「居候だけじゃない。そっちの我が儘のせいでもあるぞ秀次」

「ははは。裏七軒の新しい住人に挨拶したかったんだよ」

「桔梗の時は此処に来ただろう」

「あの時は神言が早く会いたがったからね」

【秀次もそうだったがの】

「はっ! そういえば、お届けもの」


致佳人は届け物をするために秀次に会いに行ったことを今になって思い出す

しかも、まだお届けものを渡していないことにも

だが、神言が致佳人に近づき、そのお届けものが何であったかを致佳人に教える


【そなたぞ】

「え」


お届けものは自分であると言われ、困惑する致佳人に対し、その反応を目にした者たちが各々の所感を述べる


「やっぱり間抜けすぎる」

「おっとりしてるっていう言い方もあるけどな」

【それも褒めてるようには聞こえぬな】


橘は変わらずに厳しい所感を述べ、桜は一応フォローらしきものをしている

ちなみに桜の所感に対する神言の指摘が一番他の人の同意を得ていたような気もする


「致佳人君は特別だしね。何せはなが妙法で東京から呼び戻したくらいだから」


秀次の発言に、それまではなを愛でていた政宗が驚愕し、一変して殺意にも近い敵意を致佳人に向けた


「まじかよ!!! 倶利伽羅出せ! 小十郎!」

「わーー!!」


一般人である致佳人には、政宗の剣幕は恐ろしいものであり、咄嗟に手で身を守る

だが、小十郎が倶利伽羅を出すこともなく、また、政宗が致佳人に危害を加える前にはなが警告する


「致佳人に怪我させたら、はな怒るよ」


これには小十郎も驚いたようで、「はなさんが怒るとは」と思わず口にした

当の政宗も政宗で、はなの言葉を聞いて敵意より悲しみが勝ったらしい


「怒ったらやだーー」


と、はなに泣きついてよしよしと宥められる


「本当に特別なんだね」

【ほんに何をしにきたのだこやつは】


呆れるようなやりとりを見ていた神言が、白けた目で尋ねると、それまで泣きついていた政宗はドヤ顔で答える


「はなといちゃいちゃしに」

「そうなのか」

「そんなわけないだろう」


納得しかける桔梗と致佳人に、すかさず橘がツッコむ


「政宗様」


ふざける政宗に、怒りの鉄槌を下そうとしている小十郎に気づいた政宗は、慌てて東京から来た理由を述べる


「それと! 徳川の事!!」


政宗の発言に、橘が反応を見せたことに致佳人は疑問を感じる

致佳人にとって彼らの話は全て信じられないようなことばかりで、知らないことばかりだ

今回の政宗の目的も、きっと自分にはわからない話なのだろうと思った


「…隠威の情報網には困ったものだね」

「ある意味ひとの世界より厄介だよな。メールも電話もいらねぇっつうんだから」

「そうなんですか?」


致佳人の驚きには神言が応える


【応。力さえ強ければ、どれ程互いの距離があろうとも読む事が出来る。防ぐ事もまた可能ではあるが、それもまた力の強さによるのう】

「中には読心に長けて、隠威だけでなくひとの心も読める隠威もいますしね」

「色んな隠威さんがいるんですね」


神言と小十郎の説明を受けた致佳人が、抱いた感想は凄いなとたくさん知らない事があるなという感心であった


「そのおかげで神言を通じて信長公の骸と第六天魔王を手に入れる術が分かったんだけどね」


秀次の話に神言が得意げにしている

得意げな神言を褒めるように喉を撫でてやる秀次と、それを気持ちよさそうに受ける神言

政宗がそれをはなにお願いして、後ろの方で同じようにしてもらっている


「通じてってことは神言様が見つけた訳じゃないんですか? その、一番強い隠威を手に入れる方法って」

「違うね」

【…徳川におるものと血約しておる隠威が…な】


致佳人の疑問を否定する秀次と、哀しそうな表情を浮かべる神言


「ありゃあ、居るとは言わねぇだろ」


政宗の指摘に、場の雰囲気が一気に深刻なものへと変わる

秀次が橘の様子を伺ったことで、致佳人にも橘が関係している事が分かる


「…双りの隠威のことか?」

「まぁな」


桔梗も致佳人同様、彼らの話を半分も理解できてはいなかったが、話の流れから推測して、先ほど橘が話してくれたことなのだとは理解できた

念の為、桜に小声で確認すると、肯定が返って来た

確かに、取り返すのなら居るとは言わないだろう


「家康もたいした狸だったが、あいつは…」

「徳川で一番偉いっていうか血が濃いのって、やっぱり家康じゃないんですか?」


徳川幕府の初代将軍が先祖返りをしているのではないかと、致佳人は思ったのだが、周囲の反応を見るとそうではないらしい


「違ぇよ」

【家康は東照大権現となったであろう】

「神号を与えられて、あれだけ凄い東照宮に祀られると色々、ね」

「じゃ、今、家康さんは」

「いねぇよ」

「じゃあ誰…「豆腐」…え!?」


家康ではないなら誰が

それは歴史好きの致佳人にしたら、至極真っ当な疑問であった

だが、その疑問を投げかける前に、桜による突然の豆腐発言で話が中断された


「豆腐買って来てくんねぇかなー、致佳人君」

「は…はい?」

「京都の湯豆腐食いたくねぇ?」

「食べたいですけど、今ですか?」

「店、閉まっちまいそうなんだよ。悪いなぁ」

「わ、わかりました」

「絹と木綿三丁ずつ。あとくみ上げ二丁な」

「はい」


桜と致佳人のやり取りに口を挟む者はいない

そして、戸惑いつつも、素直に応じてお使いに行く致佳人に、はなが送り出しの言葉を投げかける 


「いってらっしゃい」

「行って来ます」


嬉しそうに致佳人がはなに返事をし、そのまま駆けて家を出ていった


「こっち側に来たばっかりの子に、まだ聞かせる事ぁねぇだろ」


桜の主張通り、致佳人はまだ裏七軒に居候をするようになって一日なのだ

それなのに自分たちの最大の敵である徳川の話は早い


「徳川…家光の事は」


家光という名を聞くと、橘は無意識に左手へと力を籠める

はながそれに気が付き、静かに橘を抱きしめる


「…はな」


橘はそれを拒むことはせず、自らもはなを弱く抱きしめた






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