[おへんじ]こじゅさんと成実さん


こじゅさんとおシゲちゃんの場合
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「は?」
「へ?」
「だーかーら、」


お前らの願いを何でも叶えてやるって言ってんだ。
なァ、真樹緒。


「うい!」



……
………



「…だから何それ、突然…」
「政宗様、本日はまたどういった遊びで…」


ひと仕事終えた昼下がり。
畑の手入れをしていた小十郎に声をかけ、縁側で二人お茶を飲んでいた時だった。
何か企んだ様に笑う梵と、いつも通りにこにこと可愛らしい笑顔を振りまく真樹緒がひょっこりと現れたのは。


仲良く手を繋いでお出ましだよ。
それ「こいびとつなぎ」って言うんでしょ真樹緒が言ってたよ。
意味はよく分からないけど、つまりはそう言う事なんでしょ。
全くここが城だからいいものを。


本当、あれ外でもやったらどうしようお母さん。
奥州の風紀がねー、うん。
や、本人らは幸せそうで何よりなんだけどさ。



「とりあえずお茶でも飲む?」



梵も真樹緒も。
そんなとこに立ってないで。
何の話かイマイチ分からないからほらゆっくり座って話しようよ。

湯のみを持って来ようと立ち上がって茶菓子が何かあったかなぁなんて考えていたら足が。


「………真樹緒?」
「まっておシゲちゃん。」


ちょっと待って。
お茶はね、後でいいから俺と政宗様のお話聞いて。
言いながら真樹緒が俺の足にしがみついていた。


さっきまで梵と繋いでいた手を今度は俺が一歩踏み出した足に。



「……」



思い切ってもう一歩歩いてみる。
真樹緒は離れない。
意外に力は強い。
更にもう一歩進んでみてもやっぱり真樹緒は離れない。
それじゃあこれはどうだろうと足を持ち上げてみる。
「ぬーうん」なんて言いながら足と一緒に真樹緒が持ち上がって来た。



「……おもしろい…!」
「成実。」


真樹緒で遊ぶんじゃねぇ。


「けどほらちょっと見て小十郎。」


真樹緒を見て。
この子どうやっても離れないよ可愛い…!


「…お、おシゲちゃん俺このたいせい苦しいん…」
「ああ、ごめん。」


だって真樹緒が面白い事するから。
おシゲちゃん柄にもなく乗っかっちゃったじゃない。
そっと足を下ろして真樹緒の頭を撫でる。


「ぬん、やっておシゲちゃんが向こうに行こうとするからー。」


折角俺と政宗様がこうやってやってきたのにー。
おシゲちゃんとこじゅさんのお願い事を聞くために二人でやってきたのにー。
そんな風にさらっと流しちゃうからー。


「さっきも政宗様がおっしゃっていたが、真樹緒そりゃあ一体何なんだ。」

「ぬ?」

「ほらお願い事。」

「真樹緒が言いだしたんだよ。」

「は、?」


なァ?
sweet


「うい。」


あのね!
お手紙が届いたん。
お手紙届いてね、日頃からお世話になってるこじゅさんとおシゲちゃんを甘やかして下さいねーって。
お願い事聞いてあげて下さいねーって。


ほら、いっつも俺とか政宗様はこじゅさんやおシゲちゃんに甘えてばっかりやから!
ねー、政宗様。


「そう言うこった。」


朝から真樹緒と色々話したんだが、俺達が画策するよりもお前らに直接聞いた方が早いだろう。
さァ、何なりと言って見せろ。
俺たちに何をして欲しい。
奥州筆頭の名の下に全てを叶えてやるぜ。


肩をすくめて梵が笑う。
呆気にとられたのは俺と小十郎で、そんな事を言う梵と真樹緒に目を見開くばかり。
小十郎と顔を見合わせて梵達を見る。


真樹緒は凄く楽しそうだ。
早く早くときらきらした目を俺達に向けて。
梵がそれを見て笑う。
もう一度小十郎と視線を合わせた。



…どうしようか、小十郎。
お願い事だって。

全くだ。
本当に二人揃えばこちらの予想もつかない事をやってくれる。


口元が緩むのは面映ゆさと照れくささ。
小十郎と二人くすぐったいような笑みを交わして。


溜息を同時に一つ。


「そうだなぁ、」
「ぬん!!」



「真樹緒はどこでも昼寝するからそれを止めてもらいたいのと、」

「……へ、」


ほらいっつも風邪を引くよって言ってるじゃない俺。
あー、それから最近ご飯の合間に色々食べ過ぎてるのも控えて欲しいし。
こっそり虎次郎や風魔と城下へ出かけてるのもちゃんと俺達に言って欲しいし。
椎茸はもういい加減一人で食べる様になって欲しいし。


「あの、その、…お、おシゲちゃ、」
「後はえーと、」


ちらりと小十郎へ目を流す。
それを受け止め次は小十郎が。


「小十郎はそうですな、」
「……Ah…?」
「政務を途中で放り出すのは頂けません。」
「……………あァ?」


いつも小十郎が目を光らせていなければ机の前に座っても頂けないのも困っております。
我々に内密に城下に出かけているのも控えて頂きたい。
ああそしてこれが一番にございますが、最近政宗様は真樹緒を甘やかしすぎかと。


「ご自重を。」
「Shit!てめぇ…!」


眉がへの字に曲がった真樹緒と、眉を思い切り吊り上げた梵を見て、してやったり顔で小十郎と顔を見合わせた。


くすくすくす。
くっくっくっ。


俺と小十郎の押し殺した笑い声が静かに響く。


「…おシゲちゃん?」
「…小十郎、…?」


不思議そうな声は真樹緒で。
訝しげな声は梵。
訳が分からず俺達を見ている。


ああ、もう。
そんな二人が可愛くて!


