秀次たちの後から続いて入って来る人物を目にした春は明るい声を上げる


「政宗さん、小十郎さん! お二人とも、お久しぶりです! 何時から此方にいらしていたんですか?」


久方ぶりに会う二人に嬉しそうに駆け寄る春

そんな春に軽く手を挙げて答える政宗と、きちんと挨拶をする小十郎


「よお。元気にやってるか、桔梗」

「春さん、お久しぶりです。お元気そうでなにより」

「はい! どうぞお二人共お上がりください。桜と橘も中にいるので昼食をご用意しますね」

「あぁ。春さん、こちらお土産ですので宜しければお使い下さい」


春は、なんだろう、と思いつつ受け取ると、中には冷麺が入っていた


「はなさんが好きないつものやつ、ですよ。毎度変わり映えのしないものですみません」

「いえいえ、はなの好物なので、とても喜ぶと思います。では、お昼はこちらを使わせていただきますね」

春は、冷麺を食べて喜ぶはなの姿を政宗が見たいというのもあるのだろう、なんてことを心の中で思った


四人が居間に入っていくのを見届けた後に台所へと向かおうと、春はその場で四人を見送ろうとする

秀次と神言が居間に入り、楽し気に挨拶を交わし、それに政宗が続くはずだった

そう、はずだった

春にとって、政宗は知らない他人ではなく、本当にお世話になった人だ

彼が年相応の幼さを持ちつつも、時として当主としての威厳を持っていることを知っている

その彼が、今に足を踏み入れようとした瞬間に怯えて尻もちをつくとは思ってもみなかった

しかも、悲鳴のような声を上げて


「なななな…!!」

「政宗様!? 如何されまし…」


政宗の行動に驚き、その視線の先をたどった途端にあの小十郎までもが固まった

二人の反応に、その場にいた秀次と神言以外のものが困惑する

一体何を見てそんなに驚いているのか、それは政宗本人の口から明かされる


「な、なんで…。こんなとこにいんだお前が! 桔梗!!」


政宗による桔梗という名指しに、皆の視線が彼女に集まる

それは、政宗の反応に対して桔梗はどう反応をするのかこの場の誰もが気になったからだった


「…居候をさせてもらっている?」

「あの情報まじだったのかよ! じゃ、ねぇよ! お前、まじであの場所から出たのか! 俺らが何度言っても聞かなかったくせに!」

「なんのことだ? 君は私を知っているのか?」

「はぁ? 知ってるも何もお前、俺の事……お前、何もないのか? あーー…ビビり損だ、クソッ」


桔梗の反応から事態を察知した政宗は、悪態をつきつつ立ち上がる


「…政宗様」

「あぁ。おい、秀次、説明しろ。何で居る、こいつが此処に」


政宗たちの雰囲気に、只ならぬものを感じ取った秀次以外の裏七軒の者は、余計な口を挟まずにいた


「やっぱり、君たちは彼女を知っているんだね。うん、そうだね。彼女が此処にいることになった経緯を話そうか」


立ったままでする話でもない、と全員を居間に座らせる

それから、秀次は桔梗が裏七軒に至る経緯を、当事者たちにも話を振りつつ説明した


「―――という経緯だね。どうかな、政宗」


秀次たちの説明を受けた政宗は、難しい表情を浮かべつつ、傍らの小十郎に視線を向けた

政宗の視線を受けた小十郎は、静かに頷き返す


「事情・経緯は理解した。お前は思い出したいんだったな、桔梗」

「…あぁ」

「確かに、俺たちはお前を知っている。お前が何者なのか。…だが、それに関して俺らから言うことは何もねぇ。それがお前を師に仰いだ俺の結論だ」

「桔梗が、政宗さんの…師」


衝撃の事実に、思わず言葉をこぼしたのは春だけであったが、この場にいるほとんどの者が抱いた言葉であろう


「わかった。私自身で私を見つけていくことを約束する。君のこともきちんと思い出す」

「いや、いい機会だ、俺のことは綺麗さっぱりそのまま忘れてろ!」

「何故だ?」

「政宗様は桔梗様に挑んでは泣かされてましたから」

「小十郎!!」

「そうか。それは是非思い出したい。…政宗、小十郎」

「「?」」

「逢えて嬉しい」


桔梗が小さな幸せを見つけたような微笑みを浮かべ、礼を込めた言葉に対し、それを受けた政宗は青ざめる


「や、止めろ! 普通に怖い!」

「政宗様、失礼ですよ。政宗様は貴方に逢えて色々な意味で混乱しているみたいなので気になさらないでください。こちらこそ、桔梗様。今生にてお逢いできたこと、嬉しく思います」


