桔梗は橘が察知した通り、北野天満宮にいたが、決してはぐれた末に辿り着いた訳ではなかった

桔梗の前には三人の人間が立っていた

一人は背が高く、サングラスを掛けた黒髪の男性

もう一人は長い黒髪を後ろに束ねた女性

そして、桔梗の真正面に立つ金髪の少年

髪はふわふわとしており、その瞳は綺麗な紫色をしていた

その少年は先程から、玩具を見つけた子供の様な笑みを浮かべている

両脇の二人は少年の従者の様であった

何故こうなったのかと、桔梗はもう一度先程の事を思い返す

桔梗は橘と春と共に裏七軒近くの商店街にやってきて、店を見て回っていた

そこで橘と春が二人で店に入っていったので、人混みに少々疲れた桔梗は店の脇に避けて休憩していた

その時に、背後から人が近づいてくる気配がしたので、振り返ってみるとそこには二人の男女がいた

黒服に身を纏った他の一般の人間とは違う雰囲気の男女

警戒を強めた桔梗に、女性の方が話しかけてきた

騒がず、こちらに従って来て欲しいと

勿論、拒否したのだが桔梗はその二人に挟まれるような形で進むことを強要された

下手な動きをすれば周りを巻き込む

そう脅されたので最早、抵抗することもできなかった

そうやって連れてこられた場所は北野天満宮で、其処には金髪の少年がいたのだった

そして冒頭に戻る事となる


「初めまして。えっと、桔梗であってるよね? 実物に会うの初めてだからなんだか緊張しちゃうなぁ」


目の前の金髪の少年が愉しそうにはしゃぎながら声をかけてきた

こちらの名を知っている

それだけで彼らが橘達の言う先祖返りであろうことが窺える

それに加え、見た目は普通の子供でも、この少年からは禍々しさしか感じられなかった

笑顔で挨拶をされても、桔梗は警戒を解かない


「君は誰だ? 私に用があるのだろう? 脅してまで此処に連れてこさせたのだから」

「そんな怖い顔しなくてもいいのに。ねぇ、僕はお祖父様に話を聞かされてからずっと君に会ってみたかったんだ」

「…?」

「ねぇ、君がお祖父様が言っていた姫君?」


その瞬間、周りの景色が闇に包まれる

囲われたのだと、本能的に感じ取れた


「お祖父様が亡くなるその瞬間まで探し求めた姫」


お祖父様? 心当たりなどない

戻った記憶の中にはこの少年は一切存在しない

ましてやこの少年の祖父など


「知らぬ。そのような者は知らぬ」


ドクリと心臓が鳴った

だが、言葉とは裏腹に自分はこの少年の気配を、血を知っている

桔梗にあっさりと否定された少年は特に気にした様子もなく、手を叩いた


「ふぅん? あ、そうだ。 隠威見せてよ」

「断る」

「どうして?」

「出し方もわからぬ。もし出せたとしても君に見せようとは思わないからだ」

「そんなこと言わないでさ。僕、君の隠威に興味があるんだ。だって、お祖父様があんなにも探し求めていたんだから便利な異能を持ってるんじゃないかな?」


断られた事にぷくぅっと頬を膨らませる少年には、年相応の無邪気さが見える


「でもそっかぁ。名前も出し方もわからないんだ。じゃあ、どうすればいいと思う、十兵衛」


金髪の少年が長身の女性の方に問いかける

彼女は十兵衛というらしい

十兵衛は少しの間だけ思案するように目を閉じた後、問いに答える


「名も出し方もわからぬのなら、主が危険な目に遭えば自ずと出てくるのでは」

「流石! 十兵衛はわかってるね」


桔梗は振り返った少年の紫の瞳で射る様に見られる

危険を本能的に感じ、その場から後ろに跳躍する

地面の抉れる音

その出来事は一瞬だった


「ふぅん。反応いいんだね。昔は戦闘でもしてたのかな?」


桔梗が避けられた事は予想外であったみたいだが、それでも嬉しそうな少年

彼はきっと、戦う事が楽しいのだ


「でも、次も避けれるかな」


今度の攻撃は避けられぬ様に両側から刃物の様な長い物体が迫ってくる

避けられない

そう感じた時、自身の口から知らない単語が零れる


「出でよ、緋ノ御刀」


桔梗の手から光とともに太刀が現れ、少年の攻撃を弾き飛ばした


「…その刀が君の隠威ってわけじゃなさそうだね」


金髪の少年の言葉には返さず、自分の手にある太刀をまじまじと見つめる桔梗

ゆったりと大きな波を描いた様な刃文、『湾れ』だ

何度見ても美しい

桔梗がぼんやりと呆ける様に太刀を眺める

一方で、少年は何故太刀が現れたのかはわからないが、楽しそうに微笑む


「流石に隠威が反応したみたいだね。もうひと押し、かな」

「御待ちを」

「なに、十兵衛。今いいとこなんだけど」


再び攻勢に出ようとした少年を、十兵衛が制止した

少年は口を尖らせて不満を口にする


「裏七軒の片割れが此処に向かって来ています。接触は好ましくないかと」

「え〜。もう、仕方ないな…。まぁ、元々会いに来ただけだしね。他にも用事あるし」


少年は諦めた様に呟き、息を吐く

すると、彼から放たれていた禍々しい気配が収まり、痛いほど向けられていた殺気も収まった

くるりと、少年が此方に背を向けた


「じゃあね、桔梗。今度会う時は隠威見せてね」

「っ待て! 君達は何を知っている!?」


その言葉に我に返り、慌てて去ろうとする三人に声を掛けるも、彼らは闇の空間が消えると同時に姿を消してしまった






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