「ごめん、ごめん。」


冗談だよ。
ごめん。
嬉しい事を言ってくれるから照れちゃってさ。


「申し訳ありません、」


余りにも政宗様と真樹緒が懸命で。
この小十郎、図らずも胸が震えてしまいまして。


未だ笑いながら謝って顔を上げた。
だって、そんな。


まさか二人が俺達にそんな風に考えてくれてるなんて思っても見ないじゃない。
俺達は毎日毎日梵や真樹緒達と一緒にいれて幸せで。
色んな事が目まぐるしく起こる日々が幸せで。
願わくばこのままずっとこんな毎日が続けばといつだって祈っているっていうのに。


昼寝をしている真樹緒に羽織をかけるのも、真樹緒におやつをあげるのも。
俺たちに内緒でこそこそと何か企んでいる事さえ愛しくて。


「ねぇ、小十郎。」
「成実の言う通りで。」


政宗様の背を見張ればその大きな背中を誇りに思い、感慨深く。
真樹緒と共に笑っておられる声を聞き、安堵と幸せを感じております。
あなたは国主、ですがそれ以前に。
年相応な顔を拝見する事が出来、小十郎は冥利にございます。
これ以上の至福などありますまい。


「ふふふ、」
「くっくっくっ、」



「え?あ…う、」


政宗様。
政宗様どうしよう。
俺らが何かすごい事言われてるよ…!
何てゆうかこう、ずどんと落とされてぐいーんと持ち上げられたみたいな…!

よ、喜んでいいと思う?
やぁ、嬉しいんやけど何かちょっと顔が熱いってゆうか!
照れ臭いってゆうか!


「小十郎、成実、てめぇら…!」


そんな事言われて恥ずかしいのは俺らだこの野郎…!

真樹緒。
お前は何も間違ってねぇぜ。
今あられもねぇ辱めに合ってるのは俺達だ…!


「やだな、梵。」
「心外ですぞ。」
「言ってろてめぇら!」


クソ気持ち悪い顔で近づいてくるんじゃねぇ!
何緩んだ顔してやがる!
真樹緒こっちへ来い。
そんな奴らの近くにいると危ねぇぞ。
何されるかわかったもんじゃねぇ。


「あれ、梵。俺達のお願い聞いてくれるんじゃなかったの?」

「真樹緒、本当に何を頼んでもいいんだな?」

「え、あ、うん?うん、」

「シィーット!真樹緒!早く来い!」


叫んでる梵を横目に真樹緒を捕まえて腕に抱く。
そのままひょいと持ち上げて今度は梵だ。


小十郎、逃がすんじゃないよ。
当たり前だ。
誰に言ってやがる。


「…おシゲちゃん、政宗様ちょう青い顔で後ずさってるよ。」

「逃げた方がいいんじゃないかなぁとか思ってるんだろうけど、真樹緒をそのままにしては逃げれないんだろうね。」


可愛い可愛い。


「梵、」
「政宗様。」


決めたよお願い。
俺達のお願い。
なーに、簡単だ事だよ。



「…Jesus…」



この手で。
俺と、小十郎の手で。
梵と真樹緒を思いっきり抱き締めさせてくれたらいいんだよ!



「覚悟しな梵!」
「小十郎は腕が鳴りますぞ!」
「Noォォォォォ!!!」
「ぬー!!ちょう苦しいつぶれるいろいろ…!!!」





さっちゃん


*ゆっきーとキネマ主の場合*


「佐助!」
「さっちゃんー!」
「あら、真樹緒と旦那。」


二人揃ってどうしたの。
庭で遊んでたんじゃなかったっけ?
何かあった?


あ、おやつはまだだめだよ。
もう少し日が高くなってからってさっき言っただろ?


「ぬー、違うん違うん。」


あのね!


「さっちゃん俺らに何かお願いない?」
「隠さず申せ!佐助!」



……
………



「……へ?」



びっくりした顔のさっちゃんに俺とゆっきーは顔を見合わせてにんまり笑った。


ぬふふ。
実はね、さっちゃんのお願いを聞いてあげてってお手紙もらったのです。
さっちゃんを甘やかしてあげてってお手紙もらったのです。
やから俺とゆっきーがさっちゃんのお願いを叶えるべくやってきたのです!


ほら俺らいっつもさっちゃんにお世話になってるから。
おやつとかご飯とかその他にも一杯さっちゃんにお世話になってるから。


「ねー、ゆっきー。」
「はい真樹緒殿!!」


「…旦那、真樹緒…?」


え?
突然どうしたの?


