[おへんじ]さっちゃん
「真樹緒ー、虎君ー、」
「ぬ?」
あー!
さっちゃん!
虎次郎、虎次郎、さっちゃん。
さっちゃんが呼んでるよ。
やぁやぁもしかしたらおやつの時間違う?
さっきから何だか良い匂いがしてたもんね!
「がうがう」
「ねー。」
今日はね、甲斐へお泊まり会なんやで。
たまには甲斐に遊びにおいでーってゆうおやかた様からのお手紙貰ってやぁ。
そう言えば最近さっちゃんやゆっきー、おやかた様のお顔見てへんなーって思ったらこう急に会いたくなっちゃって。
貰ったお手紙を持ったまんま政宗様にお願いに行ったわけです。
「政宗様ー!俺甲斐に遊びに行きたいー!」
「却下だ。」
「ぬん…!!」
…………速攻あかんってゆわれたんやけどー。
振り向きもせず政宗様にあかんってゆわれたんやけどー。
でも俺負けへんかったよ!
おやかた様からお手紙もらった事とか、久しぶりに皆に会いたいって事とかを一生懸命お願いしてみたん。
すぐに帰ってくるからって。
良い子でおるからって。
俺だけやったら政宗様がおっけー出してくれへんからそこはちょっとこじゅさんに頼んだりしてね。
「政宗様、真樹緒が持つ書は信玄公直々の書にございますれば、看過できぬ問題かと。」
「チッ!!」
あのね、おやかたさまは甲斐の一番えらい人でな。
そのえらい人なおやかた様からのお手紙は政宗様でも無視したりできへんのやって。
すんごい舌打ちしながら政宗様は一日だけだぞってお許しくれました!
ほんで甲斐に遊びに来たらさちゃんが「折角来たんだから泊まっていきなよ」ってゆうてくれてやぁ。
ほら俺皆に会うの久しぶりやから!
そんな嬉しい事ゆうてくれたら「そうしようかなぁ」ってなるやん?
さっちゃんとゆっきーとおやかた様で絶対楽しいやん?
お泊まり会。
やから「一日甲斐にお泊まりしますー」ってお手紙を政宗様に飛ばしてた訳です。
甲斐のカラスさん頑張って政宗様のとこまで飛んでね!!
今は虎次郎と甲斐のお屋敷の日当たりのいいお部屋で寝っ転がってるん。
ねっ転がってお寝しようと思った時にさっちゃんの声が聞こえてきたんやで。
「あら、お昼寝中?」
「ううん、」
しようと思ってたけど何や良い匂いやったから目覚めてもうたん。
もしかしたらさっちゃんがおやつ作ってくれてるんかもねーって。
もしかしたらそのおやつさっちゃんが持ってきてくれるかもねーって。
虎次郎と言うてたん。
「がるる。」
「ねー。」
「ふふ、それなら良かった。」
おやつだよ。
どうぞ、ってさっちゃんが渡してくれたお更にはお団子っぽいのが乗せられてたん。
きな粉がまぶしてあってね、甘い匂い。
虎次郎にも見せたらくんくん、ってお団子の匂いかいでくしゅん!ってくしゃみ。
きな粉が鼻に入ったんやろうか。
それを見てさっちゃんと笑う。
「さつま芋のお団子だよ。」
さっちゃんの新作。
作り方は簡単だけどね、どうぞお食べ。
「ぬん!いただきます!」
ようじに一つさしてぱくん。
もっちもっちしてふわん、って甘い。
おいもの味もしっかりついてて美味ー。
うましー。
もちもちしてるのに口の中でとろけるん。
ほくほくってお芋の食感も残ってるん。
ぬーん。
おいしー。
「がうがうがう!」
真樹緒!
ずるいぞ真樹緒!お前だけ!
おいらにも食わせてくれよ佐助のだんご!
「ういうい、ごめんね虎次郎ー。」
はいどうぞー。
さっちゃんのおだんごちょうおいしいで!
もちもちなん。
ほんのり甘いん。
虎次郎も絶対好きやと思う。
「あーん。」
「がーう。」
「ほんなら俺ももう一つー。」
もぐもぐ。
もぐもぐ。
「本当に幸せそうに食べてくれるよねー。」
甘い物好きだよねー。
二人とも。
ていうか二人とも仲がいいよねー。
虎が大口開けてるとこなんて初めて見たよ俺様。
「ぬ?」
「がる?」
虎次郎は良い子やで?
