[おへんじ]みんな



「伊達サーン、伊達サーン。」
「はい?何お忍び君。」
「これさー、菓子の試作なんだけどどう。」


何でも南瓜の菓子が食べたいそうでさぁ、あの子。
いくつか作ってみたんだよ。


「へえ、凄いね。」
「こっちが茶巾蒸しでしょ、そんでこっちが油で揚げて飴を絡めてみたやつ。それに南瓜の白玉。」


極力砂糖は控えめにしてみたんだー。
どうせ沢山食べるでしょ。


「あ、美味しい。」


どれも味が違うんだね。
美味しいよ。
砂糖入って無いとは思えないぐらい甘いし、真樹緒が喜びそう。


「よーし、じゃあこれで決定。」


気合い入れていきますかー。
じゃあね、と笑って甲斐のお忍び君は楽しげに姿を消した。


張り切ってるねー甲斐のお母さんはと厨の方を見上げて俺も口元が緩む。
さぁ俺も仕上げはもう少し。
この着物が縫えれば真樹緒を呼んで。


「はい、完了っと。」


今日は真樹緒の生誕日。
朝からぱーてーの準備に大忙しだ。


ぱーてーを秘密にするか、真樹緒に告げるかどうかを話し合ったのはもう七日も前の事で。
こそこそと秘密にしておくよりは真樹緒と一緒にぱーてーの準備をする方がいいという決断をしたのが三日前。
それから当日までてんやわんやの大騒ぎだ。


はろうぃんという行事にちなんで仮装がしたいんだって、真樹緒と梵と真田殿が乗り気で。
それならばはろうぃんの目玉になる菓子は俺様が作るよと甲斐のお母さんが現れて。
そんな事言われたら奥州のお母さんだって黙ってられない訳で。
そしてお母さんの言う事にはお父さんが逆らえないってのが世の常で。
大きな溜息を吐きながら小十郎は鬼庭殿と一緒に朝から南瓜の中身をくり抜くという作業に追われている。


んー。
何か灯籠を作るらしいよ、南瓜で。
お化けの顔にくりぬくんだって。
中身は甲斐のお母さんが菓子にしてくれて、何ともよくできた行事だと思う。


「おシゲちゃん、おシゲちゃん、」


できた?
皆の衣装できた?
俺ちょっとうきうきそわそわしていてもたってもいられやんのやけど!
そろそろかなって思って見に来たんやけど!


どお?
お部屋入っていい?


「あ、真樹緒。」


どうぞ。


糸と針とを片付けて、さあ真樹緒を呼ぼうかと思っていた矢先。
部屋の扉が開いて真樹緒がひょっこりと顔を出した。
狭い隙間からこちらをきょろきょろと覗いて、そろそろと中に入ってくる。
別に怒りなんてしないのにと喉を鳴らすけれど本人はお構いなしに。
辺りに気を配りながら静かに傍に座った。


「丁度いい所に来たね。」
「ぬ?」
「ほら見てごらん。」


出来あがってるよ。


「!まじで!」


やぁやぁおシゲちゃん!
見せて!
俺の着物見せて!


おシゲちゃん最後までどんな服作ってくれてるんか教えてくれへんかったんやもん。
俺わくわくしてるん!


「着替えていい?」
「いいよ。」
「ぬん!」


真樹緒の着物を脱がせて出来あがったばかりの羽織をはおらせる。
袴をはかせて、力を入れたふわふわの耳と尻尾。



……
………



「ぬ?みみとしっぽ?」
「そう耳と尻尾。」
「ぬ?」


え?
何で?


「可愛いお稲荷様の出来あがりーってね。」
「おいなりさま?」
「ほら神社なんかにいらっしゃる、おきつね様。」


人型を取られたらこんな風かなーって思ってね。

うんうん。
俺の予想は外れて無かった。
可愛いよ、真樹緒。


「耳ふわふわ!しっぽもふわふわ!」


どっちも揺れるよおシゲちゃん!


「あんまり走ったりしたら駄目だよ。」


取れるから。
気をつけてね。


「うい!」


政宗様とゆっきーに見せてきていい?