政宗は小十郎のフォローに、些か不満がありそうだったが、否定はしなかった

話が一段落したことを見計らった秀次が、手を数回叩いて場を変える


「さて、話はこれで終わったね。お腹空いたし、お昼にしようか。春、お願いできるかな」

「え、あ…、はい! すぐにご用意しますね!」

「春さん、俺も手伝います!」


ぱたぱたと、春と致佳人が台所へと駆けて行く

昼食ができるまでの間、各々が雑談を始める

お互いの近況や、他の隠威持ちについてなど雑談というよりかは、情報交換であったが

話には口を挟まず、興味深そうに話を聞いていた桔梗の隣に、政宗が移動してきた

怯えられているのかと思っていた桔梗は、表情には出さずとも、政宗のその行動に少なからず驚く

何か用があるのだろうと、政宗の方を向くと、やはり目が合う


「なにか? 政宗」

「…一つだけ、助言をな。お前の隠威はずっとお前の言葉を聞いてるぞ。前もそうだった。聞いてるくせに返事をしないだけだ。出てこないのには理由があるんだろ、多分。助言はそれだけだ。よいしょっと…はなー!」

何も口を出さないと言っておきながら、こうも重要な助言を与えてくれるとは


「優しいところは変わらないんだな、政宗」


桔梗は自分の言葉の意味に気を向けることなく、懐かしさを感じる少年の姿を見つめた






居間には橘に桜、桔梗、はな、致佳人、政宗、小十郎、秀次、神言

いつもは考えられないほどの大所帯であった

春は先ほどの出来事は済んだこととして切り替え、賑やかなことを嬉しく思いながら、まずはお茶を用意することにした

人数分のお茶を用意し、致佳人に手渡してから昼食の準備を始める

小十郎に貰った冷麺を使用した昼食作りだ

具は戻って来た致佳人が肉味噌を用意してくれているので、春は麺を茹でて、食後のデザートであるゼリーを手早く作り、冷蔵庫で冷やす

できた肉味噌麺をお盆にのせ、皆が待つ居間へと向かう

居間に入ると、何故か怒りモードの橘がおり、それに気づいた致佳人が怯える


「お待たせいたしました」

「うーめん!」


春と致佳人をはなが満面の笑顔で出迎えてくれ、早く食べたいと言わんばかりに手をうごうごと動かす

心なしか、はなの周りにお花が舞っている


「代り映えのしないお土産で申し訳ないんですが」

「うーめん! うーめん!」

「はなには一番の土産だよなぁ」

「うん!」

「ほんっっっっとうに可愛いな――。はな!」


そしてそんなはなにデレデレする政宗

政宗ははなが大好きで仕方ないのであった


「いただきます!!」

「はい、どうぞ」


元気よくいただきますと言ったはなに、嬉しそうに致佳人が勧める


「どうぞ、だと…。何をのうのうと麺類を勧めている、この居候が」

「は、え、あ…の」


嬉しそうな致佳人に、橘が不機嫌を隠さずに言葉を投げかけるも、周りの和気藹々とした空気に雰囲気が分かれる


「具は肉味噌ですね」

「美味しいね」

「致佳人君のお手製みたいだぞ、それ」

【なかなかやりおるの】

「ふむ、美味しいな、これ」

「はな、最高だーーっ!」


皆でわいわいと団欒しながら肉味噌麺を食べ進める

だが、橘だけは不機嫌を隠さず、致佳人への非難を続ける


「はなに火傷をさせて自分は無傷で戻るとは」

「す…すみません!」


春は状況がよくわかっていなかったが、橘が言っているのは、どうやら政宗たちがいることと関係しているらしい


「致佳人悪くない」

「はなさん」

「それに、橘がコートを着せてくれたから大丈夫だった」

「コートって、あの」

「心配性の橘が術かけといたんだよ」

「オレの活躍があったしな。なー、はな」

「うん、ありがと」


致佳人とはな、政宗が会話をする中で、春はこそりと桜に何があったのか尋ねてみる


「致佳人君に会いたいって秀次が言ってなぁ。今朝言った届け物は致佳人君。で、間の悪いことに明智光秀が襲って来て、んで、政宗たちが助けた、と」

「な、なるほど。なんだか、大変だったみたいですね」

「のびるよ、美味しいよ」

「は、はい」


不安そうな顔で橘を見やる致佳人を気遣ったのか、はなが麺を勧める


「伸びますよ」

「ちぇ〜。はなに言って欲しかったぜ」


同じように小十郎が政宗に麺を勧めたが、政宗は不満そうだ

はなは続けて橘に麺を勧める


「橘も、ね」

「本当に痛まないか、はな」

「うん。大丈夫」


痛くないことを教えるためなのか、うごうごと手を動かすはな

そんな二人のやり取りを見た秀次が、茶化すように声をかける


「相変わらず橘ははなの事になるとひとが変わるね」

【まったくぞ】








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