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豆腐屋での一件から一週間後、致佳人たち五人は大阪駅にやってきていた
大阪駅の壮大さに、致佳人が目を輝かせて喜ぶ
「うわぁぁぁ!! すっごいですね、大阪!」
「色々工事してたのが出来上がったみてぇだなぁ」
「良く大阪にはいらっしゃるんですか?」
「仕事ん時はな。けど、あんまないなぁ。大体、大阪の仕事は大阪の華街のヤツらがいるし」
「ここにも裏七軒のみなさんみたいな人達がいるんですか!?」
「そりゃあ、いるさ。どこにでも問題ってのはあるからなぁ。色々と」
大阪駅から離れ、目的地へと向かう致佳人達
目的地は此処からそう遠くなく、徒歩で十分辿り着ける距離である
今回の秀次からの依頼は、とある人物に接触し、仲間に引き入れる事
それが無理であったならば、徳川と手を組まないように約定を結ぶ事
最悪の場合は、相手を打ち倒す事を頼まれた
本来ならば、はな、橘、桜のみで向かう案件なのだが、今回は致佳人と桔梗が同行していた
春はいつもどおり裏七軒で留守をしてくれている
桔梗がこの依頼を知り、はな達に同行を申し出たのには理由がある
はな達が今回接触する人物に会いたいからである
所在が分からなかったから、会う事は叶っていなかったが、秀次はとうにその人物の所在を知っていたらしい
秀次から今回の依頼がやってきた時に、伝言として「会いにいってみるといい」と告げられた
勿論、秀次の伝言がなくとも、同行を申し出るつもりではあったが、わざわざ彼が言うということは何かあるのだろう
ちなみに先週の事については、桜と橘から致佳人には教えないという約束で教えられていた
致佳人が会ったと思われる紫の瞳の少年は、桔梗も先日会った徳川家光でほぼ間違いないという事
北野天満宮で観光客が行方不明になったことの原因は、人を糧にする家光の隠威だという事
家光と接触しても、彼の隠威の力で何一つ覚えられていないというのに、何故致佳人が家光について覚えていたのかは不明だが、致佳人は隠威の影響を受けないらしい
今回の依頼は、家光による妨害の可能性が大きく、致佳人を同行させることによって、家光と遭遇した時に判断できるようにという思惑もあるらしい
話はよく分かったのだが、この話を何故致佳人にはしないのかと二人に尋ねたところ、まだ早いとの返答があった
「まだ早いも何も、彼はもう無関係ではないと思うのだがな。本人も、聞かせてくれるのを望んでいるだろうに」
桔梗が致佳人をちらりと伺うと、ぼんやりと橘とはなを見ているところだった
「致佳人、つらい?」
「え!?」
はなが致佳人の様子に気が付いて声をかけた
「どこか痛い?」
「う、ううん大丈夫! なんともないよ!」
「ぼーっとするな。はぐれたら置いていきたい所だが」
「置いていかねぇから、大丈夫大丈夫」
橘と桜の思い掛けない温かな言葉に、致佳人が感動し、涙ぐむ
「で、もし何か気になった事とか気づいた事とかあったら教えてくれな」
「紫の目の男子学生がいたら、すぐだ。わかったな」
「……は、はい」
致佳人の隠威の影響を受けない特性を利用して、家光の妨害を察知する目的もあるため、橘達は彼を置いていくことはない
まぁ、そうでなくとも橘達が致佳人を置いていくことはないのだが
突然、話に入っていなかったはなが、うどんの匂いにつられてフラフラと歩いてしまおうとする
「おうどんのにおい〜」
「ってはなさん!!」
致佳人が気が付いていち早くはなを止めようとするが、間に合わずに遠ざかっていく
「飯食いたいのは良くわかるんだが、もちっとの辛抱な、はな」
「麺〜〜」
はぐれてしまいそうなはなをひょいと持ち上げて、阻止する桜
阻止されたはなは落ち込んでしまうも、橘が用事が済んだら調べた店に連れて行ってくれるということに元気を取り戻した
「早く行こう!!」
「うわぁっ!」
「……! あぁ」
桔梗と致佳人を勢いよく引っ張り、先に向かうはな
その三人の後をゆっくりと追いかけながら声を落として話す橘と桜
「理屈は分からねぇがチカちゃんは家光の動きを俺達に教えられる。それは確かだ。こっちが動きゃあっちも動く。まずは飼い主からの依頼を果たさねぇとな」
「……分かってる」
「さて、行きますか。家光とは別の意味で厄介な相手のとこへ」
-be continue-
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