「いいよ。」


やった!
そう言って、真樹緒は入って来た時とは正反対に盛大な足音を立てて部屋を出て行った。


どたどたどたどた。
「政宗様ー!ゆっきー!見て―!」なんて声も聞こえて来る。
走ったら駄目だって言った傍からあの子は。


「Oh sweet!随分cuteな格好じゃねぇか!」
「お稲荷様なんやで!」


お耳としっぽもおシゲちゃん手作りなん。
可愛いやろう?
お尻振ったら揺れるん。


「おおお!真樹緒殿がまことの狐の様にござる!」
「Ha!言い仕事してやがるぜ成実の野郎。」



……
………



「どうもありがと、」


遠くで聞こえた声に溜息で返事をして。
笑って返事をして。
さーてお忍び君はどうなったかなぁなんて思いながら立ち上がる。


真樹緒だけじゃなくて皆の分の衣装だって完成してるんだ。
さっさと着替えてもらわないとねー。


「ちょっと伊達さん!」
「ん?」


あら、お忍び君。
丁度良かった、今そっちに行こうと思ってたんだけど。


「俺様の事なんてどうでもいいよ!それより真樹緒!」
「真樹緒?なに?」


あれ何なの!
あの尻尾と耳!
あんなのつけるなんて聞いてないんだけど俺様!


可愛いよ。
そりゃぁ凄く可愛いよ。


でもあの独眼竜の目見た!?
口ではあんな事言ってるけど今にも取って食おうとしてる目だよあれ!


駄目だ危ない。
うちの真樹緒が危ない。
俺様おちおち菓子なんか作ってられないよ!
作ったけど!
俺様の菓子は完璧だけど!



「真樹緒はうちの真樹緒だよ。」
「甲斐にもおうちがあるからうちの真樹緒でもあるよね。」
「ほんっと、何回言ったら分かってくれるのかなァ、お忍び君は。」
「俺様ここは譲るつもりないから。」


「「………」」



……
………



「まぁ、今はそんな事言い合ってる場合じゃないからね。」
「それは同感。なんてったって真樹緒の誕生日なんだし。」


無意味な争いは避けたいよね。
決着は今後つけるとしても今日はそんな事やってる場合じゃないよね。


「ほら、お忍び君もさっさとこれ着て。」
「ああ、仮装の衣装?」
「そう。」


梵には俺が後からきつーく言っておくから。
もうぱーてーまでそんなに暇が無いんだよ。
仮装しなきゃいけないんだから早く着替えて。
それからこれ真田殿と梵に渡してきて。
二人分の衣装だから。


「なにこれ…」
「お忍び君のは「あくま君」らしいよ。」


この角と尻尾忘れないでね。
「でびるぱーかー」って真樹緒は言ってたけどよく分からなくてさー。
まぁ後で真樹緒に見てもらったら。


梵は「ばんぱいあ」で真田殿は「赤鬼」、それにこっちは小十郎で「ふらんけん」鬼庭殿は「みいら男」、風魔は「黒猫」、全部真樹緒が考えて俺が作ったんだ。
すっごく楽しみにしてたよあの子。


着るよね。
角と尻尾だってつけるよね。


「………、」
「着るよね。」
「…ハイ、」
「じゃあお願い。」


俺は小十郎達の所へいってくるから。
そろそろ南瓜のお相手も終わった頃だろうし。
多分風魔も一緒にいると思う。


「それ渡したら広間に集合だから。」
「了ー解ー。」


荷物を持って廊下を走る。
今日ばっかりは足音が立つのも構わず。
背後の方で「これどーやって着るの」なんてお忍び君の声が聞こえたけど笑いを堪えて。



「さーて、急げ急げ。」



空を見上げたらもう日が傾き始めていた。
夕暮れはすぐにやってくるだろう。
南瓜の灯籠に火も入れなきゃならない。
お忍び君の作ってくれた菓子を梵達に渡して。



「小十郎ー、鬼庭殿ー、風魔ー!」



皆が着替え終わったらぱーてーの始まりだ。




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