にこにこ笑いながら俺様の前に正座する二人を見て、あっけにとられた俺様は瞬きをするぐらいしか反応を返せなかった。


旦那を見る。
何だかわくわくしたように俺の方を向いている。
俺が早く何か言わないかそわそわしながら。


「………、」


真樹緒を見る。
こちらも同じように何だかわくわくしたような顔で。
いや、むしろきらきらしたような顔で俺様を見ている。
うわぁ、眩しい。



てか二人の頭に耳が、そして尻尾が見えた気がする俺様。
それがまたぱたぱたぱたぱた揺れている気がする。
幻だと分かっているけれど耳がひくひくしているような気がする。


「うわぁ…」


思わず口元を覆って俯いた。


何、何なの。
この子達俺様をどうしたいの。
真樹緒はともかく旦那も何言いだすの。


「なぁなぁ、さっちゃん!」
「早く申さぬか佐助!」


俺らに何かして欲しい事ない?
いつも忙しいさっちゃんを癒してあげたいん俺ら。
ゆっくりしてもらいたいん。
そんでもって喜んでもらえたらいいな、って!


そうだ佐助!
お前には日頃から世話になっている。
働かせ過ぎているとは思えどお前にはいつも甘え。
お前ほど出来た忍はおらぬ!
お前の様な忍を共に出来、俺は誇りに思っているぞ!


「佐助!」
「さっちゃん!」


「ははは…」


これ、本当に、何。
今日は何の日なの、俺様の日とかあるのまさか。
もう、全く。


「参ったなぁ…」


何可愛い事してくれちゃってるのこのお方達は。


「さっちゃん?」
「佐助?」
「旦那、真樹緒、」
「ぬ?」
「どうした。」
「俺様、もう十分癒されたよ。」


そーんな恥ずかしい事を言われて。
そーんな嬉しい事を言われて。
そーんな可愛くて。
俺様、お仕事の疲れなんてどこかに吹っ飛んでちゃったよ。


ああ、もう。
顔が緩む。
二人が眩しくて!


「ええー!そんなんあかんよー!」


俺、さっちゃんのお願い何でも聞くのに!
やってほしい事ない?
俺に出来る事あったら何でもするよ!
甲斐のお母さんに何かしてあげたいん。


「真樹緒殿の申される通りだ佐助!」


この期に及んで遠慮などしているのではないだろうな!
遠慮など無用!
存分にその胸の内を明かせ!



「…だからもう十分だって言ってるのに…」



どうしてそう、二人とも。

俺の前の正座した格好のまんま、二人は眉を吊り上げて俺を睨みつける。
俺はそんな二人も何だか可愛く見えてしまったもんだからやっぱり笑って。


「じゃあ、真樹緒。」
「ぬ?」
「さっちゃんのお膝に頭乗せてごらん。」
「あたま?」
「そう、頭。」


ほら旦那もどうぞ。
こっちに頭。


「む、俺もか。」


そうそう二人ともほら膝に頭乗せて。
ぶつからない様にゆっくり横になってさ。
おやつの時刻までまだ随分ある。
日差しはとっても温かい。
そう、緩やかに眠気を誘う程に。


「さっちゃんのひざまくら!」
「何と久しいな。」
「旦那が小さい時にやった事あるよね。」
「そうなん?」


うん。
旦那が真樹緒よりもまだずっと小さい時にこうやって日当たりのいい部屋で。
あの日もこんな風に穏やかな日だった。
何だか懐かしくなっちゃった。


「昼寝でもいかが。」


二人とも。


「ぬう、でもこれ逆違う?」


俺がさっちゃんにひざまくらしたらええんちがう?
やって今回はさっちゃんのお願いを聞く日やし。
なぁ?ゆっきー。


は!そうでございまする!
いかん佐助!
これでは俺が寝てしまうではないか!


「いーのいーの。」


俺様がこうしたいんだから。
膝枕したいんだから。
何でもお願い聞いてくれるんでしょ?
だったら俺に膝枕させて。
二人の頭を撫でさせて。


「お願い。」


「…ゆっきー、」
「真樹緒殿。」


どうしようゆっきー。
さっちゃんがちょう優しい笑顔で頭撫でて来るよ。
こんな風に撫でられたら俺ちょっと目つむってしまうんやけど。


そのお気持ち、お察し致しまする真樹緒殿。
某も頭など撫でられたのは数年ぶりになりまするが、心地よく。
今にも欠伸が。


「おやつには起こしてあげるから。」


はい、ゆっくりお休み。


「ぬん…」
「むう、」



目を閉じてしまった二人の頭を撫でて思わず口元が緩んだ。
聞こえて来た寝息に胸が温かくなる。
片や大きくなったなぁなんて感慨深く、片や相変わらず不意打ちに奪ってゆくなぁと照れ臭く。
あどけない二人の寝顔を飽きずに眺め。



ほら、俺は今とても癒されている。


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小十郎さんとおシゲちゃん編に続く!




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