秀次たちが裏七軒を後にし、少ししたところで致佳人がおつかいから帰って来た

しかし、豆腐屋が休業であった

そのため、致佳人に無駄足を踏ませてしまったお詫びも兼ねて、湯豆腐屋にやって来ていた

致佳人を、巻き込みすぎないように話から遠ざける口実として、おつかいを頼んだとはいえ、悪いことをしたと桜が致佳人に謝る

それに、致佳人は一切気を悪くした素振りは見せず、寧ろ憧れの店で豆腐料理が食べられることを喜んだ

だが、その横で明らかに落ち込む人物がいた


「はなさん?」

「すごく美味しいけど、麺がない」


しょんぼりとしたはなの前には、豆腐を中心とした京料理がずらりと並んでいる


「作りますよ、帰ったら。頂いた温麺もまだありますし」


致佳人の言葉に、気を落としていたはなは、満面の笑みを浮かべ、彼にお礼を言う


「ありがと、致佳人」

「い、いえ」


その笑顔に致佳人は初々しく真っ赤になり、その顔を見た者たちはそれぞれの反応をする


「何をでれでれしている居候」

「え!」

「はなはとても可愛いですから」

「え!?」

「何故其処で赤面するのだ?」

「あ、う…!?」


続け様に言葉を掛けられるが、致佳人は茹で上がった頭のせいで、同居人たちに上手く言葉を返せない


「致佳人君。や、長いし、チカちゃんでいいかい?」

「は、はい」

「チカちゃんははなの顔が好みかい」

「え! ちが! ってないっていうか! あの、あの! き、きれいだと思います! けど、そうじゃなくて! ああああ!」


桜の追い打ちに、恥ずかしさに耐えられなくなった致佳人が、半ばパニックになる


「あら、まぁ…」

「チカちゃんは面白ぇなぁ」

「今度は阿保面か」

「大丈夫なのか、致佳人」


春は微笑ましそうに見守り、桜は完全に面白がっている

はなはきょとんとした顔で叫ぶ致佳人を見つめ、橘は呆れている

何の話なのか分かってはいるが、何故致佳人が恥ずかしがっているのかよくわからない桔梗は、文字通り真っ赤な顔の致佳人の心配をする


「……」

「この後麺! 麺!」

致佳人は恥ずかしさのあまりに卓に突っ伏し、褒められている当の本人は無邪気に麺が食べられることを喜んでいた


「っていうか! 京都ってほんと綺麗なひと多いなって!」

「そうかい?」


桜の問いかけに、全力で首を縦に振る致佳人


「さっき北野天満宮でもすごく綺麗な子がいて」

「口説いたのか」

「してません! 男の子だったし! でもちょっと現実感ないくらい綺麗な子で! ボタンのない学生服着てて、細くて色が白くて、髪の色も薄くて…。あ、そう。まつげばさばさで、目が紫色だったんですよ」

「「「「!!!」」」」

致佳人の最後の言葉を聞いた、桔梗を除いた裏七軒の四人は大きく反応し、橘は弾けるように部屋から飛び出していく


「橘?」

「二人とここにいろ、はな、春」

「うん」

「はい」


事情をよく呑み込めていない二人は、出ていった橘を座ったまま、見送る

桜は素早く、状況を飲み込んだ二人に指示を出し、橘の後を追った

はなは致佳人を守るように体勢を整え、春は桔梗の手をそっと握った


「な、なんか俺、問題あること言っちゃいましたか?」

「違う。でも、致佳人ははなが守る」


はなと致佳人には聞こえない音量で、桔梗は思い当たったことを春に尋ねる


「橘があれだけ取り乱したということは、家光絡みか、春」

「…はい、紫の瞳の少年といったら彼ですから」

「そうか…」


















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