桔梗が二階へと上がった後、居間に残った五人は今後について話し合った

とはいっても、話し合ったのは実際には春と橘、桜であったが

まず、桔梗の記憶のこと

これは、関わった以上最後まで見届けることを決めた

次に致佳人のこと

彼が寝泊まりする場所を決めた

他には致佳人のことをここの所有者、つまり秀次に報告をすることを決定した

この時点ですでにはなと致佳人は居間にはいなかった

はなが致佳人に家の中を案内しているらしい


「ふふ。お二人は本当に仲良しなんですね。初めて致佳人君がここに来た時から」

「……」


春の言葉に橘が不満そうに顔をしかめた

それに気づいた桜と春が困ったように顔を見合わせる

橘ははなに関しては殊更感情的になる

彼にとってはながいかに大切かがわかるので、とても可愛らしいのだが、致佳人が此処に住むことになった以上、今回のようなことは多くなるだろう

その度にこうも機嫌を損ねられては大変である

春はどうしたものかと考え、隣の桜の顔を見上げると、にこにこ笑顔で春を見ていた

その笑顔から桜の考えを読み取った春は、桜に苦笑を返した

桜もまた、春から彼女の考えを読み取ったようだった

桜がよいしょと立ち上がる


「んじゃあ、俺ははな達の様子を見てくるなぁ」


そのまま居間を出ていった桜

居間に残された二人は何も話さない

さて、どうしたものかと春が心の中で呟く


「橘」

「…なんだ」

「先ほどはありがとうございました」


突然の春からの感謝の言葉に、橘は首を傾げる

何か、礼を言われるような事をしただろうか

不思議そうにしている橘を見て、意味が通じていないことを察した春が言葉を加えた


「先程、桔梗が怖がった時に背中を押してくれたではないでしょう? 今は多分、辛くて悲しいとは思いますけど、彼女は前に進めたと思います。
 それに、橘に言われて私も気づきました。大切な人こそ忘れたままにしておくなんてできませんよね」
 

その人が大切であればあるほど


「俺は別にそんなつもりで言ったわけではない。あのままでは埒が明かないと思っただけだ」

「はい。桔梗を思ってのことなんですよね」

「だから違うと言ってるだろう」

「はい。わかってますよ」

「…わかっていないだろう」

「そんなことないですよ?」


このままでは本当に埒が明かないと感じたのか、橘は小さく溜息をつくともうそれ以上は何も言わなかった

春も春で、ここは譲る気はなかったのでそれは賢明な判断であったと言わざるを得ない

橘が優しいことは知っている

それはきっと春だけではなく、桜やはな、桔梗も


「橘」

「なんだ」

「なんでもないです」

「…あまり、溜め込むなよ」

「…はい。ありがとうございます橘」


変わらなくてもいいなんて

思い出さなくてもいいなんて

そんなものは自分の勝手な願いで

彼女が、桔梗がやってきてから少なくとも春はより一層楽しい日々を過ごしてきた

勿論、今迄も楽しかったのだが、仕事で此処を空けることが多かった三人を一人で待つことは寂しかった

仕方のないことだと割り切ってはいたが、それが桔梗が来たことで寂しくはなくなった

それが、思い出すことで変わってしまうのなら

桔梗には思い出してほしくない気もする

そんなことは口には出せないけれど

大切な人との思い出が甦って泣いてしまうのなら…

どうか、彼女にとって少しでも良い結末であってほしい

神様がいるのならば、彼女に救いを

春はそう願わずにはいられなかった






-be continue-

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