「おはよ、春、致佳人君」


致佳人が声を掛けて直ぐに、桜が二階から降りてきた


「「おはようございます」」

「おー、息ピッタリだなぁ。 それに、カフェ飯か、綺麗でうまそうだ」

「今回は事前に致佳人くんと相談して献立を考えたんです。きっと今後もそうやっていくのでレパートリーが増えますよ。 致佳人くん、こういうメニューがお得意みたいなので」

「なんか、こういうのですみません」

「いやいや、家でカフェ飯食べられるなんざすげぇさ。バイトで頑張ってたんだなぁ」


桜が致佳人の頭を無造作に見えるように、けれど優しく撫でてやる

桜に撫でられた致佳人は嬉しそうに笑った


「で、あの三人はまだ降りてこねぇと」


三人とは同居している橘、はな、桔梗のことである

橘とはなが起きてこないのはいつも通りだが、桔梗が起きてこないとは珍しい

やはり、昨日の事がまだ残っているのだろうか


「桜さんはいつも起きるの早いんですか? 声かけたらすぐ降りてきてくれたし、服もちゃんとしてるし」

「寝てねぇの」

「え。夕べ何か用でも」

「いや。眠れねぇのよ。人肌ねぇと」

「…は?」

「桜、此方にマグカップ置かせていただきますね」


困惑する致佳人を見て面白がっている桜の後ろから春が手を出して、テーブルにマグカップを置いた

倒さないようにと声を掛けておく


「おう。まぁ、相方はここには上げねぇから大丈夫だぞー」

「は?」

「ご一緒にお食べになっていかれたらよいのに」

「色々と気まずくならねぇかい??」

「桜がお世話になっているお相手なのですから、私は平気ですよ」

「そうかい」

「は…はっ!」


ようやく理解したらしく、顔を真っ赤にして慌てだす致佳人


「面白いなぁ」

「ですねぇ」


そんな彼を温かな目で見守る二人

さて、三人が起きてこないようならそろそろ起こしに行った方がよさそうだ


はなは魔法の呪文で起きてくれるが、二人はそうではないのでどっちにしろ二階に上がる必要がある

折角の朝御飯が冷めてしまわないうちに起こしに行ってしまおう

そう思って春が腰を上げようとしたところ、居間に誰かが姿を現した


「遅くなってすまない」

「まぁ」


姿を現したのは桔梗だった

身支度を整える暇もなく急いで部屋を出てきたのだろう

少し乱れた髪に、寝崩れた着物

寝起きゆえの気怠そうな瞳

なんというか…全体的に色っぽい

桜の件でそういうことに敏感になってしまっている致佳人くんには少し刺激が…


「……」


やはり強すぎたみたいだった

ゆでダコの様に真っ赤になってしまっている


「桔梗、そのような姿ではいけません。そこに座ってください」

「? あぁ」


春に注意されたことをよくわかっていないまま、春に言われたとおりに座る桔梗

春は洗面所から櫛を持ってきて、大人しく座る桔梗の髪を梳いてやる

彼女の髪はサラサラとしていてとても手触りがいい

少なくても此処に来てからの彼女と自分のシャンプーは同じはずなのだが、何故こんなにも手触りが違うのだろうか

シャンプーといえば、桔梗が此処に来た時の夜、お風呂の入り方がわからないと言った時は驚いた

記憶が無いからだと思ったが、果たして本当にそれだけなのだろうか

それに、梳く度にふわりと花の香りがするのも不思議だ

彼女の大切な人もそう思ったのだろうか


「はい。終わりました。後は着物を少しなおしましょう!」


ささっと着崩れた着物を直してあげると、彼女は申し訳なさそうにお礼を言った


「いえいえ。…昨夜はよく眠れましたか?」

「…! あぁ、眠れた」

「そうですか、よかったです」


石田三成の事もあったので、良く眠れなかったのかと心配していたが、どうやら大丈夫そうだ

彼女は前を向けている

と、その時ユラリと橘が居間に姿を現した


「!!」


致佳人が声にもならないほど驚いて橘を迎えた


「茶」

「え?」


きょとん、とした致佳人が正面に座った橘を見つめる


「茶だ」


再び同じ単語が発せられた

しかし、あまりの迫力にビビった致佳人は反応ができない


「…!」

「橘は朝、駄目でなぁ。食えば少しはしゃっきりするんだが」

「すみません。お茶持ってきますね」


桜のフォローが入り、春が橘に気が付いて急ぎ茶を入れてこようとする

だが、桜がそれを止めて立ち上がった


「いや、茶は俺が持ってくるからはなの方頼めるかい?」

「はい。お願いします桜」


桜ははなを起こすことを頼んで居間から出ていく


「春さん。は、はなさんもまさか、橘さんみたいに…」


完全に怯えきっている致佳人は泣きそうな顔で尋ねてきた

はなが橘と同じような感じで起きてきたらそれはそれで大変である


「いえ。そんなことはないですよ。寝られる時はずっと寝てますけど」

「じゃ、どうすれば」

「はなには魔法の呪文があります。致佳人くん、今日の献立を大きな声で言ってみてください」

「は、はい。えっと、ハムエッグ、コンソメスープとポテトサラダとあと、明太子のパスタ」


意味を良くわかっていないまま、致佳人が朝のメニューを声に出した

すると、物凄い勢いで居間に人が入って来て、席に着いた

言わずもがな、はなだ


「いつもいつも見事なものだな」


桔梗が感心する様に言った

本当に、麺のことになると素早い





[ 32/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -