[おへんじ]近江のお母さんと政宗様


「まさか私にお呼びがかかるとは思いませんでしたよ。」


奥州の方々はついに気でも違えたのかと目を見張ってしまいました。
まさかと思いながらもやって来れば易々と私などに門を潜らせ。
正気の沙汰とは思え思えません。


「Ahー?仕方ねぇだろ。」


真樹緒がお前も呼ぶっつって聞かねぇんだからな。

駄目だと声を荒げる成実をついに説き伏せ、苦無を持ち出した風魔を静め、無言で眉を顰めた小十郎の眉間の皺を解し、刀を研ぎ始めた綱元の手を笑顔一つで止め。
あいつの誕生日前だというのに不機嫌で仕方が無かった俺を「お願い政宗様。」とたったその一言で懐柔しやがったんだからよ。


……
………


「あなたの意思が薄弱なだけでは?独眼竜。」

「その気の毒そうなツラを止めねぇと祝い酒頭からぶっかけてやるぜ死神。」

「おやおや、怖い怖い。」


噂では聞き及んでいましたが、真樹緒に甘いというのは本当の様ですねえ。
いけませんよ。
あれは甘やかし過ぎれば調子に乗ってどんどんと甘ったれになって行く性質です。
適度な所で締めなければ。


「てめぇも随分絆されたって聞いたぜ?近江のお母さんよ。」

「ふふ…私は甘やかしたりなどしていませんよ。」


心外です。
褒めるところは褒め、叱る所は叱っています。
無闇矢鱈と甘やかすのは私の本意ではありませんので。


「どうだかねェ。」
「おや、信じませんか。」
「死神の言う事だからな。」
「ふふ…」


それを言われては私は何も言い返せませんが。


「真樹緒は、そうですね…」


可愛らしいと思いますよ。

私の名を呼び、私の後をついて歩き、笑い、怒り。
一体どこからそんな力が出るのか下らない事にいつも賢明で。


「Ha、違いねェ。」


あいつは体中で俺達に色々な事を伝えて来る。
ぶつかってくる。
それを受け止める俺達がどんな気でいるかなんざ知る由もねぇ。
全く罪作りなsweetだぜ。


「……見れば見るほどどこにでもいそうな子供なのですが。」


けれどどこを探したって真樹緒と同じ者などいないのでしょう。
あれのように私を母と呼んだり、私の鎌に触れ障子を破ったり、点てた茶に砂糖を入れようと言い出したりと。
そんな事をしでかしてくれる子はきっと真樹緒しかいないのでしょう。


「Oh…あいつはそんな事をやってやがったのか。」

「茶の折には柄杓で頭を小突いてやりましたけどね。」


それも愛情ですよ、母なりの。


「お前、意外と成実と気が合うんじゃねぇか?」


母親同士、井戸端会議でもやってみたらどうだ。


「それはどうでしょう。」


奥州の母君は私の事がどうもお嫌いの様で。
先程から一度とて口を交わして頂いておりませんが。
にこにこにこにことこちらをご覧になっているのには背筋が粟立つ思いです何なら受けて立ちますが。


「明智、」
「ふふ、祝いの席で無粋な真似は致しませんよご安心下さい。」


今宵が過ぎれば約束は出来かねますがね。


「余りうちの三傑を煽ってくれるな。」


あれはてめぇの事で自分を責めすぎてんだよ。


「それはそれは、何とも可愛らしい方だ。」
「明智。」


はい、はい。
分かっています。
本日は真樹緒の生誕日、寿ぐべき日。
己の領分は十二分に。
私がここで、共に祝う事が出来たという事に感謝します。


「どうです独眼竜、」
「Ah?」
「お一つ。」


本日の為に取り寄せた銘酒なのですが。
私からの酌は受けて頂けませんか。


「………くく、」


今日は真樹緒のbirthday、何もかもが無礼講だ。
死神からの酌を受けるのもまた一興。
頂くぜ。


「もしや毒でも入っているかもしれませんよ。」
「Ha!!それにしちゃァ甘い酒だ。」



ぬん…



「………政宗様と明智の光秀さんって仲良しさんやったん?」


「真樹緒、」

「おやおや、向こうでご馳走を食べていたのではなかったのですか?」

「政宗様と明智の光秀さんが何時までたっても縁側から戻ってけえへんから呼びにきたん。」


ほんなら二人でお酒なんか飲んじゃってー。
楽しそうにお話ししちゃってー。

もー。
今日は俺の誕生日やのに!
俺とお話してくれやなあかんのに!

もー。
二人とも、もー。


「それはそれは申し訳ありません。」
「寂しい思いをさせたなァ?sweet、」
「俺もここにおっていい?」
「今日の主役がこんなところにいてはいけませんよ。」
「むう、でも俺ここがいい。」


政宗様と明智の光秀さんの間。
まんなか。
二人がお酒飲み終わるまでここにおる。


「あかん?」


なぁ、なぁ、俺ここにおりたい。
二人とおる。



「「………」」



独眼竜、私のこれは甘やかしているのではありませんよ。
決して甘やかしているのではありません。
本日は真樹緒の生誕日、それ故です。
他意はありません。


お前、明智。
それこそ甘やかしてるって言ってる様なもんだぜ。
潔く認めちまえよ近江のお母さん。


「「……」」


「仕方ありませんね、本当にあなたは。」
「ほらこっちに来い真樹緒。」
「ぬん!!」


「どうやったって俺達はこいつに勝てねぇよ。」

「ぬ?」


政宗様?


「反論も異議もありませんが、少々癪です。」

「?なにが?」


明智の光秀さん?


「「………」」
「どうしたん二人とも?」


なに?
何のお話?



「Happy Birthday真樹緒。」


お前が生まれ、そして出会えた事に感謝する。
俺のsweet、どうかこれからも俺の傍に。


「ぬ!!」


やぁ、やぁ、政宗様どうしたんいきなりちゅうとか!
明智の光秀さんがおるのに!
びっくりしてしまうやんか!

明智の光秀さんごめんやで、奥州ではちゅうってもう毎日の習慣ってゆうか。
ご挨拶とか、ありがとうとかの時にもよくするってゆうか。
やからそのびっくりしたと思うけどこれがもういつもの事でね、


「真樹緒。」
「…はい?」
「本当に、おめでとうございます。」


人が生まれて来た事に喜び寿ぐなど初めてですよ私。
ありがたく受け取りなさい。


「明智のみつ、」
「あなたの新しき歳に幸多からん事を。」
「ぬん!?」


やぁ、やぁ!!
明智の光秀さん!
明智の光秀さんもちゅう…!?
ええ、ちゅうとか!


何で!
ちゅうって!


明智の光秀さんと初めてのちゅう…!
やぁ、ほっぺやけど。
ほっぺやけど明智の光秀さんが俺にちゅう…!
初めてやのに何かすごい普通やったちょっともったいない明智の光秀さんからのちゅう…!


「騒ぎ過ぎです静かになさい。」


スコン!


「ぬん!」


チョップ!
ちゅうしてくれてもやっぱり明智の光秀さんは近江のお母さん!
スコンってチョップされた全然痛くないけど何か照れくさい俺!


ぬん…
でもありがとう。
政宗様も明智の光秀さんも誕生日のお祝いありがとう!
恥ずかしかったけど俺とっても嬉しいよ!



「やっぱりお前死神の看板下ろしたらどうだ。」
「いえいえ、まだまだ。」


私は当分死神で、明智の光秀さんで、近江のお母さんですよ。




前次
戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -