真ん丸な瞳で致佳人を見つめ、そう尋ねたはなに致佳人が笑顔で答える


「俺で良ければ」

「うれしい」


致佳人の返答に満面の笑みではなが喜ぶ

ふわりとはなが被っているカエルのフードが跳ねた


「本当にはなは致佳人くんが好きなのですね」


本当に嬉しそうなはなを見て、春がつられて笑顔になりながら言う

同調する様に桜も頷いた


「良かったな、はな」

「うん!」

「………」


ほんわかした空気の中で、此処に一人だけ険しい顔をする男が一人

橘である

橘は致佳人を睨みつける様な目で見つめる

それに気がついた致佳人がビクっと肩を揺らす

そんな致佳人に近づいた桜が、彼の手からマグカップを素早く取った


「さて、二人とも用意して来な」

「でも、片付け」

「俺たちがやっとくさ。はなの事頼むな」

「はい、じゃ」


致佳人がパタパタと駆けて行く

はなは楽しそうに体を揺らしている


「はな。急に冷えるかもしれない。コートは着て行くんだぞ」

「うん」


橘の言うことに返事をした後、はなもパタパタと駆けて行った

二人が準備に去った後、桜と橘が小さい溜息を吐く


「…って、三月半ばじゃもう大学は春休みなんだが、気付かなかったみたいだなぁ、致佳人君」

「ものを知らなさすぎる」

「春休み…。大学はないのか」


まったく気が付いていなかった桔梗に、橘が呆れたような溜息を零す


「…此処にもいたな。それにしてもだ、そんな間抜けと二人だけで行かせるとは」


明らかに不満そうな表情の橘


「それが御希望だからなぁ、あいつの。しょうがねぇだろ、あれでも今は俺らの飼い主だ。この、『裏七軒』のな」


含みのある言い方をした桜に引っ掛かりを覚えた桔梗


「あいつ?」

「秀次さんのことですよ、桔梗。致佳人くんのことを報告した時にお会いになられたいと言ってきたそうです。私も昨日、お二人に聞いたんです。桔梗は先にお休みになられてましたから、お伝えしてなかったんですけど」


昨日とは石田三成についての話をした時である

春は桔梗が二階に上がった後にこの話を聞いたのだった


「そうだったのか。ふむ、では二人が出掛けるという話は嘘か?」

「ん? いやぁ、俺はほんとだが橘は嘘ってことになるなぁ」

「そうか。春、私たちが出掛けるのは真か?」

「はい。…そうです、では、今回は橘も行きませんか??」


名案と言わんばかりの笑顔で、春が橘に駆け寄った


「俺も?」

「はい! 折角のいい天気ですし、最近橘と出掛けていませんでしたから! …駄目でしょうか?」


そんな風な言い方をされると断れるわけがなかった

橘は春の誘いを了承する


「…構わないが」


橘の了承を聞くと春の表情は、ぱぁっと明るくなった


「では、片付けを早く終わらせて行きましょう!」


片付けのペースを上げる春

お盆を手に持って居間を出て行った

そんな彼女を見て、桜が楽しそうに笑い、からかう様に言う


「春は橘が好きだねぇ」

「…桜」


茶化す様に言う桜に橘が低い声で名前を呼んだ

流石に橘を怒らせるつもりはないらしい

桜はすぐに謝る


「おおっと、悪い悪い」

「? 春は桜も好きだと思うが?」


橘が気を悪くする様な、何か間違ったことを桜が言っただろうかと、桔梗が首を傾げる

そんな桔梗に桜が苦笑いして訂正する


「ちと意味違うかなぁ、俺とじゃ」

「??」


しかし、桔梗は理解していないようで、はてなを頭に浮かべている


「そこを掘り下げなくていい。お前も準備しに行け」

「? わかった。では準備してくる」


橘に言われ、居間から出て部屋に向かっていった桔梗

残った二人のうち、桜は苦笑いのまま言葉を発する


「桔梗はちょっとそっち方面には疎いんだなぁ。こりゃ、石田三成は苦労したんじゃないか?」

「知らん。俺も準備に行く」

「はいよ。じゃ、春の手伝いにでも行ってくるか」



居間を出ていく橘に続いて桜も居間から出ていった







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