桔梗は秀次と神言を桔梗がいる居間に通した後、秀次の分のお茶を用意しに台所に行った

春が茶を淹れている間

桔梗と秀次(神言)は向かい合って座っていた


「初めまして。僕は秀次って言うんだ」


桔梗に微笑んで自己紹介した秀次

彼女はチラリ、と視線を手に持っている湯呑から秀次に移した


「秀次…?」

「…うん、そうだね。君にはそう呼んでくれると嬉しいな。…それで、君が桔梗だね? 話は桜や橘から聞いているよ」


橘と桜の名が出て来たことに疑問を持った桔梗が正面に座る男に興味を持った


「君は一体?」

「僕は此処、裏七軒の現在の持ち主。此処に新しい住人が増えたって聞いてね。会いに来たんだ」

「此処の? …これは失礼した。此処に世話になっている者で桔梗という」


この家の持ち主と聞いた桔梗は持っていた湯呑を机の上に置いて綺麗にお辞儀をした


「うん。よろしくね。それで君には記憶が無いって彼らから聞いてるんだけど」

「ああ。私が覚えているのは名だけだ。面倒な身の上だということは重々承知している。申し訳ない」


再び深くお辞儀をした桔梗に秀次は気にしないで、と言わんばかりに笑った


「今日僕がここに来たのはね、君に会ってみたかっただけなんだよ」

「私に、か?」

「そう。と言っても正確には神言がなんだけどね」


秀次が後ろにいる神言の方へ顔を向ける

すると神言が秀次の前に進み出る


【そうだ。…お主は桔梗、という名で間違いはないな】

「ああ。それだけは断言できる。私の名は桔梗だ」

【そうか。お主はやはり…】


桔梗の答えを聞いた神言が何かを考える様に視線を下に落とした


「君は私を知っているのか??」


神言の反応に桔梗がもしやという表情で尋ねた

しかし神言は首を横に振り、秀次のそばに戻った


「さてと、神言の用も終わったみたいだし…神言」

【応】


秀次は神言の方へと体の向きを変え、神言はふわりと浮いた


「”ひと生らざる貴きものよ 血で盟約せし≪隠威≫よ 我 豊臣の主として問う ≪かの訪れは吉か 凶か≫」

【≪それはかの者のみ知る≫である】

「うん? それはどういうことだ神言」

【かの者が判断することであり、我には判ずることはできぬ】

「それはまた、彼女の記憶に左右されるってことかな??」

【然り】


眼の前で行われているやり取りをよく呑み込めないまま、呆然とする桔梗をよそに二人は話を進めている

秀次の隠威、神言は主の命により対象者の予知を行うことが出来る特殊な隠威であった

しかしそんなことを今日初めて会い、しかも記憶のない桔梗が知る由もなかった


「彼女もまた、春と同じ特例か…」


うーん、と秀次が何かを考える様に宙を見つめていたところお茶を用意し終わった春が居間に戻ってきた


「お待たせしてすみません。どうぞ」

「ああ、ありがとう」


秀次は礼を言った後、春が用意したお茶を啜った


「うん。やはり春はお茶を淹れるのが上手だね」

「いえ、そんなことはありません。ところで秀次さん、今日は何の御用なのですか?」

「用ならもう終わったよ」

「え?」


きょとん、とした春ににっこりと微笑む秀次


「彼女、桔梗に会いに来たんだ。この裏七軒の新たな住人だしね。挨拶をしておこうと思って」

「そうだったのですか。ならば事前に連絡をくださればよいのに」


先ほど秀次の突然の来訪に慌てたので少し不機嫌気味に春が言った


「ごめんね。そうしたら橘や桜、はなが同席するって言い出すと思ってね」


秀次は春に謝罪し、そう言った


「はな達がいては不味いことでもあるのですか?」


彼の言い方ではまるではな達には聞かれたくないことがあったみたいだった


「そういうわけではないんだけどね」


しかし秀次は明確にその意を示すことはなかった

相変わらず謎の多い人である


「? ところで最近は何か大きな動きはありましたか?」


ニコニコと笑うだけでそれ以上は何も言わない秀次に内心疑問を感じながらも彼の近況へと話題を移した




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