて。
俺のお話聞いて。
今日はね、さっきから不思議な事がいっぱいなん。
俺、それお話しようと思ってたんもあるんやで政宗様のとこへ来たんは!


「何か面白い事でもあったか。」
「あのね!」


今日はいっぱいぎゅうされたん。
鬼さんやろう、おシゲちゃんやろう、さっちゃんにゆっきー、こーちゃん。
さっきはそこでこじゅさんにもぎゅってされたよ。

俺ぎゅうは大好きやけどすっごいびっくりしてね。
今日はぎゅうの日やったやろうかって思ってね。
それか他に何かあったやろうやってね。
政宗様に聞こうと思ってやぁ。

やってほら、出会う人みんなが俺にぎゅうしてくれるん。
ほんま俺不思議で。


「くくく、」
「政宗様?」
「なァ、真樹緒。」
「?はい?」
「お前、本当に分からねぇのか?」
「…なにが?」


政宗様は何でか知ってるん?
みんなが何でぎゅうしてくれたか知ってるん?
背中で笑ってる政宗様を見上げたらおでこを俺の肩に押しつけながらくくくって。
笑いを堪えてるみたいやけど政宗様堪えられてないよ俺おいてけぼり!


「真樹緒、」
「なに?」
「今日はお前のBirthdayだろう?」



……
………



「へ?」
「神無月の十八、十と余年前お前が生を受けた日だ。」


この上なく喜ばしく、感謝すべき日だ。



「あ…え…?」



バースデー?
え?
あ、誕生日?
えっと十月、神無月のひーふう、みい、…


「は!!!」


ほんまや!
俺今日は誕生日!
バースデー!
忘れてた!
すっかり忘れたたまじで!
ってゆうか政宗様覚えててくれたん!?


「俺だけじゃねぇぜ?」
「え?」
「小十郎や成実、綱元に風魔、真田幸村とその忍にも会ったろう?」
「…みんながぎゅうしてくれたんは俺が誕生日やから?」
「hugだけで済むと思うなよ?」
「ぬ?」
「くく…」


政宗様が俺の耳元に顔を寄せる。
笑いながらやからちょっとくすぐったい。


「今夜はお前のBirthday partyだ。」
「!!!」


その為に集まったんだ。


「まじで!!」


まじで。
俺の誕生日パーティーとかまじで。
俺、そんな、誕生日とか忘れてたのに。


ほんま、俺。
やぁ、どうしよう。


「政宗様…」
「準備はもう出来てるぜ。」


広間には成実と猿特性の料理が並んでいるだろうよ。
お前に食わせるんだと風魔が水菓子を用意した。
虎次郎が採って来た雉は綱元が見事に捌いて見せた。
真田が七日七晩悩んで悩みぬいたというpresentは俺も楽しみだ。
ああ、そして勿論俺も。


「Happy Birthday、sweet」


I love you my Everything


「楽しみにしてろよ。」


お前へのpresent、誰にも負けるつもりはねぇぜ。


「ぬん…!!」


政宗様、政宗様、どうしよう。
俺うれしい。
うれしくて何や胸がきゅうってなる。
きゅうってなっていてもたってもいてられへんようになる。


どうしよう。
嬉しい!


「政宗様、」
「どうした。」
「その、皆はどこに、おるん?」


俺がまんできひん感じ。
そわそわそわそわちょっとじっとしてられへんかんじ。
うれしくて、うれしくて、もう俺泣きそうなん。
やからちょっと、このそわそわをどうにかしやなあかんの。


「政宗様。」
「あいつらなら広間にいるんじゃねぇか?」


今日の主役を待ってるだろうよ。


「!!俺、行ってきます!」


政宗様!
俺ちょっといってくる!
政宗様にぎゅうってして。
おでこにちゅってして、今まで笑ってた政宗様がきょとんってなったから今度は俺が笑う。
へへへって笑って行ってきます。


あのね、俺広間へ行ってくる。
行ってちょっと皆を抱きしめ返してくる。
やって俺がまんできへんから!
抱きしめてみんなにありがとうって言ってくる!


「おい、こら、真樹緒!」
「政宗様もすぐに来てねー!」
「真樹緒!」


待て!って政宗様の声が聞こえたけどだめだめ。
俺はもう皆に抱きつく事しか感がられやんから!
もう目的に向かって進むだけやから!
止めないでー!
絶対止まらんから!



ぬんぬん。
ぬんぬん。



あそこの角を曲がってまっすぐ行ったらもうそこは広間。
いつもは廊下走らへんけど今は猛ダッシュ。
待ってろ―。
まってろみんな!
俺もう限界やから!
皆に抱きつきたくて限界来てるから!
俺が部屋に飛び込んで、皆のお名前呼んだら、もうそこは素直に俺に抱き締められてくれると嬉しいわ!



「鬼さーん!おシゲちゃーん!こーちゃん!こじゅさん!さっちゃんにゆっきー!!こじろー!」



かくごしてね!!




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