初めて会った時は触らしてもくれやんかったけどー。
最後は俺の手からおにぎり食べてくれたもんな!
今はとっても仲良しよ!
お城の皆とも仲良しよ!
ただちょっとこーちゃんとはたまーに喧嘩してるみたいなんよなぁ。
お庭で暴れておシゲちゃんに怒られてるよ。
俺も「何で止めないの!」って怒られてるよ。
ぬん…
でも喧嘩するほどなかがいいーってゆうやんか?
ほら遊びの延長かなーとか思ってるん俺。
ほんまはとっても仲がいいって思うん二人とも!
「…ほんっと、奥州は毎日楽しそうだよね。」
目に浮かぶよ。
壮絶な喧嘩が。
さっちゃん思わずほっぺた引きつっちゃいそう。
「ぬ?」
さっちゃん?
どうしたん溜息なんかはいてー。
「あ、そうだ真樹緒。」
「?なに?」
「俺様が触っても怒らない?」
この子。
「こじろう?」
「うん。」
「多分大丈夫やと思うけどー。」
虎次郎初めは俺しか触らせてくれやんかったんやけど。
ちょっとずつ皆とも慣れていって、今も全然知らん人に触れるのは嫌みたいやけどさっちゃんやったら大丈夫やと思う。
さっちゃんは俺の大事なお母さんやし。
今日かっておやつくれたし。
「さっちゃん触りたいん?」
「うーん毛がふさふさして気持ちよさそう。」
それにしたって虎なんて触れる機会無いしね。
いや真樹緒と二人で寝転んでるのは中々さっちゃんを癒してくれてるんだけど。
触れるんなら一度触ってみたなーって思った訳ですよ。
「ぬん…」
なぁ、なぁ、こじろう。
さっちゃんが触りたいねんて。
こじろうを撫でたいんやって。
どお?
触ってもいい?
「がるるるる」
うん?
おいらをさわりてぇのか?
変わったやつだな佐助は!
ふだんはおいらだって簡単にさわらせたりしねーんだけどさ。
佐助には団子を貰ったからな!
しかたねぇな!
でもうまく撫でねぇと承知しねぇからな!
「いいって!」
「…真樹緒も大概不思議な子だよね。」
虎君の言う事分かったの?
鴨の子もそうだけどよく何か話してるよね。
「ぬ?」
やぁ、なんとなく。
なんか雰囲気で。
こう、俺を見つめる視線とか鳴き声とかで。
エアーで。
でもほら見て。
虎次郎さっちゃんの方に頭向けてくれたよ。
これ絶対頭撫でていいって事やと思う。
ほらさっちゃんのお膝にあご乗ってるもん。
撫でてあげて。
「いいの、お前。」
「ぐるぐるぐる」
手を伸ばしてさっちゃんが虎次郎の頭をなでなで。
くしゃくしゃって混ぜたら虎次郎が目をつぶって喉をぐるぐる鳴らすん。
やぁやぁ虎次郎気持ちよさそー。
ちょう気持ちよさそー。
「ふわふわだね、お前。」
「がるる」
……
………
「ぬん…」
………ぬん、
いいな虎次郎。
さっちゃんのお膝。
さっちゃんのなでなで。
……
………
いいな!
おれもさっちゃんのお膝に頭乗せて撫でてもらいたい!!
