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致佳人がおつかいから帰ってくる前に、新幹線の時間となった政宗と小十郎は、同じくお暇する秀次と共に京都駅へとやって来ていた
まだはなと一緒に居たいと駄々をこねる政宗を、殺気を放ちながら宥める小十郎
そんな彼らを楽しく見守る秀次と呆れ気味の神言
政宗の首根っこを掴んで引き摺りつつ、小十郎は自分たちと違って新幹線の時間を気にしなくていい秀次に、帰るのかと問い掛ける
「うん。調べておきたい事もあるしね」
「徳川、か」
真剣な表情になった政宗に気づいた小十郎は、首根っこを掴んでいた手を放す
「選りにも選って、一番面倒なのが徳川の隠威を継ぎやがって」
「その隠威も一体どんな力を持っているのか全く分からないですしね」
家光と対面して戦っても、隠威の力でその時のことを覚えてはいられない
それは、前世でも同じことだった
戦にて戦ったのは家康や秀忠であったが、徳川の隠威は受け継がれるものであるから、家光もまた、同じ力を持つのだろう
【我らの中にも彼の隠威の力を知るものはおらん。何を糧としておるかは周知であるがな】
「…その力を使って信長公の骸と第六天魔王を家光公が欲するのならば、戦になる。それも、最悪の」
一般人をも大きく巻き込んだものとなるだろう
秀次と別れ、新幹線に乗り込んだ政宗は、いつもならすぐに仮眠をとるのに、今回は窓の外を眺めながら難しい顔をしていた
主の変化にいち早く気が付いた小十郎は、その理由に心当たりがあったが、そのまま気遣う言葉を口にする
「政宗様、考え事ですか」
「ん、まぁな」
「桔梗様のことですか?」
「…まぁな」
静かな車内の中、小十郎が指摘した通り、政宗は再会した桔梗について考えていた
まさか京都で再会するなんて思ってもみなかったのだ
彼女がどちらであっても、あの場に居る事が驚愕以外の何物でもなかった
だから、裏七軒で見た時に驚いてしまったのだ
「あの方のことはよく覚えています。政宗様、何度も手合わせをしては返り討ちにされてましたからね」
「あれは俺が餓鬼だったからだ!」
手足の間合いとかで負けていただけだ、多分
あとは戦闘経験とか年の功とかそういう差である
「つーか、そういう事を考えてたんじゃねぇよ、小十郎」
「では、何を?」
「…家光が接触したと言ってたな」
致佳人がおつかいに行った後、少しの時間だが情報交換が行われた
その時に家光がわざわざ桔梗に接触をしたことを聞いた
その話を聞いて、前世での事を思い浮かべたのだ
前世で徳川は桔梗を手に入れようと様々な手を用いていた
政宗自身は桔梗と行動を共にしていた訳ではないので、その話は伝え聞いた程度であったが
「前は家康がいたから狙っていたはずだ。だが、今世に家康はいない。家光が接触をしたのは単なる興味だとは思うが…」
「桔梗様が徳川にわたるのではないかと心配しているのですね」
「…」
「桔梗様は大丈夫だと私は思いますよ。裏七軒の方々がいますし、春さんもいますから」
「だといいがな。記憶が戻って、あいつが何を選ぶかはわかんねぇだろ」
あの時代の桔梗にとって、絶対があった
何よりも大切なものが
それを守るために、彼女は何度も何度も人を殺め、戦い続けた
記憶を取り戻した彼女は、その大切なものの為に今の全てを切り捨てるかもしれない
「政宗様…」
「ま、今世で桔梗とやり合うのも悪かねぇけどな」
政宗にとって桔梗は超えたかった壁だ
前世では超える前に彼女が姿をくらませた
そんな政宗の気持ちを知っているからこそ、小十郎はその言葉の裏を汲み取る事が出来た
「…今世こそは勝てるといいですね、政宗様」
「勝つに決まってんだろ。にしても、徳川が動いたなら、戦の地は京都で間違いなさそうだな」
「承知してます。近いうちに仙台の本家に参りましょう」
戦場が京都になるのなら、東京にいては戦うことすらできないだろう
「それに、春さんのこともありますしね」
裏七軒に住む、隠威が視えるだけの少女
彼女は本当に戦う力などなく、ある人物との哀しい縁であの場所に居るだけだった
「…あいつは今世では幸せになるべきだからな」
近くにいれば、何が起きても助けになれる
今世こそは、彼女を何があっても救う
その思いは、政宗だけではなく、小十郎も同じであった
何も知らない春にとって、自分たちのこの思いがただの贖罪だと、わかりきってはいるけれど
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