[おへんじ]お父さんとお母さん


「小十郎、こっちの野菜切っちゃっていいの?」
「ああ、魚は綱元が調達してくるらしい。」
「了解了解、」


さー、それでは腕を振るいますかね。

肩にたすきをかけて気合いは十分、目の前に積まれる新鮮な野菜達によくぞここまで立派に育ってくれたと合掌して包丁を握った。


本日神無月の十八日、我らが真樹緒の生誕日。
梵が発端の「さぷらいずぱーてぃー」の準備は真樹緒にばれる事無く順調に進んでいる。


「俺と小十郎がこんな所に二人でいたら覗きに来そうなもんだけど。」


あの子。
きょろきょろ辺りを見渡せどその姿は見えない。
庭から声も聞こえないし、城の中にいるんだろうか。


「真樹緒なら今朝から政宗様と虎次郎と遠乗りに出てる。」

「え?そうなの?」

「戻るのは日が傾いた頃との仰せだ。」

「はー…」


なるほどねー。
まぁ城にいたらいつ真樹緒にばれるとも知れないしねー。
こっちとしては一安心だけど。


大根を切って、牛蒡を切って、水にさらしながら肩をすくめてみせる。
山菜と茸を洗って籠に乗せて。
後は豆腐か、なんて呟きながら楽しげにはしゃぐ真樹緒を思う。
どこまで行ったか知らないけど危ない事してないといいけど。


「(しゅた)」
「あれ、風魔。」
「(ずい)」
「魚じゃねぇか。」


綱元から預かったのか?


「(こくり)」
「お前、真樹緒達と一緒にいかなかったの?」
「(……)」


て つ だ い


「手伝ってくれるの?俺達を?」
「(こくり)」
「ありがとよ。」


小十郎が風魔から魚の入った顔を受け取りながら言った。
大人しくその後に続いて厨に入る風魔に思わず笑みが漏れる。
隣に並んで魚をさばいて、出来あがったものを一緒に擦り潰して。

薬味を入れるんだ、よく潰せよ。
こくり。

小言を挟む小十郎に頷く風魔。
まるで子供とお父さんだ。


「くっくっくっ、」
「成実?」
「(?)」
「いいや何も。」


何も無いよ。
何も無いからぜひまたその手を動かしてほしいな、俺。
うちには子供が二人もいたんだねえ。
二人とも可愛いったら。
新しい発見だ。


「さて、俺も鍋の仕上げだ。」


笑いを堪えて土鍋を火にかける。
今日のさぷらいずおぱーてぃーにはご馳走が沢山出るんだよ。


俺特性の鍋に、風魔と小十郎が作っているつみれを入れて。
鬼庭殿が張り切っていたお造りも並ぶ。
小鉢料理は俺の腕の見せ所だ。
見栄えが良くって味も遜色ない物を。
真樹緒には飲ませられないけど美味しい地酒も用意した。
でざーとには梵が気合いを入れたけーきだって出るんだよ。


「小十郎、俺部屋の用意をしてくる。」
「もうそんな刻か。」
「まだ平気だと思うけど、少し早目の方がいいと思う。」


広間の用意。
梵や真樹緒、俺達の他にも兵の皆だって集まるんだろう?
皆朝っぱらからそわそわしちゃって。
兵達も「ぷれぜんと」を渡すって聞いたよ。
真樹緒達が帰ってくる前に準備しておかないと。


「風魔、それ終わったらこっち手伝ってね。」
「(こくり)」
「膳と皿を持ってきてもらえる?」
「(こくり)」
「良い子だね。」


さぁーて日が傾くまでもうすぐだ。
体を泥だらけにして帰ってくるだろう真樹緒と梵、虎次郎をまず湯に放り込んで。
そしてそれからご馳走が並ぶ広間に呼んで。


「よーし、気合いを入れなきゃ。」


真樹緒は喜んでくれるだろうか。
あの大きな目をいっぱいに開いて驚いてくれるだろうか。
ああ、俺の方がどきどきしてしょうがないよ。


顔を両手でぱちんと打っていざ。
真樹緒の「さぷらいずぱーてぃー」はもうすぐだ。









「Hey真樹緒!虎次郎!そろそろ戻るぞ!」
「えー、もうー?」
「がうー?」
「まだお日様沈んでへんよ?」


もうちょっと川で遊んでたいなー。
虎次郎お魚取るのちょう上手なんやで!
がうがうがう!


「今日はspecialな日だからな。」
「?スペシャル?」


ぬ?
何が?
何でスペシャル?


「くく…それは戻ってからのお楽しみだ。」
「お楽しみ?」
「がるる?」


「行くぜ真樹緒掴まってろ!」
「ぬー!!政宗様早い!」
「虎次郎遅れんなよ!」
「がうがうがうがう!」


誰に言ってんだ政宗!
おいらが馬なんぞに遅れをとるわけねぇだろ!!


「ぬー!ゆれるんー!!」


ええー!
ほんまに何ー!
政宗様ちょっと急ぎ過ぎやでもうー!

お、お、落ちる!!




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