ゆっくりと閉じていた目を開く

眼前に広がるのは闇

その暗闇に揺らいで灯る蝋燭の火

あぁ、違う

此処にはいない


「あれ? どうしたの?? もしかして寝てたのかな??」


暗闇から少年のような少女のような声が、愉快そうな声で問いかけてきた

暗闇の中で紫色の瞳が楽しそうに細められた


「…どうやらお疲れみたいだね。 それじゃ、僕たちはそろそろお暇しようかな。体調には気を付けてね治部少殿?」


立ち上がり、去っていく金髪の少年に隻眼の男と、黒髪の女がついていく

彼らに言葉を返さず、それを見送ってから、再び瞼を下す

もう一度目を瞑れば、次は思い出せるだろうか

自分を待っている人を

その名を…








「殿」


すぐ近くで声がした

閉じていた目を開けると、そこには見知った男が立っている


「体調が優れないのでしたら、お部屋の方にお戻り下さい」


男はこちらを労る様に言葉を続けた


「いや、体調が優れないのではない。…お前は前世の記憶が全てあるか?」


単純な問いかけだった

問い掛けられた男は、即座に肯定した

生まれた時から死ぬその時まで憶えていると

そう、自分も全て憶えている筈だった

少なくとも今まではそう思っていた

けれど最近になって、まだ何か大切なことがあるのだと何処かで訴えかけてくる自分がいる

記憶が不十分なままの先祖返りなどない筈だ

だが、自分は何処か欠けているのかもしれない

それが、何処なのかはわからないけれど





自分は百姓の家に生まれ、寺に奉公にいき、そこであの方と出逢った

あの方に仕え、最期は信念の元、命を終えた

そう、憶えている筈だ

欠けている事などないのだ

やはり気のせいだったと思い直そうとしたその刹那、白い花が目の前に広がった

いや、実際には広がってはいない

自分だけが視えている白い花

この花を自分は知っている

彼女の花

独りきりになってしまった

否、してしまった人

その全貌は未だに思い出せないけれど

確かに居た人

自分が犯した過ちの犠牲となった人

その人の事を想うだけで胸が潰れそうなくらい苦しかった…





ーENDー

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