「さっちゃん!」
「うん?」
「ぐる?」
「俺も撫でて!」
「…………へ?」
びっくりして虎次郎の頭を撫でてた手を止めたさっちゃんのお膝にすかさず滑り込む。
ちょっとしつれー。
お膝しつれー。
あぐらを組んださっちゃんのお膝によいしょって頭を乗せた。
虎次郎と向いあってへへへって笑う。
がるる、ってちょっと息を吐いた虎次郎のお腹をゆっくり撫でてさっちゃんを見上げた。
「俺もなでて。」
「…あら、まぁ。」
どうしたの甘えっ子。
びっくりしてたさっちゃんが笑って俺の頭を撫でてくれる。
ゆるゆる撫でて虎次郎と同じように目を閉じて。
やって気持ちええんやもん。
さっちゃんの手はおっきいけど優しくって、とっても気持ちいいんやもん。
ぽかぽか日当たりのいいお部屋で頭撫でられて、ぬん、おれ、もう何やとろーんって。
「ぬー…」
「真樹緒?寝るの?」
「や、ぁ…」
そんな、つもりは、ないんや、けど…ね。
ぬん…
でも…ちょっと、ふぁ…
さっちゃんの手が、きもちよくってー…
「が、…ぁふ、」
「あらお前も?」
「ぐるる…」
「ふふ…ゆっくりお休み。」
言いながらさっちゃんが俺とこじろうの頭をなでてくれた。
日暮れ前には起こしてあげるから。
きっとそれぐらいには独眼竜達も甲斐へついてるよ。
「まさむねさま……くる、ん?」
「一人でお泊まりなんて許すはず無いからね、あのお方が。」
さっちゃんの笑い声が遠くの方で聞こえる。
でもやっぱり頭を撫でられてるのが気持ちよくってもう意識が。
「すう、――」
――――
――――――
「佐助。」
「あ、大将。」
「中々微笑ましい光景よな。」
「いいでショー。」
真樹緒と虎君が寝入って暫くして、やってきた大将は楽しげに俺達を見下ろしてにやりと笑う。
膝の上の真樹緒と虎君の寝顔を覗き込んでそろりとその頬を撫ぜ、喉を鳴らして隣に腰を下ろした。
「独眼竜が来おったわ。」
「あら、予想より早いですねえ。」
俺様的にはもうちょっと遅くに来るかと思ったんですけど。
さてはうちの鴉が書を届ける前にすでに奥州出てたねあの旦那。
「今幸村が相手をしておる。」
「えっもう!?」
てか旦那山で鍛錬してたんじゃないの!?
だから俺様日暮れ前に真樹緒と旦那を迎えに行こうって…
団子持っていこうねって…
そりゃあ独眼竜の気配なら分かるかもしれないけどそれにしたって。
「はー、俺様穏やかなひと時も終わりか―。」
一人ほうっておいたら何しでかすか分かったもんじゃないしねー。
それに独眼竜一人で来たわけじゃないだろうし。
今来たってんなら真樹緒と一緒に泊まっていくつもりかもだし。
あ、やだお持て成しの用意とか何もしてないよ俺。
ちょっともう、折角真樹緒と虎君ととってもいい感じだったのに。
「大将、ちょっとここ代わってもらえません?」
俺様これから大忙しだから。
旦那の様子見に行って独眼竜のご機嫌も取って、さらにはお持て成しの用意があってさ。
起こしちゃうのもかわいそうだし。
可愛い寝顔は守ってあげたいしねー。
「よい、佐助。」
「へ?」
「お主はそこで真樹緒と共におれ。」
わし、って俺様の頭を掴んで。
ぐしゃぐしゃとまぜて大将は立ち上がった。
あれ俺様今大将に頭撫でられた?
てか鷲掴まれた?
あれ?
そんな事を考えてる内に笑いながら大将が廊下を歩いて行く。
「ちょっと大将!?」
「たまにはちぃと若造共を揉んでやらねばならんと思うとったところよ。」
丁度よいわ。
佐助、お主はそこで真樹緒と虎子の安眠を守っておれ。
「…は、」
豪快に笑い飛ばして大将の背中が消える。
「覚悟は良いか幸村ァァァァ!!」
なんて言いながら豪快な足音も続く。
そんなのを聞きながら伸ばした手が少しやるせない。
え、ちょっと待ってよ大将。
俺様何だかおいてけぼりなんだけど。
ねぇ、ちょっと。
頼むから庭先でなんて止めてよ。
庭先でおっぱじめないでよ。
庭の灯籠や植木を壊したり折ったりしたら許さないからね俺様。
口に出しても誰も聞いている訳ないのに言ってみたりして、何だか体の力が抜けた。
豪快な笑い声にも起きることの無かった真樹緒と虎君を見下ろして漏れるのは笑みで。
むにゃむにゃと寝言を言う二人の頭を撫でて空を仰ぐ。
「はー…ああ、」
大将のお許しも出た事だし。
もう少しこの時間を楽しませてもらおう。
そのまま俺もごろんと横になって目を瞑る。
鳥の鳴き声、風の音。
たまに耳を背けたくなるような大将や旦那の声も聞いて。
やっぱり笑って。
「………ん?」
知らず寝入ってしまって目が覚めた時。
膝にいた真樹緒と虎君が俺に寄り添うようにくっついていたのには、とても驚いたのだけれど。
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